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002 情報不足

「いや、待て、だとしたら何だ、これはゲームか?」


 異世界の展開の路線で次はこの世界観のゲームやマンガはなかったかと探りを入れる。だが、怜一はこの世界観のゲームもマンガも知らない。何かしら知っていればある程度、気の持ちようが楽になってくれるのだが、それが記憶の情報のどれにも引っかからないとなると、怜一にとってここは全くの知らない世界であった。


「異世界……かぁ……」


 天を仰ぎ、乾いた笑い声が漏れる。本来なら異世界に来たことを喜ぶべきなのだろうかと怜一は思ったが、実際に当事者となった怜一の感想は、これから先どう生きていけばいいのか全く分からず、ただ不安と混乱に押しつぶされそうだということに尽きた。


 突然、綺麗な街のコンクリートジャングルに放り出されたとしても、生きていくには衣食住が必要なことに変わりはない。であればその衣食住はどうすればまず確保できるのか?そもそもここはどこなのか?生きるための資金はどう稼げばいいのか?何もかもが圧倒的に情報が不足していた。


「懇切丁寧に教えてくれる女神様はいなかったし、ましてやごく普通の広場に放り出されて勇者召喚の舞台ような王城は高台に見えるし、俺は勇者様ってわけじゃないよな」


 怜一は異世界の設定という観点から情報を整理する。そして情報を整理した中で、この世界の情報とチュートリアルを教えてくれる神が存在しないことに腹が立った。せめて情報を寄越せと叫びたいと怜一は思ったが、それをすると次は通報されかねないので心の内にその激情は納めることにした。情報の整理をしたことで怜一は落ち着きを得るようになった。そこで次に何をするべきかを考える。


「まずは情報か。情報を仕入れよう」


 怜一は辺りを見渡す。そして街にある建物の看板や歩道にある案内板がホログラムで表示されていたり、その文字が英語で表示されていることから言語の壁は何とかなりそうだということが把握できた。


 だがそこで一つ疑問が浮かぶ。なぜこの世界では英語が使われているのか?そして聞こえてくる人々の喧騒はまるで日本語と同等のように言葉が理解できるのはなぜなのか?


「言葉も文字も分かるし、本当に異世界か?これは逆に未来に来たのか?」


 怜一はもう少し探るべく、広場の空中に映し出されているホログラムで表示されている案内板の前に歩み寄った。そしてホログラムで表示された文字が物珍しく、ホログラムに思わず手を触れてしまう。


「こんにちは、何かお困りですか?」


「喋った!?」


 怜一は思わず何処ぞの田舎から出てきたのかと思わせるような驚きの声を発してしまう。


「あ、いや、これは自動の音声案内か。凄いな。本当に未来に来てるみたいだ。えっと、調べ物はできる?」


「はい、可能です。まずはホログラムに手を触れてください」


 案内に従い、怜一はホログラムに手を触れる。すると画面が変わり、予想外なことにエラー画面が表示された。


「なんだ!?エラー!?」


「市民登録がされていません。コンバーターの方ですね。まずは役所にて市民登録を行ってください」


「コンバーター?市民登録?」


「コンバーターはこの世界の外から来た者達の総称です。市民登録はこの街で暮らすにあたって必要な登録です。市民登録が済み次第、検索のご利用が可能です」


「なるほど、セキュリティで部外者は弾かれたってことか。分かった。役所の場所は?」


「この大通りを進んでください。地図を表示します」


 親切に表示された地図を怜一は読み込み、目的地の場所を確認する。音声案内の通り、真っ直ぐ進めば良いことが分かった。


「分かった。ありがとう」


「受付をスムーズに行うため、先に氏名を教えてください」


「名前か……」


 怜一はそのまま自分の名前を素直に『レイイチ・シンドウ』と登録しようとした。だが、ふと家族や友達から『レーイチ』と呼ばれていることを思い出した。単純に正しい発音の『レイイチ』だと呼びにくいのだ。そこでこれから出会う人に対して最初から呼びやすい名前で覚えてもらった方が良いのではないかと考えた。そして怜一自身も既に何度も呼ばれ慣れ親しんだ『レーイチ』の方がしっくりくるため、少し呼び方を変えた『レーイチ・シンドウ』として生きていこうと考えた。


