27.このノリですか。日常と変わらない。
副団長が突撃してくる惨状を思い浮かべて、揃って重い溜息を吐いてしまった。よくあれで騎士団をクビにならずやってきたものだ。実力があるのに、問題児の筆頭だな。結婚願望もないから男性に興味はなく、ただ強いものを求めている狂犬。まさしくその通りの人物なのに、騎士団からの信頼が厚いのはどうしてなのか。あれでも部下思いな一面も持っているためかもしれない。訓練では鬼教官だけど。
「おっちゃん。ただいま」
「やっと帰ってきたか。嬢ちゃん。お前さんがいないと騎士団を抑える役目がいなくて大変だったぞ」
「私がいなくてもあのノリだったのですか?」
「相変わらずだ。下ごしらえがまだ済んでいないからそっちを頼む。ミサも手伝ってやってくれ」
「承りました」
厨房へやってきての会話がこんな感じ。最初の頃は勇者であると告げたら、狼狽していたのに今では普通に接してくれる奇特な御仁。他の人たちもそれに慣れてしまってほとんど同僚のように接してくる。第二の職場と化しているのだが、やっぱりこちらの方が性に合っているな。
「相変わらずな量ですね」
「あいつ等の食欲を考えたら当然だろ。毎回馬鹿みたいに食いやがって」
迷惑そうに言っている割に顔は笑顔なんだよな。やっぱり美味しそうに食べてくれるのが嬉しいのだろう。俺だって同じ気持ちだからな。偶に食い過ぎて吐き出す馬鹿もいるけど、それは新人ではよくあるらしい。通過儀礼みたいなものか。
「嬢ちゃんがいなくなって寂しがっている連中だっていたぞ」
「外交官として職務に就いたのですから仕方ありませんよ」
「嬢ちゃんなら騎士団でもうまくやれたんじゃないか?」
「毎日副団長のサンドバックになるのは勘弁してほしいです」
「それはそうだな。俺でも嫌だ」
騎士団からの要望が来たのだが、俺が拒否して殿下が蹴ったな。だったら誰が副団長を抑えてくれるんだと言われたが知ったことか。お前らで何とかしろと言ったら乱闘騒ぎに発展してしまった。血の気が多いにも程がある。その時、初めてミサさんの技量を垣間見たのだが万能侍女過ぎるだろ。騎士団を圧倒する格闘技能とか必要ないと思うのだが。
「主を守るために必要でしたので」
返された言葉がこれだった。一体どこの紛争地帯へ主を送り出すつもりだったのか。真面目にミサさんの存在は謎でしかない。それでも過去を詮索するつもりはない。俺だってまだ真実を語っていないのに、他人の過去を聞き出すのは気が引ける。一生自分について話すつもりはないけどな。
「彼はここに来ましたか?」
「手つきが危なっかしくて見ていられなかったから追い出したぞ」
「ご迷惑をおかけしました」
多分俺への対抗意識でやったのだろう。自炊に慣れていないのであれば家族がいたのかもしれない。それなのに望郷の念に駆られないのはどうしてか。家庭環境に問題があったのか、それとも今を楽しもうとしているのか分からない。彼とはほとんど話していないから。
「懲りずにやってくるのであれば教えてやるつもりだったんだが。それ以来さっぱりだからな」
「何がしたいのか分かりませんね」
勝てる分野を探しているのだろうか。琴音の万能性能を思えば、ほとんど勝てない気がするけど。俺だって同じ気持ちになる。だけど少しでもそこへ近づこうと努力はするだろうな。何もしなかったら追い付くことすら出来ない。せめて並び立つのを目標にしないと。
「料理は場数をこなさないと手馴れませんからね」
「俺だって小さな頃から母親の背中を眺めていたな。将来、ここへ勤めるとは夢にも思っていなかったが。何があるのか分からん世の中だよ」
口は動かしているけど、手は止めない。手元八割、会話二割程度の集中力で下ごしらえを終わらせていく。作業ペースはおっちゃんが一番早く、次いでミサさん。俺は何番目か分からない。ここまでの大人数の食事を用意した経験がないからやっぱり差が出てしまう。少しずつ自分なりに効率化を計ってはいるんだけど。
「終わりました」
「お疲れさん。やっぱり筋は良いな。嬢ちゃんが自炊していたというのも納得できる」
「それ何回目の台詞ですか」
「だって嬢ちゃんは貴族だったんだろ。自炊している貴族なんて珍しくてな」
貴族ではないのだけどな。十二本家の一人である文月という少女も料理はすると言っていた。珍しくはあるけど、皆無ではない。俺としては育ての親である実母の妹である義母が家事の類を苦手としていたので頑張る必要があった。家事の年数だけならかなりのものだ。
「さて、そろそろ連中がやってくるな」
「献立は揃えてありますから、最初は大丈夫ですね」
「問題は食い終わった後だな」
下ごしらえからの流れで準備は全て完了してある。騎士団がやってくる時間はこちらでも把握している。奴らは時間通りに行動するからな。それが組織というものだけど。飯食って、酒を飲んだ後に暴れるのは組織としては外れている。
「琴音。帰ってきていたのですね」
「珍しいですね。副団長が最初なんて」
「最近は琴音がいないと張り合いがないので」
まともに相手をしてくれる人物がいないから。最初の頃と同様に部下たちをぶっ飛ばすのが副団長の仕事だからな。俺が相手をする場合は生き生きとしているのだが、こちらの表情は死に体だ。別に力を付けるつもりはないのだが、負けっぱなしなのは悔しい。だから鍛えているのだが、勝てる見込みはまだ立っていない。
「おっ、琴音だ」
「おかえりー」
「我らの勇者様が帰ってきたか」
続々と食堂へやってくる騎士たちへ軽く挨拶を返しておく。三番目の奴にはおしぼりを投げつけておいた。奴が言っている勇者の意味は、副団長の相手をしてくれる無謀者としての意味だから。お前らの被害を減らすために頑張っているのではない。むしろ、お前らが頑張って相手してやれよ。
「予定通りの日程ということは無事に姫様の投棄には成功したのですね」
「私に関わるなと釘を刺して放り投げてきました」
「お二方、言い方に配慮してください」
だってその通りだし。誰もがあの姫様を厄介者として扱っているのは可哀そうに思うかもしれないが、やらかしている規模がでかすぎる。過去にも色々とあったのだから積もり積もったものだってあるはず。
「琴音の帰還を祝して乾杯!」
「脈略がないにもほどがある」
唐突に俺を肴に酒を飲まないでほしい。案の定、暴れたので鎮圧はしたけど。ノリが元の世界と変わらない安心感は何だろうな。
中身の人の過去が、馬鹿騒ぎばかりだったので順応しております。
乱闘鎮圧もお手の物です。




