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32.私の評価ですか。ごめん、私の所為だ。


 彼の現状を見てもらったのだが、やっぱりというか、フォリアはいい顔をしていないな。教育はある程度進んでいるのだが、その結果が部屋を焦がす程度の魔法を扱える程度。まだ自由自在に使えるわけではないのだ。


「部屋を焦がす程度の魔法ですとまだまだ成長してもらわないと困りますー」


「その話題は出さないでください。やっと少し落ち着いたのですから」


 お茶をいれたことで少しは心が落ち着いたと思った。だけどフォリアの一言でまた眉間に皺を寄せてしまう。機嫌を直してもらうにはどうしたものか。


「ミサさんも座ってください。お茶でも飲んで少し気分転換したらいいです」


「これが私の職務ですので」


「そう言わずにー。ご厚意には甘えるものですよー」


「フォリア様まで」


「主人命令です。一緒にお茶をしましょう」


「それはずるいです」


 ここまで言わないと絶対に座らないからな。渋々といった感じで席に座ってくれたけど、これが正解なのかは分からない。女性との付き合いはそれなりにあるのだが、過去だと馬鹿をやらかす奴だったから参考にならない。琴音としての親友は俺のために怒ることが多かったな。あれやこれやと声をかけて機嫌を直してもらっていたけど。


「琴音さんは本当に彼について情報を握っていないのですかー?」


「彼の本名すら忘れています」


「それは酷いですねー」


 だってこちらに来て以来、まともに会話したのはさきほどのが初めてだぞ。一か月以上会ってすらいないのだから仕方ない。加藤だったか、佐藤だったかな。直接聞くには失礼過ぎるからずっと彼と呼んでいるのだ。


「私と彼とでは考え方が違いますから。共通しているのは同時にこちらへやってきたくらいです」


「琴音さんの場合は意思が強固すぎますー。ハッキリ言って異常ですよー」


「逆に彼の場合は何をするべきなのか決まっていないので意志が弱いですね」


「優柔不断なのは困りものですー」


「いえ、彼の場合は色々とチャレンジして挫折しているだけです。誰かと比べて上手くいかなくて不貞腐れているともいえましょうか。元の世界ではただの学生だったのですから仕方ないのですが。彼にとってはそれが気に入らないのでしょう」


 俺たちはまだ学んでいる最中にこちらへやってきたのだ。できないのは当たり前。これから努力してできるようにならないといけない。学生としての気持ちではなく、社会人としての心構えが必要な場面にいきなり立たされたのだ。それを理解できない限り、彼はあのままなのかもしれない。


「逆に琴音さんは現状に慣れ過ぎですよー」


「これでも短時間の労働を経験している身ですから」


 こちらでアルバイトといって通じるか分からない。それに琴音の中身の俺は社会人を経験していたのだ。心構えも今更の話。できることは尽力するし、できないのであれば学ぶべき。趣味は楽しみ、活力とする。だから休日が欲しいのだけど、いまだにもらえていないな。


「あの、琴音様。労働をされていたとのお話ですが」


「そうですよ」


「大貴族だったのですよね?」


「悪さをして屋敷から追い出されていましたから。自分の食い扶持は稼がないといけなかったので」


 悪役令嬢みたいな真似をしていたからな。以前の琴音は。その後釜に俺が収まってしまったのだから最初は大変だった。誰もが嫌悪の視線を向けてきたのだから。色々とあってそれも落ち着いた頃に異世界への誘拐事件だ。マジで俺が何をしたというのか。


「大貴族の方だったのですかー」


「絶対にそんな風に見えないと思っていますよね」


「紛れもない本物ですと気品を感じるのですけど、琴音さんからは感じられませんねー」


「庶民的な感覚で生活していますから」


 そもそも溢れ出る気品とはどんなものなのか。殿下と会った際に感じたものかな。あれは言葉にするのが難しい感覚的なものだった。立場が上、支配者、人々を束ねる人。そんなものを感じ取っただろうか。そんな風格を俺が持っているはずもない。


