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033 レーイチの昔話

 王城から場所を移し、レーイチとアクセリアの二人は車の往来する街の中へ来ていた。街の中を歩きながら建物やそこに入っている施設や目的などをアクセリアは説明する。レーイチはアクセリアが指さす方向を見てその説明を聞きながら街の様子を興味深く観察していた。


 そして歩き回ったところで休憩を取るため、二人はカフェに入ると、レーイチはアクセリアを空いてる席に座らせ、注文を取るホログラムを操作し商品を頼むと、カウンターでカフェラテを受け取って向かいの席に座った。


「はい、アリア」


「ありがとう」


 そして二人は一息つくためにカフェラテを口に含み、コーヒーの苦みとミルクの甘みに癒された。カフェにはそれなりに人が入っており、レーイチとアクセリアのように若い男女も多く見受けられた。そこまで騒がしいというわけではないため、とある会話が聞こえてくる。


『ねえ、知ってる?西区で人が行方不明者が出たらしいのよ』


 ふとレーイチとアクセリアの耳にそんな話題が入ってくる。話しているのは近くの女性二人だった。


『何それ、怖い。知らない』


『それがね、被害者は夜の帰り道で消えたらしいの。夜だから人も少なくて目撃者がいないらしいわ』


『もっと怖い。しばらく西区には行けないわ。誰がやってるのかしらね。アンチコードなら早くゼドの人が解決してほしいわ』


 そんな話題が聞こえ、レーイチはアクセリアに聞いてみる。


「アリア、今の事件の話知ってる?」


「いいえ、初めて聞いたわ。西区だと尚更反対側だから情報が届きにくいのよね」


 こういった噂話のような類のものはニュースやSNSで伝わることもあるが、小さな事件となると人伝に伝わることが多い。それ故に得られる情報も少なかった。


「そっか、でも心配だな」


「そうね。でも西区にもゼドのチームはいるわ。私たちが行こうにも向こうから依頼が来ないとこっちの東の守りが薄くなるから下手に動けないのよ。大丈夫、ゼドは優秀な人が多いわ」


「そうだな、信じよう」


 レーイチは西区の事件が少し気がかりではあったが、ゼドには訓練されたアクセリアやサクラのような人物が多くいる。であれば下手に出張るより、そこは同じゼドの部隊に任せて、アクセリアの言う通り、東の守りを薄くしない方が重要であると思った。


「それにしても実際に街を歩いてみると、元々の住んでたところよりこっちの方が幾分か先の未来な感じがやっぱりするな」


「へえー、そうなの?」


「うん、まずホログラムに触れて操作とか読み取るとかがないからな」


 レーイチは前世の世界と今の世界を照らし合わせる。地球に居た頃は操作するデバイスはパネルに触るといった必要があるが、ゼプトは空間に映し出されたホログラムに触れて操作ができる。商品についてもゼプトではホログラムを活かして3Dで商品が表示されておりサイズの確認やイメージがしやすい。それが当たり前に整っているだけでも非常に先進的であると思えた。


「そうなんだ。私は田舎出身の身だけど小さな時から普通に運用されてたから特にその感覚は無いのよね。逆に地球ってどういうところか気になるわ」


「地球がどういうところって言われてもなぁ……」


 レーイチは、さてはて困ったと頭を掻いた。


「地球は宇宙から見ると青い星だよ。そのほとんどが海なんだけどさ。もちろん人が住む陸があるんだけど、そこではゼプトと同じように人が住んで、働いて、笑って……そういうとこはこっちと変わらないかな。違うのは今言った通りホログラムもないし、ロボットが街中を警備したり掃除したりなんてしてないよ。あとはアンチコードって怪物とコードを使った武器や技術、ユニードか無いところぐらいかな」


「アンチコードがいない世界か……平和そうね……」


 アクセリアはゼプトの世界で当たり前となっているアンチコードの襲撃がない世界と聞いて地球が少しだけ羨ましくなった。


「まあそれはアンチコードと戦ってないってだけで、視野を広げると何かと人間同士で揉め事はあったよ。国と国とのぶつかり合いとかね。でも俺の住んでたところは少なくとも今のこの街みたいに人が幸せに暮らしてたかな」


