思い出の動物園1
「隣町にある動物園閉園するらしいよ。」
そう母が言った。いつものように、たわいない会話をする夕食での出来事だった。
私は少し驚いて、箸が止まった。そんな私に気づかずに、母は父と弟の颯太と話を続けていた。話を聞いていると、閉園するのは1年後らしかった。
私は3人の話をぼんやりと聞きながら、味を感じなくなったご飯を作業のように口に入れた。
「ごちそうさまでした。」
私はそう言ってガタンっと席をたった。
「あら、今日は食べるの早いわね。」
「うん、ちょっと課題が終わらなくて。」
そそくさとキッチンへ食べ終わった食器を持って行った。ザワザワした胸のうちを知られたくなかった。早く1人になりたい。そう思い2階にある自分の部屋へ向かおうとリビングのドアに手をかけた。
「はる。」
父の声に私は振り向いた。
「課題大丈夫なのか?」
普段はあまり話しかけてこない父が今日に限って呼び止めたことに、少し苛立ちを覚えた。
「うん、大丈夫。」
リビングから廊下にでて、2階にある自分の部屋へ真っ直ぐ戻った。まだ何かを言いたそうな顔でこちらを見ていた父には気づいていたが知らないフリをした。
部屋に入ると、ベットの脇に置いてあるクマのぬいぐるみが目に入った。無性に泣きたくなった。時間と共に少しづつ薄れていく記憶。当たり前だった日常から頭の中から消えていく。それが嫌だった。今の母は実の母では無い。実の母は病気で私が6歳の時に亡くなった。その7年後に新しい母が来た。その母と父の間に出来たのが今年で3歳になる颯太だ。新しい母は優しい人だ。弟は可愛いし、いい子だ。嫌なことをされている訳では無い。しかし、何故か時々虚しくなる…。自分の気持ちがよく分からなかった。
考えれば考えるほど負のループに陥ってしまう。こんな日はさっさと寝てしまおうと、寝る準備を終わらせベットに入った。