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042 昼食会①

 場所を変え、レーイチ達は小さな小洒落たカフェに来ていた。区長という肩書から、もっとお高いレストランなどに通されるのかと思ったが、その予想は外れて意外にも一般庶民が通うようなお店であった。


 ハルマは常連客の一人なのか、店員も周りにいる人達も来店したハルマを見て特に緊張したようなそぶりはなく、ごく普通の近所の一人に世間話をするように声をかけられていた。


 話が長くなると察したラーサはレーイチとアクセリアを席に着かせた。そしてメニューからお互いに好きなものとハルマがいつも選ぶものを先に注文を済ませ、レーイチ達はハルマの会話の様子を何となく眺める。その様子を見たレーイチはハルマの区長という堅苦しいイメージが段々と無くなり、多くの人に頼られる身近な存在のごく普通の人間なのだと認識させられる。


「ハルマ区長のイメージは変わりましたでしょうか?本人は世間話と言いますが、ああやって人々の意見を聞いているのです」


「正直、区長という肩書が尾を引いてどこか堅苦しいイメージがありましたが、こういうところを見るとその肩書のイメージはこっちの思い込みだったって思いますね」


 ラーサの問いにレーイチは思ったことを素直に答えた。


「それが普通だと思います。ああやって声を掛ける人々も最初は同じだったと思います」


「私も住んでいるのが反対側の東区だから西区のことはあまり分からなかったけど、不思議とあの区長がいるなら安心って思うわ」


「恐縮です。仰る通りあの方はこの地区に必要な方なのです。それを守ったあなた方はこの地区の救世主とも言えます」


「それはちょっと言い過ぎですよ。さっきも言った通り、当たり前のことをしただけですから」


 レーイチはそう謙遜するが、実際に人から感謝の言葉を貰うのは素直に嬉しかった。


 そして料理が運ばれてくるタイミングでハルマも一通り話を終えてレーイチ達の席に戻ってきた。


「いや失礼。つい話し込んでしまいました」


「気にしないでください。こちらも普段の様子が見れて親近感が湧いてきました」


「そうですか。そう思っていただけたのであればこちらもありがたい限りです」


 そしてテーブルに運ばれたサンドイッチとコーヒーを一緒に食べながら昼食会が始まった。


「そういえばハルマ区長は所長をご存知何ですか?」


「ええ勿論。アザト・マルトリスと言えばその卓越した頭脳に女王陛下の側近として見初められたことで我々の中では有名ですからね。祝宴の場などで話したこともありますよ」


「「え?」」


 それを聞いたレーイチとアクセリアは驚きの声を上げる。


「え?所長って女王様の側近何ですか?」


「おや?聞いてないのですか?結果的には個人営業をしていきたいからと最初は断り、それでも女王が粘りに粘って何とかあの魔女を舌戦の末に秘書兼相談役という役職に着かせたと聞いておりますよ」


「何なんだうちの所長」


 掴みどころがなくどこか煙に巻くような正体不明の大物だとは思っていたが、国の重要な役職についているなど知る由もなかった。


「あの、俺、コンバーターっていう分類で外の世界から来たんです。無知で申し訳ないですが相談役って何してるんですか?秘書っていうのはどう見てもうちの所長、自由奔放過ぎてその仕事してないように思いますし、秘書はただの隠れ蓑で主な目的って相談役ですよね」


「なんと、コンバーターの方ですか。もしかしたら今後息苦しい場面に合うこともあるかもしれませんが、どうか恨みを持たないでいただきたい。時間はかかりますが私も差別排除に向けて尽力します。さて、仰っしゃる通り秘書というのは女王が他と摩擦を少なくするためにつけた役職で、狙いは相談役です。ですがやることは女王が無理矢理に用意した椅子なので政治の聞き役とアドバイスとしか言えませんね。詳細に何をとまでは私も分かりません」


「いえ、ありがとうございます。ちょっとうちの所長、謎が多いので」


 アザトの知らない情報をもう少し掘ることができるかと思ったが、それ以上はブラックボックスということが分かった。恐らく本人に聞いても煙に巻いてまともな回答はしてこないだろう。


「レーイチさんはコンバーターとおっしゃってましたね。実はラーサもコンバーターなのですよ」


「え!?そうなんですか!?」


 レーイチはここでコンバーターという人種に出会ったことに驚いたのは勿論、同郷の人に出会えたことがとても嬉しかった。


「どこ出身ですか?俺、日本です」


「ふふ、名前を見れば分かりますよ。私も名前はラーサと名乗ってはいますが、北欧生まれの両親が日本で働いていたこともあって日本生まれの日本育ちです」


「へぇー、同じ日本ですか。同郷の人に今まで会えなかったのでちょっと心寂しかったんです。家族も友達も誰もいない世界に来て、同郷の人はいないんじゃないかって実は不安だったんです」


「レーイチ……」


 以前家族も友達も知ってる人がいないことを整理しきれていないとレーイチが漏らしたことをアクセリアは思い出す。普段そのような弱みを見せてこなかったのはレーイチなりにそう強がっていなければ心を支えられなかったのだろう。だがここで知人とは違うが、同郷の人に出会えたというだけでもレーイチはとても嬉しそうだった。


「コンバーターの人口は少ないですが、ちゃんと居ますよ。私も同じ同郷の人に会えて嬉しく思います」


「俺もです。ラーサさん」


 そしてレーイチとラーサはお互いに微笑み合い、同郷の人との出会いを喜んだ。

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