019 新しい朝
朝が訪れる。レーイチは疲労により長いこと眠ったため、太陽が昇ると同時に目が覚めた。昨日の一日が夢ではないかと思ったが、今いる場所はベッドとテーブル以外何もない質素な部屋であり、夢ではなかったことを意味していた。そしてふとレーイチは気づく。なぜか右腕が動かず、掛け布団が小さく動いており、そしてなぜか人肌の温もりを感じる。
思わずその人肌を感じる方を見てみると、そこには赤い髪の少女、アクセリアが隣ですぅすぅと小さな寝息を立ててレーイチの腕を抱き枕に気持ちよさそうに寝むっていた。
「……んん!?」
寝ぼけた頭が一気に覚醒し、レーイチは思わず驚きの声をあげる。なぜアクセリアが隣で寝ているのか分からない。鍵をかけたはずだとドアを確認すると鍵は見事に開いており、扉も開いたままであった。
『私のアクセスコードはね、ありとあらゆる鍵を開錠してしまう能力なの』
レーイチはアクセリアの言葉を思い出す。本人も他人のプライベートを破壊するユニードだとは言ってはいたが、それを予想外の形で体験することになるとは思ってもいなかった。流石、神話のセブンスコードの力だとそこは妙に納得する。
(待て、鍵が開いてるのは分かった。でもアリアが鍵を開けて入ってきた理由が分からない)
レーイチは改めて隣で寝ているアクセリアを見るとその無防備な寝顔に目を奪われてしまった。整った顔立ちに白い肌、そして美しい赤い髪。起きている時に見せる深紅のルビーの瞳は今は瞼によって閉じられ、代わりに艶のある唇が目立つ。着崩れた寝間着から見える首と肩と胸元の白い肌は妙に艶めかしく、胸元に見える鍵の痣が呼吸で上下に動いており、レーイチの抱きかかえられた腕には動く柔らかい感触が伝わってくる。
「……」
レーイチは知らないうちにアクセリアに抱き枕にされ、自分からは何もしていないがその視界に広がる光景と人肌の温もりと感触に顔が赤くなった。そして隣で女の子が寝ているという未知の体験に対してはどう対処していいのか分からなかった。
「んん……」
対処方法を考えていると、アクセリアが声を漏らす。そしてアクセリアの閉じられた瞼がゆっくりと開き、ルビーの瞳が輝きだす。アクセリアは眠気眼のぼやけた視界で目の前を見ると、黒髪の少年が目の前にいることが頭に入ってきた。
「レー……イチ……?」
「お、おはよう……アリア……」
レーイチはただ引きつった笑みを見せることしかできない。
アクセリアは目の前にレーイチがいるといったぼやぼやした気持ちで更にレーイチの腕を抱き寄せる。更に押し当てられる柔らかい二つの感触にレーイチは固まるしかなかった。
アクセリアは続いて昨日はよく眠れて気持ちよかったといった感想があがってくる。そして視界と頭の回転が安定してくるとなぜレーイチが隣にいるのか?といった疑問があがってきた。それがトリガーとなり、アクセリアは現在の状況を急激に頭に叩き込まれた。
「キァァァアア!!!バカ!!!えっち!!!変態!!!何でいるのよ!!!」
アクセリアは顔を真っ赤にして飛び起きると枕を振り回し、レーイチのことを何度も叩いた。
「痛っ!痛っ!待って!アリア!ここ俺の部屋!そこ!ドア!アクセスコードで鍵を開けてアリアの方が入ってきたんだよ!」
社会的に抹殺されそうな状況を打開するため、必至にレーイチはドアを指さして説明する。アクセリアは開きっぱなしのドアを確認すると、枕を抱きかかえ顔を埋めた。
「ああ……やっちゃった……」
アクセリアは羞恥に駆られて顔を上げられなかった。うろ覚えの記憶をアクセリアは辿ると、夜中、水を飲むために一度起き、そのあと寝ぼけてレーイチの部屋の鍵を誤って開けて入り、そのままレーイチのベッドに潜り込んで人肌が心地よくそのまま寝てしまったという状況だった。これは過去、アクセリア自身の家族やサクラに対して行ったことがあり、魔女の時計の個人部屋においては寝る際、鍵は最早意味を為さないため、ドアが開いても入れないよう、古典的だがドアの上部からネットを垂らして入れなくしているのだった。今回はこのネットが無かったために起きたある意味の事故であった。
レーイチはひとまずアクセリアが事実を認めてくれたことに安堵する。
「新しい世界の二日目にして刑務所行きの獄中生活にならなくてよかったよ。アリア、とりあえずほら、自分の部屋戻ったほうがいいんじゃないか?」
「……うん。ごめんなさい」
そしてアクセリアはそのまま枕を抱えてドアに向かう。だが部屋から出るところでアクセリアは一度立ち止まった。
「……見たでしょ?」
「……何を?」
「……えっち」
そしてアクセリアは部屋を出て扉を閉めた。
レーイチは嵐が過ぎ去り疲れ切り、バタンとアクセリアが居なくなり広くなったベッドに倒れこむ。
「勝手に入ってそれはないだろ……」
レーイチは理不尽にため息を漏らす。静かになった部屋には微かにアクセリアの残り香が残っていた。




