026 ゼプト防衛機構入隊試験③
模擬戦闘のスペースでは既に派手な音と土煙を上げて試験が始まっていた。
レーイチが対峙したアンチコードのガロンから一回りは小さいだろうか。しかしそれでも十分に大きいと言える巨体のロボットが動き周り、現在立ち向かっている入隊希望者は為す術がないといった様子であっさりと場外へと吹き飛ばされていた。
ロボットは目標を場外へ飛ばしたことで目的遂行完了といったように動きを止め、次の希望者を待つかのように初期位置で静止した。
「おいおい、あのロボット容赦が無さすぎるだろ。カウルを使ってる人間を上回ってるじゃないか」
辺りからは今の戦闘を見て怖気づくような声が漏れ出していた。
この入隊試験を希望している参加者は少なくとも戦える自信を持ってきたはずであった。
しかし目の前にはその自信を打ち砕くロボットが佇んでいる。試験ではロボットに勝てとは言われてはおらず、どう対処できるのかを見られている。しかし抵抗することすらままならないというのが今現在の参加者達の抱いた感情であった。
「この程度で怯んではアンチコードと戦うなどままならないぞ。怖気づいたのであれば今後実戦で命を落とさないためにも棄権を申し出たまえ。こちらも無駄に命を落としてほしいとは思ってはいない」
試験監督のその言葉は怖気づいた者たちに深く突き刺さる。今一度、参加者は自分がなぜゼドへ入りたいのかを問われていた。自分の命をかけてアンチコードと本当に戦えるのか?怖気づいた自分にその資格があるのか?そのような思考が巡っているようであった。
「次、やりたいものは居るか?」
しん……と静まり返った模擬戦闘。そこに一人手を挙げる人物がいた。
「あの、誰もやらないなら俺が先にやってもいいですか?」
その声の元はレーイチであった。その発言には視線が集まった。
「君は確か、コンバーターのレーイチ・シンドウだったか。先の模擬戦闘も見て、今の話も聞いた上でやると?」
「はい、俺はゼドに入隊したい。初めてアンチコードと対峙したとき、結果的には一人の子供を救えましたが、戦えない無力な自分を呪いました。でも今は前の自分とは違う。俺は、多くの人を救いたい」
試験監督はその言葉の真意は本物かとジッとレーイチを見つめる。レーイチはその眼差しから逸らさない。
「いいだろう。他の者たちも、この模擬戦闘の終わりまでに答えを出しておきたまえ。レーイチ・シンドウ、前へ」
「はい」
レーイチはロボットの前に歩み出る。
「なんだあの生意気なやつ」
「コンバーターだってよ。どうせあのロボットに瞬殺だよ」
周りからはあの生意気なやつは何なんだという視線が送られてくるが、レーイチは今はそれを無視する。
いざ対戦するロボットを目の前にすると自分の身長を超えるその巨体の威圧感と、ただ目標を戦闘不能にする無慈悲な機械の表情には寒気がする。だが、レーイチはそれでも怯むことはない。アクセリアとサクラに日々特訓をしてもらったのに比べれば何てことはなかった。むしろロボットよりも二人のほうが恐ろしいと思った。
ロボットと対峙するレーイチに二階席の一同は視線をレーイチに集める。
「腰にはカウルソードか。さっきのユニードといい、どこまで戦えるのか見ものだな」
「来たばっかりのコンバーターだ。いきなり接近戦はできないだろう。あのロボットとの間に壁を作って守り切るしか出来なんじゃないか?」
「それでも何秒持つかだろうな。防御壁を作れるだけでもかなり希少だ」
一同の読みは守りに徹してどれだけ時間を稼げるかという話題となった。
だがアクセリアだけは違う。レーイチがこの短い期間にどれだけの研鑽を積んだのかを知っている。そしてあの腰にある剣の使い方を叩き込んだのは一体誰なのかを知っている。
「頑張れ、レーイチ」
アクセリアはレーイチに声援を送った。
レーイチは帯刀していたカウルソードを抜刀する。そしてカウルを纏うと同時に白い刃を出現させた。
「準備はいいか?」
「はい、いつでも」
ロボットもレーイチの殺気に気づいてか、目に光が点り、戦闘体制を取る。
「それでは……始め!」
