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010 魔女の時計

 そして市民登録を終えたレーイチはその後、アクセリアに連れられてあまり人通りの少ない通りのビルの前にやってきた。外観は一階がシャッターの閉まったガレージに何年も雨風に晒されて汚れた三階建てのビル。人が居住するというような観点からは十分な大きさではあるが、周りの建物と見比べてしまうと小さい印象を受ける。


「外は少し汚いけど中は綺麗よ。事務所は二階ね」


 そういってアクセリアはガレージ横の階段を上がっていき、レーイチも後に続いた。レーイチはアクセリアに誘われて来てみたが、事務所という場所の前に到着しどこか緊張していた。


「ここは登録された人しかドアを開けられないの。まあ、私にはあまり関係ないんだけどね」


 アクセリアの説明に対し、レーイチはセキュリティがあるのだと理解した。どうやらドア自体に認証システムのようなものが存在するらしく、事前に登録された人物しかドアを開けることができない仕組みらしい。アクセリアの後半の意味はよく分からなかったが、異世界だから何かあるのだろうととりあえず聞き流した。


 アクセリアがドアに触れると、ガチャッという音に続いて中の様子が広がっていく。


 ビルの中は事務所と言われていた通り、応接用の椅子とテーブルに観葉植物、戸棚にロッカーとまさに事務所という場所だった。そして窓の近くには大きなテーブルがあり、そこには特別なオーラを放つ人物が一人座って仕事をしている様子だった。


「ただいま戻りました、所長」


 アクセリアは窓際のテーブルにいる人物に声をかけながらビルの中に入った。レーイチもその後に続いて中に入る。


 所長と呼ばれた人物はアクセリアの声に気が付き顔をあげた。


「やー、お帰り、アリア。急な依頼に急なアンチコードとの戦い大変だったでしょ」


 気さくに声をかけてくるのは濃い茶色のセミロングに黒縁メガネ、そして盛り上がった胸部を抑え込む白いワイシャツに黒のパンツスーツ。知的でどこか読み切れない雰囲気をまとっており、一目見て敵に回したくはないと印象づけさせられる大人の女性だった。


「それと、後ろにいるのは事前にアリアから連絡のあったレーイチ・シンドウ君でよかったかな?アタシはここの事務所、魔女の時計の所長、アザト・マルトリス。よろしくね」


「はじめまして、レーイチ・シンドウです。外の世界からきて分からないことばかりなので色々教えてもらえれば嬉しいです」


「よろしく。知ってる限りのことを教えるよ。あとあんまり気を使わなくていいよ。みんなと同じく所長って呼んで。アタシもレーイチって呼ぶから」


 所長と呼ばれているアザト・マルトリスはレーイチを気遣うと同時に珍しそうなものをみる目でレーイチを見てきた。


「それでレーイチは外の世界、つまりは那由多の管理下の地球人だね。名前からすると多分日本ってとこかな。今となっては珍しくはなくなったけど、まともにコンバーターとコミュニケーションをとるのは随分久しぶりな気がするね」


 アザトはうんうんと頷くが、レーイチとしては気になるワードが多く、簡単に頷いてはいられなかった。


「その、外の世界を地球と呼んでいるところとか、管理とか、コードとかアンチコードとかまだこの世界に来たばかりで色々分からなくてですね。あと宿なしなので後払いでも大丈夫なとことか教えてもらえると助かります」


「まー、そうだね、何も知らないよね。長くなりそうだから座って話そうか。アリア、悪いんだけどお茶をお願い」


「はい、所長」


 それを聞いたアクセリアは給湯室にお湯を沸かしに向かった。


 残ったレーイチとアザトは応接のソファに腰を下ろし、レーイチの疑問を解消するべく話を始めた。

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