030 女の子は準備に時間がかかる
爽やかな朝が訪れる。空は青く、まさにお出かけ日和であり、今日一日の活動が本格的に始まろうとしていた。そんな中、レーイチは事務所の椅子に座ってボーッと時間を過ごしていた。
「アリア遅いな……」
「女の子は準備に時間が掛かるものだよ。それに街を見たいって言ったのはレーイチじゃなかったかな?」
「それはそうなんですけど……」
なぜレーイチが一人で待ちぼうけをしているかというと、事の始まりは昨晩のレーイチがゼドに所属が決まった祝いの席でのことだった。
「レーイチはこれから何かしてみたいこととか欲しいものはある?ずっと地下で訓練続きだったから何かストレスの発散的なものが必要だと思ってるのだけど」
アクセリアのその問いにレーイチは「そうだなぁ」と自分が今求めているものを考えた。
「……ずっと中に籠もってたから街を見てみたいな。これからこの街を守るぞって意気込んでる割に、俺この街のこと何も知らないんだよな」
「それもそうよね……。思えばレーイチがこっちに来てから地下でずっと訓練で外に出てないわね」
「アハハ、引きこもりってレベルじゃないよ、レーイチ」
「忘れてるみたいなので言っておきますが、無理やりなスケジュール組んでそう仕向けたのは所長ですからね?」
愉快に笑ってるアザトにレーイチは思わずあの無茶苦茶なスケジュールを通したアザトに小言が漏れた。
「ごめんね、鉄は熱いうちに打たないといけないからね」
「まあお陰で力を付けることできたのでそこは感謝してます」
何だかんだとレーイチはアザトの思惑通りに力を付け、ゼドへの所属まで至ることができた。この先にアザトが何を思い描いているのかは分からないが、本人もそれを口にすることはない。レーイチは話題を元に戻すことにした。
「それで街を少し見て回りたいんだけど、アリアは明日予定ある?良ければ街の案内してほしいんだけど」
「ええ、予定はないわ。一緒に行きましょう」
「ありがとう、アリア」
明日の予定を取り付け、レーイチは久しぶりの外出に遠足に出かけるようなワクワク感が出てきた。
「いいねぇ、二人は早速明日デートか。訓練期間を通してどこまでいったのやら」
アザトがニヤニヤと二人をからかった。それを聞いたレーイチとアクセリアは急に顔を赤くした。
「デ、デートじゃ……あれ?アリア、これってデートか?」
「私に聞かないでよ!もう!」
レーイチの否定しきれない様子とそれに戸惑うアクセリア。アザトはその様子が可笑しくて笑い声が漏れてしまっていた。
そんなやり取りがあった昨日から夜が明け、街の観光に行く当日となったのである。
レーイチは何となしにアクセリアを誘っただけであるが、思い返すほどにアザトの言う通り男女二人で街に出かけることをデートと言わずして何と言うのか適切な言葉が見当たらなかった。意識の外にあったものが急に渦巻きだし、ごちゃごちゃとした感情に頭を支配されてこの後どのように振る舞えばいいのかが分からなくなってきた。
レーイチが頭の中を掻き回されている中、もう一つ上の居住階からは声が聞こえてくる。
「ねえサクラ!こっちとこっちどっちがいいと思う!?」
アクセリアの部屋では衣服が散らかり、サクラは無理やりアクセリアの部屋に連れ込まれて意見を求められていた。
「なぜ私に聞くの?好きなものを着れば良いのよ」
「そういうことじゃないの!」
「知らないわよ。前と同じ服で行ってきなさい」
「あれはいつもの出かけてる服だからほら、何か特別感無いでしょ!」
「あなたはあのコンバーターにいつもの服を見せたことないと思うけど」
「くっ……確かに……でも……」
サクラの正論にアクセリアは反論ができない。アクセリアはただサクラに背中を少し押して貰いたかっただけだった。このままではいつまで拘束されるか分からないと思ったサクラは、不本意ながらもアクセリアの気持ちに応えることにした。
「……右の服。赤が入ってないとあなたの、アリアらしさが足りないと思うわ」
「ありがとうサクラ!!」
そして再びドタバタと騒がしい音が響く。長いこと服選びに時間を掛けてしまったためにアクセリアは他の準備を急ぎ行う。サクラはそんなアクセリアの様子にため息をつくと、アクセリアの準備を何となしに手伝い始めた。




