020 訓練依頼
レーイチ、アクセリア、アザト、サクラの四人がリビングのテーブルに着き朝食の時間となる。スクランブルエッグ、ベーコン、トースト、サラダ、コーヒーが朝食となっていた。言葉だけで言えば爽やかな朝の食卓だが、空気は重い。理由はアクセリアが自ら引き起こし羞恥に駆られている感情、そしてサクラが放つレーイチを拒否するオーラ。ピリピリとした空気の中、四人は食事を進めるしかなかった。
そんな重い空気の中、アザトは全く気にしていない様子でレーイチに話をかける。
「レーイチ、昨日はよく眠れた?」
「この空気の中、所長はよく普通に喋れますね。でも睡眠はよくとれましたよ」
「精神的にも相当疲労があっただろうから当たり前だよ。で、早速レーイチには家事の当番と今後の話をするね。今日は炊事洗濯掃除はアリアが担当だけど、レーイチも一緒に仕事を覚えるって意味でやって欲しいかな」
「分かりました。でも洗濯はやめといた方が良いですよね?」
「あー、そうだね、まあアタシは気にしないけど、年頃の女性二人がいるからね。悪いけどレーイチと女性陣でそこは分けようか」
「見たら殺すわ」
「こわっ」
サクラからの放たれる殺意。それはレーイチにはザクザクと刺さってきた。その殺意を気にすることなくアザトは話を続ける。
「それ以外はアリア、サクラ、レーイチで順番に。シフト変更は臨機応変にって感じでよろしくね」
「あれ?所長は?」
「アタシは家事ができない人間でね。やってもいいけど別の人がもう一回やることになるよ。代わりに権力その他色々でいい感じに働くからそれで相殺だね」
「ええ……まあ、はい、分かりました」
レーイチは困惑の声を漏らす。それはそれでどうなのだろうかと思ったが、それ以上は口に出さないことにした。
「で、レーイチにはこれからの話なんだけど、カウルの習得と武器をある程度扱えるようになってもらわないとならないんだよね。それで地下のトレーニングルームだけ時間を歪めてあげるからしっかり訓練してね。カウルのトレーナーはアリアにお願いするから、アリアはレーイチをアンチコードと戦えるまで鍛えてあげるのよろしくね」
「分かったわ、所長。レーイチ、よろしくね」
「お手柔らかによろしく頼むよ」
アクセリアはレーイチに笑顔を向けるが、笑顔を向けられたレーイチは引きつった笑みしか返せなかった。訓練メニューは何をするのか分からないが、時間がない中行われるため、優しいものではないと予想ができた。
「それとサクラ、レーイチに剣の指導を頼むよ」
アザトのそのお願いはピリついた空気を更に悪化させた。明らかに炎上する話題を投げ込むアザトの胆力にレーイチの方がヒヤヒヤした。そしてもちろんサクラの答えは否だった。
「嫌よ。なぜ私が?コンバーターと慣れあうことはしないと言ったはずよ」
「そうだね、それにはこちらも何も言わない。だけどこれは仕事として依頼しているんだ。サクラはあくまで慣れあうことを否定しているのであって、仕事に対しては否定していないでしょ?」
憎悪を放つサクラを気にすることなく、むしろ慣れた得意分野だと言わんばかりに、アザトはサクラの拒否権を拒否した。
サクラは一呼吸置くためにコーヒーを一口含む。たった数秒だが、アザトとの論戦にはその数秒が欲しい。
「仕事としても嫌よ。私の剣は代々伝わる一族の剣技。それを他人に伝えるなんてできないわ」
「他人なんてそれは違うよサクラ。レーイチはアタシたち魔女の時計の一員なんだから。それに、その剣技のもとはコンバーターが嫌いとは言うけど日本の武術が伝わって派生したものだよね。ならその日本から来たレーイチはサクラの言う他人に該当しないと思うけどな」
「それは……」
サクラは次の言葉に詰まった。アザトはさらにたたみかける。
「それに、レーイチを戦力にしておいてくれれば、この先サクラと任務を共にするようになったときに足手まといにならないよ。サクラがいつか果たしたい復讐の相手が手練れを誰一人も連れずいるなんてサクラは思ってるわけないよね。サクラは確かに強いけど、たった一人で戦争に勝てはしないのはサクラ自身が理解してるはずだよ。だからね、サクラ。これは別に将来的にも悪い話ではないと思うんだよね」
アザトは言葉のボールをサクラに投げ渡した。ここでまたサクラが言い返せばアザトはそれすらも軽々しく返す余裕を見せている。サクラの言い分を理解した上で、アザトは仕事としてやってほしいという落としどころを提案しているのだった。
数秒の沈黙の上、サクラはため息を漏らした。
「分かったわ。仕事としてやってあげる。コンバーター、カウルの習得をさっさと終わらせなさい。残りの時間で少しは使えるようにしてあげるわ」
サクラは不本意そうな表情を浮かべながら了承の意の返事を返す。もとからアザトがサクラにやらせるという計画をしていたところをみると、その計画をそもそも覆すことができないことをサクラは悟った。
「何だか地獄の特訓になりそうだけど、ありがとうサクラ。剣の指導よろしく頼むよ」
サクラからの返答はもちろんない。だが、レーイチはサクラが少しでもこちらに歩み寄ってくれたことが嬉しかった。
「助かるよ、サクラ。レーイチも頑張ってね」
こうして朝の騒動はひとまず収まり、レーイチの強化訓練が始まることとなった。




