26.考察します。謎は謎のままが幸せだな。
現在の立場を定めた馬鹿に心当たりはある。むしろ、そんなことができるのはあの親子しか思いつかないけど。陛下と殿下が共謀してやったのであれば納得はする。行為の意味は全く分からないけど。意思を尊重するという言葉はどこへいった。明らかに俺を囲い込む気満々じゃないか。せめて俺へ相談しろよ。
「あの馬鹿親子は」
「陛下がここまで無茶をするのは珍しいことです。王位を継ぐ以前は破天荒な方でしたが」
当然の疑問だけど、ミサさんの年齢は幾つなのだろう。地雷になりそうなので聞けないけど。見た目からしたらまだ二十代ぐらいだと思う。陛下が王位を継いだのなんて十何年前の話だろ。
「殿下の嫁探しを本格的にやらないといけないのかよ」
「私は琴音様がふさわしいと思いますが」
「止めてくれ。私は殿下に対して微塵も恋愛感情はないから」
一瞬、殿下と結ばれる未来を思い描いて気持ち悪くなってしまった。外側だけなら似合っているかもしれないが、内面に俺がいると考えただけで悲惨な情景になってしまう。ちなみに口調を崩しているのは、ミサさんに気を遣うのを止めたから。信用できる人物なのは十分に知ったからな。
「後継ぎを考えますと琴音様以外にも考えないといけないのは事実ですが」
「どういうことだ?」
「勇者は子孫を残せない。それは一般の資料には残せなかった隠された事実です」
それをどうしてミサさんが知っているのか疑問はあるけど、勇者の核心へと迫る事実になりえる。そして俺が考えている最低最悪な仮定を補強する事柄だ。
つまり、勇者とは人間ではない。勇者としての能力を備えた本体のコピー品。
本人を異世界から連れ去ったのであればどうして持ち物を限定する必要があるのか。魔力を生み出す器官が後付けで補強できるものなのか。驚異的な成長速度を見せる肉体は異常なのではないのか。考えれば疑問点は数多くある。それらの答えとして相応しいと思うものはこれしかない。だったら勇者は何で構成されているのかという謎もあるが、その答えはまだ出せない。
「あくまでも仮定の話だけど」
証拠なんて一切ないただの被害妄想。それだけで済んでくれればいいだけの話だ。だから生涯ずっと抱える羽目になる謎だな。別に絶望なんてしない。元の世界では本物の俺が何も変わらない毎日を過ごしていると思えば羨ましくあるけど、家族に心配は掛からない。俺は自分よりも周囲を大切にする。特に家族は一番重要だ。
「よし、またやけ食いだ」
「琴音様。止めはしませんが、後悔はすると思いますよ」
ミサさんの言葉で欲望が萎えてしまった。最近身体を動かしていないから、ちょっとだけ体重が気になってしまっているのは事実だ。まさか体重計が恐ろしいものに見えてしまうようになるとは。
「なら着替えて厨房を借りる」
「それでしたら厨房長も喜ぶのでよろしいかと」
訓練場への立ち入りも禁止されているのであれば、料理でストレスを発散するしかない。珍しいものを作る訳でもないのだが、なぜか厨房にいる人たちは喜ぶんだよな。もちろん王城の本所ではなく、騎士団の詰め所がある場所。格式高い宮廷料理と比較されたら駄目だと思われる腕前なので仕方ない。
「あの厨房長。普通に私をこき使うよな」
「人員増員の要望を出している最中ですから仕方ありません」
さきほどの話だと俺はそれなりの地位のはずなのに。別に権力を振りかざすつもりはないけどさ。様付けで呼ばれるのも嫌だから近しい距離感が丁度いい。ミサさんだけはそれでも俺を様付けで呼ぶ。主人と従者であるのは絶対であると職務に忠実なのは玉に瑕だな。
「だったら私を採用してほしいよ」
「琴音様はすでに外交官としての職務がありますので許されないと思われます」
「転職したい」
「要望は通りません」
あそこまで悲惨な報告書を提出したのになぜ駄目なのか。そしてどうしてミサさんが断言するのか。他国へ渡ったらトラブルに見舞われる可能性は格段に高い。だったら自国内で大人しくさせておいた方がいいのに。面白そうだからという理由じゃないだろうな。
「そうだ。私の制服を何着か作ってもらっていいかな?」
