33.対策は練ります。あらゆる可能性を考慮して。
経理から苦情が来る被害金額とはどれほどのものなのか。詳細な金額を教えてもらったわけではないが、ミサさんなら知っているだろう。俺が壊したというよりも、騎士団の連中が吹っ飛んで壊れているのだが。
「ミサさん。被害額はどのくらいになりましたか?」
「琴音様は知りたいのですか?」
「一応は把握した方がいいかと思いまして」
「総額三百万越えとなっております。食堂の備品に武器防具の修繕費用。中には全損扱いのものもありましたので」
「わずか一か月で結構壊しましたね」
「あのー、冷静に考えて壊し過ぎですからねー」
苦情が来るのも当然だな。食堂の厨房長はよくこの被害額で何も言わないよ。それともあの騒ぎは俺が来る前からの日常だったのか。武器の破損は主に俺と騎士たちの訓練の所為。魔力で強化された一撃を打ち合っているのだから武器の劣化が激しくなってしまう。俺だってずっと副団長と訓練しているわけではない。
「騎士団では普通なのでは?」
「そもそも武具が全損する訓練とはどのようなものなのでしょうかー?」
「避けないと死ぬような訓練ですが」
「それは実戦ですよー」
誇張して言ったが、大怪我くらいはするだろうな。その為に医療体制も充実しているのだ。他国から持久力と防御力に定評があるのはこの訓練のおかげであろう。訓練内容を視察されたらドン引きされるのが目に見える。あれに付き合える団員たちもおかしいぞ。
「彼が逃げ出すのも納得できますー」
「痛みに慣れるのも訓練ですよ」
「何事も限度というものがありますよー」
副団長に吹っ飛ばされるのが日常のあの騎士団で、この程度は普通に感じられる。俺もだいぶ毒されている気はしているけど。それに副団長なら片腕を切り落とされても笑って戦闘継続しそうで怖いな。あの人を止めるならば全身を拘束する必要がありそうだ。
「それに付き合える琴音さんも頭おかしいですー」
「失礼な。現状に適応しているだけです」
「適応力の化物ですかー。納得ですー」
勝手に人を人外扱いしないでほしい。俺だって最初は戸惑ったさ。でもここは俺の常識では計れない異世界なのだから、これが普通だと思ってしまった。それが全ての間違いだったのか。勇者が所属する国が普通じゃないという可能性を失念していた。まだ技術部に近寄っていないのだが、あそこにも変人がいそうだな。
「元の世界では変人たちとの付き合いが多かったですから」
「琴音様がそのような表現を使われるのは珍しいと思います」
「自他共に認める変人共です」
私としてではなく、俺としての繋がり。高校からの付き合いである変人どもが一緒にこの世界へやってきたらどうなるか。誰一人として嘆くわけでもなく、全力で楽しもうとするはず。頭の中身が絶対におかしい連中だから、本当に好き勝手やるだろうな。一切の躊躇もせず、自分のやりたいことを。
「魔窟の連中が一緒じゃなくて本当に良かった」
「魔物ですかー?」
「そのような蔑称されている連中です。ハッキリ言って、この国でも抑えられる連中ではありません」
「あはははー」
乾いた笑いしか出ていないぞ。真面目な表情で話している俺を見て、それが本当なのだろうと判断したのだろう。そんな連中がやってきてみろ。下手したら国が傾くぞ。賠償的なものと、開発費用や鎮圧なんかで幾らの金額が飛ぶのか予想もできない。
「琴音さんの過去に興味がありますねー」
「みんな、そう言いますね。聞くだけなら面白いと」
これを実体験してみろよ。愉悦の連中ならば楽しかったで済むのだが、抑え役の苦労人たちは口を揃って碌でもない学生生活だったと答えるぞ。確かに楽しかったが、それとも労力を考えると釣り合いが取れるとは到底思えない。被害が甚大すぎるんだよ。
「思い出にはなりました。もう戻れませんけど」
「琴音さんは元の世界に帰るのを諦めているのですかー?」
「僅かな可能性すら見出せないものに希望は持ちません」
「国が探ってくれるとしてもですかー?」
「それは私が判断します。それだけで国を選ぶわけではありません」
「分かりましたー。参考までに受け取っておきますー」
今日のお茶会はこれでお開きとなった。随分と彼女に情報を渡したけど、これで帝国側がどのように動くのか。予測を立て、対策を考える。不確定要素は多いが、そこは臨機応変に対応するしかない。
「琴音様はどのようなお考えなのでしょうか?」
「私としては彼女が本当に第三皇女殿下の手の者なのか分かりませんから。情報が不足している現状ですと、信用しすぎるのは危険だと思います」
外交官なのは本当だろう。室長と話し合っていたのだから顔を合わせたことはあったはず。だけどその背後にいる人物が見えていない。相手の言葉だけを信用するのは危険がある。俺にとってこの世界で明確に味方だと思える人物は少ない。
「彼が引き抜かれるのは確定でしょうね」
「それは皆が思っているはずです」
「ならこれを利用しない手はありません」
同郷のものであろうとも利用できるのなら手段を選ばない。彼から俺の情報が洩れる可能性はある。彼が知っている情報は少ないが、実力は知られるはず。その情報で帝国側が再度、俺の獲得を狙ってくる可能性もあるけど、どうなるかな。
「勇者一人で満足するか。それとも強欲にまだ二人を狙うのか。帝国へ来訪の際には最大限の注意が必要です」
一番の悪手を打ってきたらキレる可能性はある。その際の抑え役がいないのは不安があるけど、何とかするしかないか。副団長の同行を頼んでみるかな。現状で一番の戦力だから。相手に対する戦力ではなく、自分自身を抑えてくれる戦力なのはおかしいけど、打てる手は色々と用意しておくか。
今回でストックを全て使い切りました。
次回更新予定は未定となっておりますが、続きはいずれ書きます。
本当に書ける時間が欲しいです。




