INSIDE 2
ぐらりと視界が揺れた。
目が覚めるような気持ちで飛び起きる。
俺がいたのは、侯爵家の領地にある屋敷の自室のベッドの上だった。
酷い記憶だった。
フェリコットを取り戻すために戻った先で、俺の目の前でフェリコットの首がポンととんだ。
ころりと、落ちた首。彼女の菫色の瞳と目が合った。
濁った菫色の瞳が、苦悶の絶望の表情を俺に向けて、俺は慌てて駆け寄ってその首を掻き抱く。
誰がこんなことをと思う俺の中に、それまでの記憶が鮮明によみがえる。
彼女の首を刎ねろと命じたのが、まぎれもない俺自身だと認識した瞬間に、俺の精神は発狂した。
何度もフェリコットの名を呼び、フェリコットの血にまみれながら狂った末に、どこかの貴族牢に幽閉されて、最後は毒を飲んで死んだ気がする。
取り戻したいと願って時が戻ったのに、時が戻った瞬間に失うなんて信じられなかった。
毒を飲む直前に、青い髪の女が現れて「もう1回ね」と言ったような記憶があるが、定かではない。
そんなことより、大切なのは現状の把握だ。
今世の記憶をどうにか思い出すと、左手に菫色の石が収められたシンプルな指輪が見えた。
そうして俺は、フェリコットと結婚している事実を思い出す。
そう、そうだ、結婚したんだ。彼女と。
そう思いだした俺は、続けて初夜の醜態を思い出して、自分のしたことに絶望した。
記憶の中のフェリコットは、いつだって従順で、まるでリエラヴィアのようだった。
自分と婚約してからずっとそんな態度なのが、どうしてだか腹立たしくて蔑ろにしていた記憶がある。
結婚式のドレスを着たフェリコットがあまりにも美しくて言葉を失ったが、自分に怯えるフェリコットにイラっとして舌打ちしたあげく、初夜で強張るフェリコットを八つ当たり気味に乱暴に抱いてしまった。
閨教育は受けていただろう? 俺。
最低がすぎないか?
今までの俺の態度を考えれば、いくらフェリコットでも怖がるに決まっている。
おまけにストレスで寝込ませた新妻を置いて、逃げるように領地に来てしまった。
平たく言って最低である。
あわせる顔が無く、手紙を書こうと思っても今までフェリコットに書いたことが無いから、何を書けばいいか分からない。
フェリコットからも手紙が無いので、これは相当怒っているだろうと思い悩んでいるのがさっきまでの自分だった。
何度も言うが最低だ。
ろくでなしだ。
第三王子が聞いてあきれる体たらくだ。
結婚して、王都を離れてもう十月ほど経っている。
いくら一途なフェリコットでも、クソ男すぎて捨てられる未来しか見えなかった。
けれど、それでも、まだ間に合うと思った。
俺とフェリコットの結婚は王命だ。
それにフェリコットは俺のことを愛してくれている。
今すぐ王都に戻って、フェリコットに誠心誠意謝れば、きっと許してくれる。
急ぎの仕事を終わらせて、すぐにでも戻ろうと準備を始めた俺に、王都の屋敷から届いた早馬が知らせを告げる。
「旦那様、奥様が危篤です!!!」
足元から、全部崩れていく気がした。




