表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/36

28.交渉開始です。情報寄越せ。


 帰国して早々に陛下から苦情を言われてしまった。備品の破壊が経理の許容を超えたためだ。俺の帰国記念による食堂での乱闘騒ぎ。その首謀者として俺の名前が挙がったのはどうしてなのか。巻き込まれた被害者なのに。それともこれは帝国の使者と対峙するために発破をかけてくれたのか。


「ないな」


「おかしな想像をしていらっしゃるのが分かります」


「ミサさん。今日の予定は?」


「さきほどの陛下の来訪は予定外でしたが、帝国の使者との顔合わせは午後を予定しております」


 午前中に彼と使者が顔を合わせて歓談の予定。午後には俺のところへやってくる。もちろん自室ではなく、専用の会議室で行われる。立会人は基本的に必要とせず、本人が望んだ場合だけ同伴者を認める。俺ならミサさんが傍にいるのだが、帝国側としては誰も同席してほしくなさそうかな。


「今回は私単独で動くか」


「私は必要ではないと?」


「相手の本音を聞きたいからさ。この国の人間が誰もいない状態で帝国側がどれだけ好き放題に言ってくるのか興味がある」


 それによって俺の帝国へ対する評価が決まるからな。こちらを尊重しつつ、帝国側のメリットを提示してくるのであれば高評価。こちらを貶して、帝国側を過大評価するのであれば低評価。簡単な審査だ。会社のプレゼンみたいにしてくれると大変分かり易いのだが。


「ミサさんからの視点で帝国はどんな印象?」


「高圧的であり、他国を見下す傾向があると思われます。大陸最大の国土を有していますが、使い切れていない土地が多いので他国から移民を受け入れてはと提示されているのですが」


「自分たちで何とかすると言い張っていると」


「その通りです。勇者の技術には大変興味があるのか我が国へ探りを入れてくるのは珍しくもありません。私としては嫌いな国です」


 明言するほどか。過去に何かしらのいざこざがあったのは確かだな。勇者の資料を読みふけってはいたけど、アルステア王国の歴史には触れていなかった。これは俺の失敗だな。相手から何を言われても、こちらは真実を知らない。愛想笑いで全部流す予定ではいるけど、反論できないのは歯がゆいな。


「名産とかあるのかな?」


「お酒でしょうか。ワインやウィスキーといった嗜好品は絶賛されております」


「何のしがらみもなく飲めるまであと二年か」


「琴音様も変なこだわりを持っていらっしゃいますね」


 一回は飲んでみたいかな。帝国へ行った際には振舞われると思うけど。敵地で飲む気はしないな。今回の話が一段落したら外交官として赴くはず。また代表とされるのかな。ストレスが凄い勢いで溜まっていきそうで嫌だな。


「今回来た使者についての情報は集まった?」


「はい。勇者と対談するための使者が男女一人ずつ。それと女性の外交官が一人、付き添いという形で来訪されました」


「外交官が交渉を担当するわけではないのか」


「使者は見目麗しく、誰もが振り返る美男美女という話です。典型的なハニートラップかと」


「彼には効果覿面かな」


 王城に勤めている人たちも美人は多いけど、彼に愛敬を振りまいているわけではない。仕事なのだから当然だな。彼を国が独占したいわけではないのだから、相手をあてがっているのではないのだから。侍女に手を出そうとして平手打ちを食らったのは有名な話だ。気が強いよな、この国の女性は。


「さて、私に対してはどのような手を打ってくるかな」


「我々としては全く心配しておりません」


「少しは助言くらい欲しかったよ」


 本当に何も言ってこなかったからな。俺の意志に任せるを本当に実行している。だったら喧嘩を売ってもいいかと思うのだが、その部分に関してだけ釘を刺されている。そこまで騒ぎを起こしていないのに、俺の使い方を知っているのはなぜだ。


 そのまま誰かが心配してやってくることもなく、昼食の時間が過ぎ、対談の時間を迎えた。酷いとは思わないさ。信頼の証だと思うだけ。


「それじゃ、やらかしてくるか」


「自重してください」


 それは相手次第さ。扉を開けると確かに美形な二人が待ち構えている。こちらに笑顔を向けているけど、それがいつまで続くかな。俺が彼のように簡単に懐柔できると思うなよ。美形なんて関係ない。その程度、元の世界で見慣れている。


