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017 桜色の剣士の帰還

「ただいま」


 短く帰宅の言葉を述べながら魔女の時計の事務所に入ってきたのは一言で言えば大和撫子のような女の子であった。サクラと呼ばれる少女は背中まで伸びる長く美しい桜色の髪を後ろで一つに纏めたポニーテールの髪型をしている。瞳は黒く、透き通るような肌。歳はレーイチと同じ十七歳くらいだろうか。スラリとしたスレンダーなスタイルに上は赤い着物、下は紺色の袴に黒のブーツ、腰には黒い刀の柄だけのようなものが差されており、背筋がピンと伸び、凛としたその姿は女性の侍の様な姿だった。


「や、サクラお帰り」


「お帰りサクラ」


 アザトとアクセリアは家族を迎えるかのように言葉を返す。初めて会うレーイチは、この桜色の少女がアクセリアとの会話で話題に上がったサクラという人物だとを理解した。


「お客さん?」


 サクラは可愛らしく小首を傾げる。


 最初は客のような立場であったが、今のレーイチは同じ仲間であるため、挨拶をしておかなければならないと思った。


「さっきまではそうだったけど、これからここで住み込みで働くことになったレーイチ・シンドウだ。よろしく。えっと……サクラ……で良かったかな?着物ってことは俺の故郷と同じ日本人みたいで親近感を感じるよ」


 レーイチは友好の意味を込めて同郷の人に会えたような感動を伝える。同じ地球の日本というところから来たのだろうかとレーイチは思ったが、サクラはレーイチの言葉を聞いて急に顔が怖くなり、目つきが鋭くなった。それは明らかな殺気を放っており、サクラは右手を左の腰に差した黒い柄に手をかけていた。


「私はコンバーターじゃない!そういうあなたはコンバーターね?コンバーターなんか大っ嫌いよ!」


 突然罵声を浴びせたサクラは床を蹴ると一気にレーイチに距離を詰める。居合の体制のサクラの狙いはコンバーターのレーイチ。そのあまりの速さにレーイチは反応できない。だが、サクラの黒い柄から出現した白い刃はレーイチを斬ることなく虚空を斬ることとなった。


 レーイチは間一髪のところでアクセリアに押し倒され斬撃を躱していた。


「サクラ!何してるの!」


「そいつはコンバーターよ!私から家族を奪った大嫌いなコンバーター!そいつと一緒に暮らすだなんて私は願い下げよ!」


 サクラは憎悪と共に剣の切先を倒れたレーイチとアクセリアに向ける。


「例えコンバーターでも関係のない人に向けるその憎悪は間違ってるわ!サクラ!それにレーイチはもう魔女の時計の一員よ!そして私の恩人でもあるわ!だからその剣は仕舞いなさい!」


 サクラとアクセリアはお互いに熱くなっていく。この張り詰めた緊張はふとした瞬間にでもお互いに再度ぶつかり合うかのような危険な空気が漂っていた。


「はーい、そこまでだよ二人共」


 そしてその空気を壊したのは気軽に話しかけるアザト。ピリついた空気をものともせず、いつも通りの調子で場をいさめる。


「サクラはアリアの言う通り、そういうのあんまり良くないよ。それにレーイチはアタシが認めた魔女の時計の一員なんだから一方的に喧嘩をしするのは勘弁してほしいな」


 アザトは特段に怒るということはしなかったが、アザトのその言葉はサクラに対する脅しであった。


 数秒の沈黙。


 サクラは表情を変えずに柄から伸びる白い刃を霧散させると、柄を左腰のホルダーに納めた。


「分かったわ。でも、私はコンバーターと馴れ合う気は毛頭ないわよ」


「それでいいよ。あんまりトラブル起こさないならね」


 サクラはそれを聞くと何も言わずに事務所の奥に消えていき、アザトとアクセリアはそれを黙って見届けた。


「さて、アリア、そろそろレーイチから離れないとレーイチがその胸の脂肪で窒息するよ」


 そう言われたアクセリアは胸元を確認すると、自分がレーイチを押し倒し、胸を押し付けているという状況に顔を赤くした。


「あっ!ごめんなさい!」


 アクセリアは直ぐ様レーイチから飛び退いた。プハッと声をあげたレーイチは酸素を求める肺に空気を送り込む。柔らかい感触の感想はあったが、それ以上に窒息で苦しかったという感想の方が大きかった。


「その……レーイチ……今ので今日の助けてくれた借りはなしよ」


 顔を赤くし、小声で恥ずかしがるアクセリア。両手で胸を隠すような仕草にレーイチは余計に先ほどのジャケットの上からでも感じた柔らかい感触を思い出してしまう。少し前には強いからなどと息まいていた姿はどこかへいき、乙女な一面を見せてくる。これには流石にレーイチも素直にかわいいとは思ったが、短絡的に威勢を張るところは少し直してほしいとも思った。何も話がない時間が気まずいため、レーイチはさきほどのサクラの事情について聞いてみることにした。

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