表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/22

side トール 1



 家族は年の離れた兄が1人と、三つ子の姉。それから最低で最悪な父親と、思い出したように来ては自分を詰る、父方の祖父母。


 透流(とおる)はそんな家の末息子。

 更に言うなら、愛人の子として生まれた。


 母親は水商売の女。

 スタイルもよくて、芸能人にでもいそうなほど顔もよくて、頭は悪くなかったけれど、致命的に男運が悪くて尽くしたがりの駄目男メーカー。


 女性蔑視をしたいわけではないけれど、この母親だけはクズだと思っている。

 母親が好きになった相手は、元々屑でも、そうじゃなくても、全員もれなくダメ男になるっていう噂である。

 具体的には聞かなかったけれど、透流が生まれる前、生まれる事すら許されなかった異父兄弟がそこそこいたとかいないとか。


 水商売をしながらも立派に生きる人がいるのは知っているけれど、透流の母は働いているだけマシなタイプのろくでなし。

 そんな母ですら隣に並ぶとまともに見えるろくでなし……つまりは透流の父親に、母親が引っかかったのは結局いつだったのだろう。

 仕事人間なのはいいとして、家庭を一切顧みない、モラハラとパワハラで人間の皮を被って歩いているタイプの人間で、女はとっかえひっかえの消耗品だと公言するクズ男。

 それが透流の父親だ。


 とまぁ、両親の事は透流にとってどうでもいいことだ。

 物心ついた時には、母親は新しい男と一緒に家を出ていたし、父親は愛人の家に入り浸って帰ってこなくなっていた。

 そんな相手を大事に想えと言う方が無理である。


 重要なのは、幼い透流には居場所が無かったという事実だ。


 父親は透流に関心がなく、愛人をとっかえひっかえしては女子供に威張り散らすろくでなしで、

 母親は、物心ついた時には知らない男と家を出て、生きているかどうかも定かじゃない。

 父方の祖父母は透流の存在をゴミのように扱い、顔を合わせれば嫌な言葉ばかりを聞かせてくるし、

 長兄は透流を心の底から憎んでいた。


 三つ子の姉達は、そんな中でもまだ透流の事可愛がってくれていたが、弟と書いて奴隷と読むような人種だったので、それが正しく愛されていたのだと、透流には判断ができない。


 まぁ、長兄の憎悪は透流には理解ができる。

 透流が生まれる前に父と前妻と、愛人である透流の母とで鬼も逃げ出したくなるような修羅場があったのだから無理もない。

 修羅場を繰り広げた結果、無駄に金だけ持っていた父が親権を得たようで、前妻は微々たる慰謝料だけ持って出て行ったというのは、祖父母の話。

 それからすぐに愛人である透流の母親が父の家にやってきて、透流を産み落とした。


 それだけでも地獄なのに、男と一緒に逃げ出した心の底から大嫌いな女によく似た弟なんて、憎悪する以外に何を思えばいいと言うのだろう。


 兄姉からはあからさまな虐めも虐待もなかったけれど、兄とは一緒の席で食事をとったことはないし、会話もない。

 まぁ仕方がないことだと透流は諦めていたので、分かりやすいいじめを受けないだけマシだと、透流は兄姉を憎むことはなかった。


 成長した透流は、天使のように愛らしい男の子になった。

 顔もいいし、声もいい。

 ろくな環境ではなかったけれど、運よく品性と常識は一般人レベルを獲得していたし、背はあまりの伸びなかったけれど、三つ子の姉達に奴隷扱いされていたおかげか、透流はよく気が利いた。

 故に年上の女性たちのアイドル扱いされて可愛がられたが、透流の浮かべる笑顔はいつだって作り笑顔だった。


 大人はみんなろくでもなくて、子供はその予備軍。

 信じられる人間なんて、この世に存在しないのだと、ひねくれて育ったのは透流の責任ではないはずだ。


 そんな透流が、人生が変わる出会いをしたのは、世間体のためにと進学させられた進学校でのことだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