「お初にお目にかかります。勇者様。お時間をいただき感謝しております」


「こちらこそ。遠路はるばるお疲れ様です」


 最初から喧嘩腰ではない。露骨に軋轢を生む必要はない。まずは相手の出方を確認しなくては。目的は分かっているが、それ以外にも何かしら企んでいる場合だってある。情報は色々と持ち帰らないと。


「アルステア王国での生活はいかがなものでしょうか?」


「私としては何ら不自由なく過ごさせてもらっています」


「本当ですか?」


「本当ですよ」


 どうやら俺との会話は男性が主導で行うようだ。女性はただ隣で微笑んでいるだけ。男性は少しだけ困ったような表情をしている。あれか、彼と俺との考えに違いがあるのだろう。姫様がいなくなったおかげで彼の行動制限は解除されている。自由に王城内を散策できるのだから不満はないと思ったのだが。


「おかしいですね。彼は王城から一歩も外へ出してもらえないと」


「私も同じですよ。いえ、違いますね。最近まで仕事として隣国に赴いておりました。私はすでにアルステア王国を選び、定職に就いておりますので」


 誰の所為で外出が許されないのだろうな。王城内にいるから俺たちの身柄は守られている。外には様々な国の諜報員が隠れている可能性がある。つまり誘拐される危険性があるのだ。まだ一般人程度の俺たちが襲われたらひとたまりもないだろ。


「我が帝国では勇者様の行動を縛るようなことは一切いたしません」


「他国へ行きたいと言ってもですか?」


「もちろんでございます。ただし、同行者は複数付けさせていただきますが」


「そうですよね。逃げられたら大変ですからね」


 無言で微笑みだけ返されてしまった。なるほど、ボロを出すほど無能ではないか。勇者を勧誘するために、能力のない人間を遣わすはずないな。逆にこっちが弱みを握られないように気を付けないと。


「私が隣国へ渡ったのは知っていますよね?」


「それはもちろん。何やら当時の外交官が随分と無茶な行動をしたとか。勇者様にとっては心労が増えたでしょう」


「大変楽しく過ごさせてもらいました」


 どうやらその外交官が俺であるのはまだ伝わっていないようだ。それでも、やらかした事実が伝わっている時点で帝国の情報網も侮れないな。伝達が早い。遅かれ早かれ正確な情報も伝わるだろう。


「ですがどうして彼を連れて行かなかったのでしょうか。随分と不満だと彼はおっしゃっていましたよ」


「それはアルステア王国の決定であるので私から何も言えません」


「不平等であるという点は?」


「彼には専任の教師がつき、様々な教育を施されております。反対に私は国外への来訪でまだ教育を受けておりません。それぞれに役割を用意されているので仕方ないかと。教育を受けている彼の方が早く、順応するかもしれませんね」


「でしたらお二方とも帝国へお越しくだされば、専任の教師をそれぞれにご用意いたしましょう」


 彼の方が教育は進んでいると話したのに、それでも二人まとめてか。狙いは両方であるのは確定かな。それに俺はすでにこちら側を選んだと明言しているのに気にしている感じが全くしない。簡単に諦めるつもりもなさそうだ。


「帝国は勇者に何を期待しているのですか?」


「勇者様のお力と知識をお貸し頂ければと考えております」


「具体的には?」


「帝国のお力となっていただければと」


 定型文だな。こちらがどのような知識や力を持っているのか不明なのだから、明言は避けたか。それをこちらから教えるつもりはない。ただの学生が持っている知識なんて当てにする方が間違っている。今まで召喚された勇者が個性的過ぎたのが悪い。


「褒賞は?」


「勇者様が望むままに」


「王族に次ぐ地位でも?」


「それは私共の判断では答えられません」


 確信を持てたのはこれだな。やっぱり、この国の上層部がおかしいのだと。何で、王様の次に勇者が偉いのを可決したんだよ。そんな過剰な権力なんていらないのに。もしかしたら、他国を牽制するつもりでやったのかな。それなら有能だけど。


 だけど、俺の意見も聞けよとツッコミたい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 琴音さんがどう大暴れするか見物( ˘ω˘ )
[一言] 本音を明かさない対話場面。傍観者目線で読んでもテンションが上がる描写で楽しいです(いいぞもっとやれ)。
[一言] そもそも性格は兎も角能力重視で基本的に勇者が選ばれてて、今回は琴音さんだったところを姫様の希望が混じったから脳花勇者が一緒に来てしまったり?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