「琴音様が元々着ていたものですか?」
「材質まで同じとは言わないけど。外側を真似る程度でいいからさ」
「かしこまりました。指示を与えておきます」
理由は聞かないのだな。別に深い意味はない。外交官として活動するのであれば支給されたものでいい。だけど勇者として活動するのであれば、この恰好では不都合がある。国へ迷惑を掛けないのであれば元々着ていた学生服を利用する。勇者として動く場合は、暴れるのを前提として行動になると思っている。
「スパッツみたいなものもあればいいんだけど」
「ご用意しておきます」
「あるんだ」
外交官はズボンだけど、学生服だとスカートだから激しい動きをすると下着が見えてしまう。それを防ぐために必要だとは思ったけど、それすらも用意できるとは。過去の勇者たちは本当に自重していなかったのだな。やらかし過ぎだ、ありがとう。
「それじゃ戦場へ行こうか」
「間違っていないので訂正のしようがありません」
食事時の厨房はまさに戦場だから。特に騎士団の詰め所は。あの厳しい訓練を終えた後の騎士たちの食欲は恐ろしいほどまで高まっている。食って、騒いで、暴れて、鎮圧される。最近だと鎮圧の役目が俺に回ってくるのはどうしてなのか。どうにも俺を対象として暴れている節もあるのだから困ったものだ。
「訓練場では副団長が琴音様を独占している状況ですから」
「あの光景を見て、私へ挑んでくるのは間違っているぞ」
副団長にボコボコにされている俺だが、それでもある程度は粘っている。治療は傍に控えている医療班が行ってくれるから傷跡も残っていない。過去に残っているものを除けば。左手首の傷跡は騎士団ならば誰もが見ているのに、誰も突っ込んでこない。それはありがたいのだが、この国の人たちは空気読めすぎだろ。
「おかげで格闘の腕は上がったけど、毎回私も含めて厳重注意されるのはどうにかならないのか」
「琴音様なら魔法で一斉鎮圧できるではありませんか」
「あれは加減が難しい。威力を上げ過ぎれば人は簡単に死ぬ。気軽に使えるものじゃない」
「第二殿下相手に使われていたはずですが」
「最大限の注意はしていたさ。最初に暴発させたのがいい経験になった」
電撃は簡単に人を昏倒させられるが、命も簡単に奪える。発現させればどの属性よりも速く相手に届き、広範囲に広げることも可能。ただし、防壁と呼ばれる魔力のシールドに対しては脆弱。貫通性能がないに等しいのだ。どの属性も弱点は持っているが、要は使い方次第。
「経理からの苦情には器物破損もあります」
「それは騎士団が抱えるべき案件だよな」
「何があったのか、報告は全て正確に伝えております」
つまり俺も一緒に暴れていたのを伝えているのかよ。何で経理から睨まられないといけないのか。俺は巻き込まれているだけなのに。おかしいな。異世界に来たはずなのに、元の世界と変わらない状況になってきていないか。
「巡り合わせかな」
運命なんて言葉は信じていないし、神がいたとしたらぶん殴る。俺と琴音の境遇を思えば、その考えは正しいだろう。十二本家の連中だって同じだ。最上の才能とイカれた個性を合わせて持たされているのだから。
「今日は平和でありますように」
「無駄な祈りです」
「思っても、言わないで欲しかった」
「国を離れていた期間を考えますと、副団長はウズウズしているはずです」
「サンドバッグ役じゃないのだから」
反撃できる程度までは成長したけど、一日通して二、三回ほどだ。後は避けるか、防御しているのみ。あれを訓練だと思っていいのだろうか。その最中でも他の騎士たちは平和そうに訓練を続けているし。真面目に誰か副団長の凶行を止めてくれないかな。
「自室に突撃は勘弁してほしい」
「立ち入り禁止を知られたらやってきそうですね」
欲求不満の副団長をどうにかしてくれよ。これでよく今の立場を任せられていると思うよ。能力があれば性格は関係ないのだろうか。だったらせめて抑え役を用意すべきだろ。それが俺なのかな。
この考察が真相になるとは限りません。
他にも案は幾つか用意しているので。