 レーイチは前に住んでいた世界を思い出し、どこか懐かしそうに話をした。


「そうなんだ。レーイチがそう言うなら、素敵な街に住んでたのね。レーイチのこと少し聞きたいのだけど大丈夫?」


「答えられる範囲でなら」


「変なことは聞かないわよ」


 レーイチの了承も得たことでアクセリアはレーイチに質問する。


「レーイチって、前の世界では何してたの?家族とか友達とかは?」


 アクセリアはレーイチのことを知るため、その過去を聞くことにした。


「何してたかと言えば、学校に行って普通に授業受けて勉強してるような人間だったよ。特に何ができるってわけでもない何処にでもいる普通の高校生。共働きの両親に育てられた一般市民だよ。一人で家に居ることも多かったから、おかげで家事のスキルは身についたかな。あと友達とは一緒にゲームして、漫画を貸し合って、それについて感想を言い合って、楽しい日常だったよ。でもまあ、その日常はこっちに来ることになって終わったんだけどさ。家族も友達もいない新しい世界に放り出されて焦ったよ」


「レーイチ……」


 レーイチは笑って誤魔化しているが、アクセリアにはレーイチが強がっていることが分かった。今も家族と友達を失った心の傷は癒えていないのだろう。


「ああ、ごめん。ちょっと湿っぽくなった。いやまあ、知ってる人が誰もいない状況になったのは今も正直気持ちの整理が出来てないんだけど、アリアとか所長とかサクラに出会えて助かったよって話。そう言えばいつの間にかこっちに来て結構経ったな」


 レーイチはゼプトでの生活に慣れ、いつの間にか前の生活がどこか懐かしいと思うようになっていた。


「そうね、レーイチが来て、レーイチと私が出会って二か月ね。レーイチにとっては時間が歪んでるからもう半年の感覚かしら」


「あれだけ長いこと時間歪めるって所長のコードどれだけあるんだろうな……」


「所長曰く、決まった空間の時間をいじるのはそう難しいことでは無いらしいわ」


「訳が分からないけど流石のセブンスコードってところか」


 またしてもアザトの謎が増えた。


「それで、レーイチって結構色んな人と繋がりがあったのは分かったのだけど……その……こ、恋人……とかはいたの?」


 アクセリアはなぜ自分がこんなことを聞いているのか分からなかった。聞いた後でなんて事を聞いているのだろうと自分の顔の方が赤くなってしまった。


 それについてもレーイチは素直に答える。


「いなかったよ。まあ彼女を作ろうって積極的ではなかったのもあるけど」


「そ、そうなんだ……」


 アクセリアはそれを聞いてなぜかホッとする。


「レーイチと初めてあったあの時、命の恩人を見捨てるのは後悔するって言ってた気がするけどどうして?それだけで何でそこまで頑張れるの?」


「あー……これは父親の教え……というかこれは死んだ爺ちゃんの影響か……」


 レーイチはアクセリアに聞かれて記憶を巻き戻し、なぜ自分がこの考えを持つようになったのかを話し始めた。


「命の恩人には礼を尽くせ。家族と友は大切にしろ。借りは必ず返せ。子供は必ず守れ。人の役に立て。自分の心に従ってから後悔しろ。なんて他にもまあ、いっぱい色々言われたんだよ。小さい子供の頃から言われても、そんなの子供に分かるわけないだろって」


 レーイチは懐かしそうに祖父のことを思い出しながら話をする。そんなレーイチをアクセリアは黙って聞いていた。


「でも、爺ちゃんが天寿を全うして死んだ時、爺ちゃんは全てやりきった、後悔は何もないっていうような顔だったんだ。亡くなった人を見て不謹慎なとこはあるかもしれないけど、正直そんな人生を送った爺ちゃんは格好いいと思った。正直憧れた。そして今まで教えてくれた言葉の意味に気づいたと同時に、教えてくれたお礼を返してないってことに気が付いたんだ。もう返す相手はいない。でも爺ちゃんならきっと、そんなのは他の人にしてやれって言うだろうな。今の俺は……まあ何ていうのかな……教えて貰った言葉を胸に、自分の心に従ってるだけだよ」


 レーイチは久しぶりに祖父の話をした気がした。思い返せば今の行動原理はきっとここから来ているような気がした。


「とても素敵な人だったのね。感動しちゃった。大丈夫、レーイチはその言葉をちゃんと実行できてるわ」


 アクセリアの目元で雫がキラリと光り、レーイチがなぜアンチコードと戦うと決めてくれたのか本当の真意を知ることが出来た気がした。そしてそれを話してくれた事が何よりも嬉しかった。

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