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034 アクセリアの昔話

「ま、俺の話はこのくらいで、逆にアリアのことも教えてよ。田舎出身のお転婆娘ってくらいしかアリアの昔話を知らないし」


「ちょっと今馬鹿にされた感じがするけど……まあいいわ」


 レーイチを一度小突きたい気持ちを抑え、アクセリアは自分のことを話し始める。


「前にも言ったけど、私は酪農家の娘なの。牛乳とあとは野菜を売って生計を立ててるまあよくあるそんな家。家族は父、母、兄、私、弟、妹の六人家族よ」


「兄弟多いな。すごく賑やかそう」


「ええ、賑やかも賑やか。毎日父親と私に叱られる弟は日常の一部だったわね」


 アクセリアは家族の団欒を思い出し、楽しそうに笑った。


「レーイチみたく心に響くような話はないんだけど、うちの家訓は働かざる者食うべからずかしらね」


「はは、さっきの日常の話で何か凄く納得できるな」


「そうでしょ。手伝わないとごはん抜き。私も最初は嫌で何回か逃げて怒られたけど、弟が出来てからは自然と手伝うようになったわね。弟は妹がいても逃げて何回もご飯を抜かれてたわ。で、あとでこっそり私が持って行ってあげたの。今はどうしてるかしら。まだ逃げて飢えてなければいいけど」


 その状況を想像し、レーイチとアクセリアは二人とも笑ってしまった。


「面白いな……それにアリアのその優しさというか面倒見の良さはそこから来てるのか」


 レーイチはアクセリアの今の性格がその兄弟の関係の中で非常にぴったりと当てはまっているように思えた。


「そんな家なんだけど、前に話をした通り、ある日突然、私にセブンスコードのアクセスコードが宿ったの。私の鍵の痣を見て、お父さんが娘に傷をつけたのは誰だって大騒ぎ。私も初めは信じられなかったわね」


「ああ、前言ってたな。まあ大事な娘だから当然か」


「あはは、覚えててくれてありがとう。でもアクセスコードは公表しなければならないものなの。仕方ないけど決まりだから公表したわ。その結果、まあ家に色々な人が来るわけよ」


 アクセリアはここからは嫌な記憶だとため息をついた。


「どんな人が来たんだ?」


「もう色々。政府関係者、メディア、変な団体……それはもう家を出れないわよね。家族に迷惑をかけて、それで実は私、そこから長いこと部屋に引きこもってしまったの」


「そうだったのか……大変だったな……それは……」


 今の明るいアクセリアが、まさか引きこもっていたと言うこと自体が信じられないものだった。それはきっと家を取り囲まれ毎日のように人が訪れるような状態だったのだろう。自分のせいで迷惑をかけていると追い詰められ、日に日に疲弊していく様子が容易に想像できた。ましてや子供の時にそれをされては簡単に心が壊れてしまっておかしくない。


「それで、それを助けてくれたのが所長なの。ある日ピタリと誰も来なくなって、代わりに所長が家を訪れてきたわ」


「何それ、急展開すぎて怖い」


 政府関係者やメディアを黙らせるアザトの謎の権力にレーイチは逆に恐怖した。レーイチは本当にヤバい人物に目をつけられてしまったようだ。


「それで、所長は各所に家族に手を出さないよう働きかける代わりに、私に魔女の時計に来て欲しいって言ってきたの。勿論お父さんは反対したんだけど、私としてはこのまま家族に迷惑をかけるほうが辛かったし、私が居ることで周りから変なこと吹き込まれて家族に嫌な思いをさせることのが辛かったから、離れることを選んだの」


「そっか……辛かったな……アリア……」


 楽しい日々を送っていたアクセリアが日常を壊され、家族の元を離れる時の気持ちは、とても辛く悲しい気持ちだったに違いなかった。


「それから私はこの街に来て、魔女の時計に入ったの。その時からサクラは既にいたわね。実は私、最初はアンチコードと戦うことなんて考えてなかったのよ」


「え?そうなの?それなら何で戦うことに?」


「サクラがコンバーターへの憎悪を抱えたまま、いつか家族の復讐を果たすため、実戦を積むためにアンチコードと戦ってるって知って、何だか放っておけなくて。家族のためにっていうサクラはどこか私と重なるのよね。それでサクラが一人アンチコードと戦うのは危険だから、せめて一緒に戦えるようにって思って戦い始めたの。色々な人を助けてきて、そのおかげでこんな私も人の役に立てるんだって思い直せるようになったわ。所長の考えてることは分からないけど、良くしてくれるし、悪い人ではないと思ってるわ」


 一通りアクセリアの話を聞き終え、レーイチはアクセリアの背負ったアクセスコードの重さを再認識した。セブンスコードの中で唯一世代間で継承されない特殊なユニード。それを与えられた者には酷く残酷な現実があることを知るのは極少数だった。


「さて、暗い話はこれでおしまいね。レーイチも話してくれてありがとう。あなたのこと、凄く素敵な人だって思ったわ」


「それは俺もだよ。話してくれてありがとうアリア。そんな過去があるとは思ってなかった。でも、何ていうのかな……今の明るいアリアの方が凄く魅力的だと俺は思うよ」


「へ?」


 突然の不意打ちにアクセリアは顔が赤くなった。そして今すぐこの場から逃げ出したいという気持ちになる。


「バカバカ!もう出るわよ!」


「痛っ!」


 アクセリアはレーイチの腕を叩くと顔を見られないように急いで店の外に出る。レーイチもそのあとに続いて店の外へと出ることにした。

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