INSIDE 4
またぐらりと視界が揺れる。
これで4度目だ。
慣れた様子で記憶を安定させた俺に、狂った笑い声が届く。
目の前にいたのは、在りし日のフェリコットだった。
全てを諦めたように、狂った笑い声を響かせていたフェリコットの菫色の瞳が、真っすぐに俺をとらえる。
瞳に宿った絶望が俺を認識した瞬間に、彼女はスカートを翻して忍ばせていただろうナイフを取り出すと、バルコニーに向かって駆けだした。
悲鳴と怒号が響く中、俺は慌ててフェリコットを追いかけた。
まだ彼女は生きている、やり直せる。
そんな俺を運命があざ笑っているのだろう。
フェリコットは手すりの縁によじ登ると、絶望した顔を俺に向けて泣きながら微笑んだ。
祈るような仕草で、フェリコットはナイフを厳かに掲げると、一切の躊躇なくその胸に突き立てた。
「フェリっ!!!!!!!!!!!!!!」
俺の声に、フェリコットが泣きながら笑う。
「トラ、ヴィス様……、ごめんなさい、ごめんなさい。
わたしもう、死にたくない、ころされたくない……です。
ごめんなさい」
けほりと血を吐いたフェリコットは、そう呟くように言うとぐらりと体を揺らして身を投げた。
その手を掴みたくて、手を伸ばすけれど届かない。
フェリコットの体は、闇がひろがるバルコニーの下に消えていった。
呆然と膝をつきながら、彼女の言葉を反芻する。
「わたしもう、死にたくない、ころされたくない」
フェリコットはそう言った。
まさか君は、俺と同じように繰り返していたというのだろうか。
思えば、フェリコットの態度は繰り返すたびに変わっていった。
高慢で傲慢な性格はすっかり鳴りを潜め、記憶の中のフェリコットはすっかり大人しくなり、4度目の今に至っては何もしない無気力で無能な公女となり果てていた。
もし、3度死んだ記憶を持っていたとしたら?
あの酷く、惨い記憶をその身に宿したまま、4度も繰り返した?
無能で愚かな俺が、フェリコットを4度殺してしまった。
そのことに気がついてしまったせいで、どうしようもない絶望が俺を襲う。
性根が愚かな俺では、何度繰り返しても君を救えない。
君を救う事はできない。
思い出すのはいつも、手遅れになってから。
酷い絶望に苛まれて、気が狂って消えてしまいたくなる。
「また失敗しちゃったね、それでもやめることは許されないわ。
だって貴方が望んだことなのだから」
青い髪が揺れる。
そんなこと言われてもどうしようもない。
もう俺では救えないのだ。
何をしたって、手遅れになってからしか思い出せない。
フェリコットが残したナイフが目の前で煌いて、俺は無意識のまま手に取った。
フェリコットがそうしたように厳かに掲げて、同じように胸を貫く。
鋭い痛みが走って、吐血した。
頼む、頼むお願いだから。
誰か、俺の代わりにフェリコットを救ってくれ。
募る愛しさが、彼女の幸福を祈る。
どうか、どうか彼女を、俺を愛してくれたフェリコットを幸せにしてくれ。
俺じゃダメだった。
徒に死なせるだけで、不幸にしかできなかった。
もう、俺から、彼女を解放してくれ。
その為なら俺は、この世界から消え去って構わないから。
悲鳴が響く中、温かい血があたりに広がる。
5度目の彼女の人生が、幸福であるようにと祈りながら俺は目を閉じた。
「馬鹿な男だな、本当に」
俺と同じ声が頭の中に響いた気がした。
それが俺の、最期の記憶。
次話で完結ですが、蛇足と言えば蛇足なります。