号令と同時にレーイチは地面を蹴ると一気にロボットへ距離を詰める。
そしてロボットもその巨体に見合わない速度で同時にレーイチへ距離を詰める。
両者ともに迷いはなかった。
これには周りからも驚愕の声があがる。
「あいつ、距離を詰めやがった!」
「ユニードで守るんじゃなかったのか!?」
「なるほど、やつもあの子に良いところを見せようとしているのですね。ですがすでにあの子は僕に惚れています」
「「それはない」」
そんな声を他所にレーイチとロボットは互いに自分の間合いへ距離を詰めた。
そして体格差故に先に攻撃を繰り出したのはロボットの方が早かった。何人もの入隊希望者の参加者を場外に飛ばした長い右腕の薙ぎ払い。それはレーイチを場外へと吹き飛ばそうと一撃を繰り出す。
「今までの訓練の成果を今見せる時だ」
レーイチは右手のカウルソードに力を込める。そして一閃が走る。
レーイチを薙ぎ払おうとしたそのロボットの右腕はドシンと音を立てて地面に横たわる形となっていた。
「OK、斬れるな」
レーイチはアクセリアとサクラに鍛えられた力が通用することに安堵した。むしろ二人よりも手応えがないとさえ思った。二か月前の無力な自分であれば、今の攻撃は何も出来なかったに違いない。
そして周囲からはロボットの腕が斬り落とされたことで、どよめきが起こった。
「馬鹿な!今まで誰も太刀打ち出来なかった相手だぞ!」
「連戦でロボットにどこか不具合があったんじゃないか?」
「な、中々やりますね。しかし僕なら一撃で倒して見せますよ」
「「それはない」」
そんな場外の声を他所に置き、レーイチは小さく息を整え、次の攻撃に備える。
ロボットは暫し自分の腕がなくなったことに戸惑いの様子を見せていたが、次なる一手のために再びレーイチに向き直る。そして左の掌をレーイチに向けると、掌の中心から光が集まりだした。
「おい、待て!それはズルいだろ!」
レーイチも同時に次の攻撃に備え、カウルソードを持っていない左手を地面につけた。そして地面から壁を発生させる。それと同時にロボットの左手からエネルギー弾が放たれた。試験のために威力は抑えられているが、レーイチの創り出した壁を粉砕するほどの威力であり、直撃していれば場外に飛ばされるのは勿論、ただでは済まない。
「クッ!」
レーイチはエネルギー弾の衝撃と爆風で粉砕された壁の破片と共に場外へ飛びそうであったが、カウルソードを地面に突き刺してなんとか耐え忍んだ。そして反転攻勢に出る。
「リメイク・カスタム!」
地面から石柱を発生させ、それをロボットへ叩き込む。
ロボットはその石柱をエネルギー弾で破壊しに掛かり、弾丸と石柱は相殺されていった。
「アクセラレーション」
ロボットが迎撃するその一瞬の隙にレーイチは足場を変化させて一気にロボットの足元へ潜り込む。ガロン戦でアクセリアが行った戦法をレーイチは真似させてもらった。
「ちょっとは!周りに人がいること考えろ!」
そして左手を地面につけたレーイチは叫ぶ。
「リメイク・カスタム!」
レーイチは石柱を発生させ、地面に転がるロボットの右腕を突き上げ、ロボットの頭部にアッパーカットをくらわせる。
「ロボットとは言え、重いアッパーは流石に効くよな」
重量のある一撃には例え頑丈なロボットでさえもふらふらとバランスを取るのがやっとの程の致命の一撃となった。その隙にレーイチは右手にあるカウルソードを左腰に構え、コードを集中させる。そして白い刃が光りだした。
「フォトンスラッシュ!」
溜めていたカウルソードを一気に開放し、振り抜く。空間を切り裂く鋭い一撃。
その白い一閃を受けたロボットの胴体は真っ二つとなり、何も出来ぬままロボットはそのまま地面へと崩れ落ちた。
完全に静止したロボットを見たレーイチは白い刃を納めると黒い柄だけになったカウルソードを左腰のホルダーに納め、自身を纏っていたカウルを解いた。
「壊してしまったんですがこれで良いですか?」
「あ、ああ……」
試験監督から戸惑いの声が漏れる。その戸惑いは、まだゼドの隊員でもない一般人がロボットの破壊などそもそも出来ないと思っていたためだ。




