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036 ご機嫌斜めの帰宅

「ただいま戻りました」


「……ただいま」


 魔女の時計の事務所の扉を開け、レーイチとアクセリアは帰宅の挨拶をする。だがアクセリアはどこかムスッとした表情をしていた。


「おかえり、レーイチ、アリア。早かったね」


「いや、普通に夕方ですからね?」


 レーイチとアクセリアは出発が少し遅れたこともあったが、夕方の時間となったため帰ってきた。


 そしてアザトはレーイチの隣のアクセリアがどこか不満気な様子に気が付いた。何をやらかしたのかを問いただすため、アザトはレーイチだけをちょいちょいと手招きする。


「で、何したの?」


「俺は何もしてないんですがね……」


「それ、何かしでかした人間が言う台詞のナンバーワンだよ」


 アザトはレーイチがアクセリアに何かをしでかしたと踏んでいた。むしろそうでなければアクセリアが不満な表情を見せる要因が見つからない。


「昼を過ぎまでは普通に楽しくいたはずなんですけどね……帰りが近くなってからちょっと今の感じに……」


 それを聞いてアザトはアクセリアの方が今日は帰る気が無かったのかと思ったが、アクセリアが放つ雰囲気はどうにもそれに合致しなかった。本当に何をしたのかと推測していると、そこにサクラが夕食の準備にとりかかるために姿を現した。


「あ、サクラ、ただいま。これサクラにお土産」


 レーイチはそう言ってサクラに紙袋を渡す。サクラはレーイチからのお土産にそっぽを向こうとしたが、紙袋に掛かれている五つの花弁の桜の花を見て思わず目が奪われた。


 レーイチが手に持っていたのは有名和菓子店のものであり、サクラが好物としている羊羹であった。


「どういう風の吹き回しかしら」


「いや、ただの日頃のお礼だよ。毎日訓練付き合ってくれたお礼とでも思って受け取ってくれないかな?」


「……そう。気が利くのね。ありがたくいただくわ」


 サクラは表情を変えず、その紙袋をレーイチから受け取る。だがどことなく表情が柔らかくなったような雰囲気が垣間見えた。


 そしてそれを見ていたアクセリアは更に口をへの字に曲げていた。


 アザトは原因が分かり、すかさずレーイチの頭を叩く。


「痛っ!何するんですか所長」


「レーイチ、それだよ」


「?」


 何の事かと分かっていないレーイチにアザトはため息をついた。肝心なところで下手を打ったなと直感した。


「やれやれ……手が掛かるね。レーイチ、サクラに送るものの前にアリアには何か送ったの?」


「あっ……」


 そこで初めてレーイチは自分のミスに気が付く。言い訳をすると、途中でサクラの話題になり、訓練のお礼をしていないから何かお礼をしなければと思い立った。だがそれは結果として順番を間違えていた。今日一日デートをした相手に何も送っていないどころか、その女の子の前で別の女の子にプレゼントを買って、目の前で渡すという傍から見ればそれは残虐非道な行為と言っても良いものであった。


「……アリア?」


 レーイチはアクセリアの方を向くとアクセリアはプイっとそっぽを向いた。血の気が引くレーイチ。空気が悪くなった魔女の時計の事務所。レーイチはこんなはずでは無かったと今更ながら後悔した。


 レーイチの失態により動きにくくなったサクラはため息を吐くと、受け取った紙袋をレーイチに突っ返した。


「いらないわ。今日は食べたい気分じゃないの」


「でも羊羹って日持ちする……」


 そこまで言いかけたところでサクラから殺気が飛んでくる。これには流石のレーイチも意図を察した。そして情けないことにレーイチは渡したものを再度受け取ることになった。さっさとアクセリアの機嫌を取れとのサクラの圧力にレーイチは素直に従うしかない。


「えーと……アリア……その……最後に下手を打って本当にごめんなさい。非常に情けないのですが、周りからの同意を得たうえでこいつで許してください」


 そしてレーイチはサクラにあげるはずだった羊羹を差し出す。


 アクセリアはレーイチを見ると本当に反省をしていること、あげたものを突っ返されて恥を忍んでしてくれたことから自分も少し感情的になっていたと思った。


「……ごめんなさい。私も気分を悪くするようなことして。お互いに気を付けましょうか」


「イエス……」


 しゅん……と小さくなっているレーイチを見てアクセリアは思わず笑ってしまう。アクセリアはレーイチがそれだけ自分のことを考えてくれたことが垣間見え少し嬉しくなった。


「せっかくだからこの羊羹はみんなで分けて食べましょう」


 アクセリアの機嫌も直り、魔女の時計にはいつもの雰囲気が戻ってくる。レーイチの初めての街へのおでかけはこうして忘れられない一日となったのだった。

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