「琴音さんからは感じるのは別のものですねー」


「それは何か聞いてもいいですか?」


「言葉にするなら脅威ですねー。何をやるのか分からない不気味さがありますー」


 脅威か。随分と曖昧な表現だな。別に俺がやることなんて珍しいものじゃない。知識だって一般的なものしか持っていないのだから奇想天外が発明品だって作れない。過去に馬鹿たちのまとめ役をやっていたから鎮圧行動には優れているかもしれない。それ以外に取り得なんてないと思っていたのだが。


「買いかぶりですね」


「そうじゃないと思いますけどねー。琴音さんほど覚悟ができている人なんてあまりいないと思いますよー」


「覚悟ですか」


「琴音さんは人殺しができますか?」


「必要だったらやります」


「即答するあたりが普通じゃないのですよー」


 人殺しが禁忌であるのは理解している。それでも必要だと思ったのならやるべきだ。俺にとっては人を殺したいという思いは常に抱えているものでもある。例えば生みの母親とか。あれと出会った場合、自分が正気を保っていられる気がしない。文字通り、何を仕出かすのか自分でも分からないのだ。こちらの世界ではありえない可能性となってしまったけど。


「人を殺すことに躊躇するのは普通ですー。言葉にするのも悩むほどですー」


「その決断が遅くなってしまい、身近な人が傷つくのであれば私は覚悟を持ちます」


「だから琴音さんとは敵対したくないのですー。どんな手でも使いそうですからー」


 卑劣であろうとも、卑怯だったとしても取れる手段はどんなものでも使う。勝たなくては意味はないし、負けて失うのは何よりも恐ろしい。常に勝者であり続けるのは十二本家にとって当たり前。それがどれほど困難なものでも突き進み、そして現在の地位を手に入れていたのだ。


「琴音さんの実力はどれほどなのですかー?」


「藪から棒になんですか?」


「いえ、こちらで抑えられるかどうか気になりましてー」


「別にそれほどでもありません」


 正直に話していいものなのか悩むな。フォリアだって帝国の人間。秘密をどこまで守るのか分からない。直属の上司である皇女には情報を全部渡すだろう。それに俺の実力がそんなに高くないのは本当だ。あの副団長に負け続けているのだから。


「我が国の副団長と戦い続けるだけの気概がある方です」


「ミサさん。それは言ってもいいのですか?」


「ある程度の情報は渡しておいた方がよろしいかと。琴音様を脅威と捉えてくだされば下手な手も打ってこないでしょう」


 恐らくは想定しているのは密偵による誘拐だろう。知力に優れていても単独の戦闘力が高くないのであれば強引な手段で手に入れようと考えるかもしれない。ある程度の実力があると知られれば、少数での襲撃は控えるかもしれないな。


「副団長には負け続けていますけどね」


「あのー、本当ですかー? あの副団長と戦えているのですか?」


「他国の人に副団長はどんな風に見られているのですか?」


「狂戦士ですー」


 一応は騎士団に所属している人なのに、どうしてそんな評価をされているのか。一体過去に何をやらかしたのだ。もしかしたら世界規模での大会でやらかしたのか。大暴れしたのが容易に想像できてしまう。


「あんな人と戦える時点で琴音さんはおかしいですよー」


「全敗していますよ」


「挑み続けるだけでも称賛ものですよー。あの方と対峙したときの恐怖感は半端ないですからー」


 それは俺も思った。絶対に殺されると思ったのは一度だけではない。その際は俺も全力で応戦しているけど全く歯が立たない。興が乗ってきた副団長ほど危険なものはない。あれと遭遇したら全力で逃げる必要がある。毎回捕まる俺に逃亡の選択肢は用意されていないけどな。


「琴音様の場合は強制的に副団長の相手をさせられておりますね」


「誰も助けてくれないから」


「信頼されているのですねー」


 生贄の間違いだろ。自分たちに被害が来ないように俺を差し出している。その報復は食堂での乱闘騒ぎで晴らさせてもらっている。代償が経理からの苦情である。どこまでも被害が広がっていくのはどうにもならないのだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] それほどでも(過小評価)
[一言] 副団長への供物にされた報復を、出会ってほんの少しの相手に乱闘で出来るっていうのが琴音さんの凄いところだと思います。 脳花勇者に名前ってあったんですね!
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