「名前はレーイチ・シンドウだ」


「レーイチ・シンドウさんですね。承りました。尚、あなたにはユニークコード『カスタム』というユニードが能力としてあることを確認しました。犯罪抑止のため、先にこちらの情報は紐づけておきます」


 怜一、改めレーイチは今の案内でこの世界には特殊能力、ユニークコード、通称ユニードが存在することに驚いた。そしてカスタムというユニードが自分に宿っていることにレーイチは更に驚きが増した。


「そのユニードってどうやれば使えるんだ?」


「私はユニーダーではありません。私には答えられません」


「ユニーダー……ユニードを使える人のことか。使い方は使える人にって言われればそれは確かに」


 レーイチは色々と聞きたいことが山ほどあるが、レーイチは案内板に指摘された通り、市民登録がされていない身元不明の不法入国者のような状態であった。情報を仕入れようにも現在身元不明のため、そんな不審者は検索サービスは利用はできず、情報収集の手を封じられている。周りの人から聞くという手もあるが、身元不明と言われている人間がうろちょろするのはあまり良い行動ではない。ここは大人しく案内板に言われた通り、市民登録を先に行うのが正しいと思った。


「どう動くにしても不法入国の問題を解決する為に市民登録が先か。ありがとう、案内板」


「どういたしまして」


 そう言うと案内板は街の情報を映す仕事に切り替わる。


 そしてレーイチは改めて周りを見渡し、案内板から得られた情報をレーイチは整理する。コンバーターと呼ばれたことからこの世界にはレーイチ以外の人物が先駆者として訪れていることが分かった。その情報はレーイチと同じ同郷から来ている者がいるかもしれないということであり、レーイチは不安が和らいだ。


「生活は先に来てる人を真似ればなんとかなるとして、あとはユニードか。ユニークって言葉からしても全員に与えられたものではなさそうだな。俺にもどうやら『カスタム』っていう何か組み合わせるような感じのものがあるらしいけど……」


 ユニークコード、通称ユニードと言われる特殊能力は全員に与えられるものではないとレーイチは予想した。不思議な力がある時点で何とも異世界らしい。


 そこでレーイチは目的地を目指す前に自分だけが使える『カスタム』というユニードを試したくなった。名前からすれば何かを組み合わせるようなものだろうと予想した。だがこのユニードというものの発動方法は分からない。しかしそれでも試したい気持ちの方が強いため、組み合わせるということから、何か手頃なものが転がってないだろうかと辺りを探した。


「何かないかな……」


 そしてレーイチは近くに転がっていた親指ほどのサイズの小石と木の小枝を見つけ、これなら迷惑にないだろうとそれを手に取った


「これでいいか。ちょっと試すだけ」


 レーイチは小枝と小石を右手に載せると、そっと左手で覆う。ユニードの発動方法は分からないが、特別な能力、異能の力ということであれば、その発動方法は能力によって起こしたい現象や結果をイメージをすることがセオリーだと思った。


「石と棒をくっつけるか」


 レーイチは小枝と小石を使って、小枝に小石をくっつけただけの小石のハンマーをイメージする。それがシンプルかつイメージもしやすいものだった。頭にイメージ像を作り出し、深呼吸を一つする。


「カスタム」


 ピリッと小さな電流が流れる感覚があった。レーイチは覆っていた左手を退かすと、そこにはイメージ通り小枝に小石が無理やりくっつけたような小石のハンマーが出来上がっていた。


「凄い、本当に異世界に来たんだな」


 レーイチは自身のユニードで作成された物を見て感動を覚えた。初めは混乱と不安で満たされていたが、今は新たにできることが増えたことで不安よりも希望や楽しみを持つことが出来るようになっていた。


「このカスタムのユニードは、今後のお金を稼ぐ時に使えそうだな」


 最初は何の情報もなく見知らぬ世界に放り出され、不親切な神に憤りはしたが、与えてくれたユニードは資金面を何とかしてくれそうであり、これについてレーイチは純粋に神に感謝した。

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