04.嫌な予感がします。
飛び出していったミサさんは中々戻ってこない。王様のところに行ったみたいだけど、それで事態が好転するとは一切思わないのに。ただ、あの姫様が馬鹿をやったと再確認するだけだな。
「うーむ、暇だ」
一人になって逆にボーとするようになってしまった。熱があって辛いという訳ではない。頭痛もないし、喉も痛くない。風邪とは全く違う熱なのだから当然か。動くのが億劫なだけで他に異常は見られない。
「話を聞いたが本当か!? どうして昨日話してくれなかった!」
「頭に響くので声量を落としてください。フレア様」
扉が壊れる勢いで開かれたと思ったら、陛下が飛び込んできた。忙しいのではないのだろうか。その後ろには明らかに陛下を止めようとしてあたふたしている人物たちが見られる。思ったのは一つ。この王国では弄れば面白そうな人たちが多そうだなということ。いたずら心が動きそうだ。
「それに昨日、ある程度は私について話したと思いますが」
「あの程度で気付けるはずがないだろ」
あくまでも心構えの話はした。勘のいい人ならその程度で気付くと思ったけど、買いかぶり過ぎか。参考にしているのがおかしな生徒会長である葉月先輩なのが駄目なのかもしれない。あの人は一つを言えば、十の可能性を検討するような人だ。
「父上! 他国の大貴族を誘拐したと聞いたが本当か!?」
「実はそうなのだ。私達は大変な問題をやってしまった」
何か後から別の男性が入ってきたが、初対面だよな。それに大問題と話しているが、それはその国がこの世界に存在しているなら。大貴族を誘拐したのなら外交問題は必至。下手をしたら戦争に発展するようなものだけど、国が存在しないのであれば問題外となってしまう。目の前で父と息子があれこれと話しているのだが、俺から一言伝えないといけない。
「お二方にお話があります」
「何だ?」
「さっさと出ていけ!」
声を大にして、枕を投げつける。昨日着ていた制服と違って、現在着ているのは布地が薄い寝間着。隠すべき場所はしっかりと隠れているのだがそれでも気恥ずかしさがある。男性であった頃は気にもしなかったのだが、琴音になった影響で免疫がほぼゼロまで下がってしまっている。だから現在の状況はさっさと男性共が部屋から出て行ってくれるのを祈っている。
「ふむ、やはり候補として申し分ないな」
「父上。あの話を本気で考えているのかよ」
「お二方。琴音様のご要望ですので退室をお願いします」
ミサさんによって強引に部屋の外へと連れ出されていく二人を王族と思えるだろうか。尊敬されている人達なのだが、従者との距離は近い様に見える。両者が協力して国を繁栄させているのは共感が持てるのだが、初見だったら王族として疑わしく思える。
「ヤバい。熱が上がった気がする」
「あれだけ大声をあげては仕方ないかと」
あとは恥ずかしさも加味されているはず。唯一この世界へ来ての利点を今思いついた。それは立場を気にしなくてもいいという点。元の世界では琴音の立場を考えて、それなりに言葉遣いを気にしていた。でもこちらでは俺を、そして私を知っている人物たちは誰もいない。好きなように行動しても誰も気にしないのだ。本当の意味で自由なのだが、それはそれで困った事態になっている。
「フレア様が言っていた候補とは何のことですか?」
それでもそれなりに過ごしていた琴音としての言葉遣いは簡単に抜けない。気になる点も出てきてしまったのもある。陛下が俺を候補と言ったのは何かしらの可能性を感じたからだろう。それが将来の仕事なのかどうかは判断できないけど、検討する必要はある。俺にその適性があるのかどうか。
「私から何も申し上げられません。恐らくあれではあるのでしょうが、確信が持てませんので」
「可能性だけでも教えてくれると助かります」
「駄目です。絶対に琴音様の熱が上がってしまいます」
それはどのような意味で。あと、これ以上熱が上がってしまったら意識を失うと思うぞ。ダラダラと流れている汗が気持ち悪いのだが、現状だとどうしようもない。相手が女性であっても裸を見られるのは恥ずかしい。本当に琴音のこの面だけはどうにかならないかな。
「少し眠ります」
「そのようにしていただきますと大変助かります」
少しの疲労で、やっと眠気がやってきた。本当に陛下は何をしにやってきたのか。
結論から言ってしまえば熱があったのはこの日だけ。翌日には熱も引いて、普通に動けるようになった。それでも他の人達から養生するように言われてしまったので部屋で大人しくしているのだが。
「こんな人物を願ったのかよ」
ただ部屋にいるのも暇なので、姫様が参考にしたであろうと思われる書物を取り寄せてもらった。内容はよくあるファンタジー小説。召喚された勇者が魔王討伐を目標として、立ち寄った街で数々の問題を解決していくもの。これだけならば何の問題もない。
「女性関係に問題が有り過ぎる」
問題を解決すれば絶対といえる確率で女性と仲の良い関係となっている。身体の関係を持った女性だって何人もいる。それなのに最後は城で待っているお姫様と結ばれるとか後で絶対に後ろから刺されそうな経歴となっている。でも姫様との結婚式ではその女性たちも笑顔で祝福してくれるとか都合が良すぎるだろ。娯楽小説として考えるなら普通なのだが。
「現実だとダメ男過ぎる」
そんな勇者を望んだのであれば、青年にはその可能性があるのだろう。だけど俺はどうだ。元の世界で女性と関係を結んだ覚えはない。仲の良い幼馴染はいたし、他にも同級生の仲間たちはいた。それでも恋愛関係に発展はしなかった。周りから言わせればそろそろ幼馴染と結婚しろと告げられていたけど。俺もあいつも今の関係を進展させようとは思っていなかった。
「失礼するぞ」
今後をどうするべきなのか考えていたら、昨日陛下を父上と呼んでいた男性が入室してきた。つまり殿下か。俺の手元に置かれている本を確認して、顔を顰めているのだから殿下も一度は読んでいるのだろう。そして姫様がどんな願いで勇者を召喚したのかも知っているはず。
「読んだ感想はどうだ?」
「一般的にある娯楽小説だと思っています」
「現実的に考えた場合は?」
「あり得ない筋書きの連発ですね。特に女性が惚れる理由が分かりません」
ある場面では問題解決したらいきなり見ず知らずの女性が出てきて関係を持った場面すらある。他国の間者とか普通は考えるだろ。それとも自分は絶対に大丈夫だという確信でもあったのか。だから娯楽小説としてはありであり、現実的には駄目出しばかりなのだ。
「そのような人物を望んだ妹は?」
「頭の中がお花畑ですね。彼女にとって召喚装置は理想の人物を呼び出せる便利なもの程度の認識なのでしょう」
「こちらとしては頭の痛い話だ」
用意されている紅茶に口を付けながら目の前の人物を観察する。物語の例に漏れず、青年とは違う魅力を持った美形の男性。俺がまともな女性なら緊張して、上手く話せていないかもしれない。表情がずっと厳しい感じなのがちょっとマイナス。話してみると真面目そうな人物。印象としては元の世界の長月に似ているかもしれない。だから俺が惚れる可能性は微塵もない。
「姫様の様子は?」
「何も変わらないな。自分が何をしたのか分かっていない」
「教育の問題でしょうか」
「やり方を間違えていたのは否定しない。だが問題となる思想はあいつ自身のものだ。それをどうにかするのは難しい」
一般的な教養の問題ではない。持っている思想を変えるのは確かに難しい。否定されれば本人は不快であり、何がいけないのか分からない。それを正すには根気よく年月を掛けて、問題点を説明し続けないと駄目か。それに姫様が持っている思想が危険性のあるものじゃない。今回の問題はそれを利用した人物がいけないのだ。
「それで殿下はどのような用件で私の部屋へ?」
「今後の話をしようと思ってな。父上は各国への対応をどうするかの協議で忙しいから俺が代理となっている」
今後ということは俺の仕事でも決まったのだろうか。こちらの世界にやってきてまだ三日目。あまりにも話が早い気がする。それに昨日言われた候補という言葉が気になる。まだ出会って少しの時間しか話していない俺に当て嵌まることとは何なのか。
盛大に嫌な予感がする。




