24.報告しました。誰も信じない。
帝国の使者がやってきている。その情報だけでは足りない。目的の一つは察しているが、他にも狙いがあると思っておいた方がいいか。自国内だからといって、こちらが有利というわけではないからな。
「せめてどのような人が来たのか分かれば、方策も考えられるのですが」
「詳細は王城に着いてから聞くしかありません」
俺と彼の情報は簡易的に各国へ知らされている。成人している男女一人ずつの召喚者。成人はこの世界での水準での話。伝わっている情報はこの程度。魔法は何が得意で、どの程度の力を持っている。専門的な知識は何かまではアルステア王国だって知らないのだから無理。そもそも俺たちだって知らないのだ。
「この報告書について説明を求む」
「その通りですよ」
「馬鹿?」
王城に到着してまずは事務所へと向かった。帝国の使者について情報を集めたいのだが、まずは手持ちの仕事を片付けるのを優先している。一つずつ解決していかないと中途半端になってしまうからな。そして現在、室長から睨まれている最中。
「こんなのが真実だと思える?」
「事実ですよ」
「第二殿下を簀巻きにした?」
「本当です」
重く、長い溜息を吐かれてしまった。機械的な口調が特徴の室長だけど、別に感情が希薄とかそういうのではない。喜怒哀楽に関しても普通だし、仕事だって優秀である。そんな人が俺の上司なのだが、やっぱり報告書は信じてもらえないか。
「馬鹿。大馬鹿。琴音はもっと自国を考える」
「考えてますよ。三割ほど」
「せめて九割は考える。私たちの行動一つ一つが自国へ利益か不利益を与える」
「理解しています」
「その結果がこれ?」
「これです」
「誰かこの大馬鹿者の頭を修理!」
暴れようとした室長を他の面々が取り押さえる。どうやら怒りの許容量を超えてしまったようだ。それを眺めつつ、淹れられていた珈琲を啜る。やっぱり紅茶より珈琲だな。寛いでいたら周りの同僚たちから睨まれてしまった。誰の所為でこうなっていると。
「結果だけ見れば大成功じゃないですか」
「その過程が問題」
「それは自覚しています。ですが最初に提案してきたのはフェイル殿下です。どうして外交官に恋愛相談してきたのか謎過ぎますよ」
「勇者だから」
「便利ですね、その言葉」
勇者だからで全部解決できると思うなよ。勇者である自覚すら持っていない人間に過度な期待をされても困る。外交官ですら持て余しているというのに、それ以上なんて無理だ。
「ミサには最初から期待していなかったけど」
「私は琴音様が求めるのであればお応えする所存です」
「駄目侍女め」
本当であれば俺の傍付きは抑止力の役目を持っているはずだった。なのにミサさんは俺を止めようとせず、積極的に協力してくれる。王城内では主人と認めた人物を駄目にする侍女で有名らしい。だから駄目侍女。何か俺の周り、個性が濃くないか?
「でも偶に止めますよね?」
「それは主人にとって不利益になり得ると思ったためです」
「どうして陛下はこの二人を揃えた」
積極的に暴走する外交官に、主人を積極的にサポートする侍女。混ぜてはいけない二人をセットにしたのは陛下の指示だ。だって最初の頃は俺も本性を出していなかったから。日常生活に関しては一人でほとんどやってしまうから、ミサさんは暇になるだろうと思ったのかな。
「琴音はこの報告書が勇者の活動報告になるのを自覚している?」
「嘘を書けと?」
「そうは言っていない」
「素敵なストーリーにしますか?」
「喧嘩売っている?」
また爆発しそうだな。真実を織り交ぜた嘘だから性質が悪いな。俺だってそんなストーリーを書きたいとは思わない。何だよ、他人の恋愛を全力サポートする勇者とは。それに報告書にストーリーなんて必要ない。そんなものを提出したら全力で破り捨てられるな。
「外交官らしくして」
「外交官としての自覚がまだないのですけど」
「持て」
だってどんな仕事をするのか、いまいち理解してないのだ。今回の初仕事だって明らかに外交官のものじゃないだろ。勇者としての仕事とも違う。何に当て嵌まるのか全く分からない。肝心の交渉だってフェイル殿下とフェルトさんで詰めたのだから俺はほとんどなにもしていないのと変わりない。
「この報告書はこちらで預かる。現在の問題について協議する」
「帝国からの使者ですか?」
「使者は男女一人ずつ。恐らくこちらに合わせてきたと思われる」
異性が交渉するのか、それとも同性か。どちらならば勇者が話しやすく、そして本音を引き出せるのか。それを見極め、効果的に活用するためだろう。彼ならば断然女性と話したほうが懐柔しやすいだろう。俺に対する引き抜きもやってくるだろうか。
「私も対象になっていますか?」
「帝国は強欲。あわよくば二人とも奪取したいと考えているはず」
「すでに私がアルステア王国を選んでいたとしても?」
「考えは変わらない」
面倒な話だな。国を選んだのだから交渉の余地すらないのに。俺の興味を引かれるものが存在しているのなら話は別だけど。温泉とか。まだそんな話を聞いてすらいない。それにここまで強引にやってくる国に所属したいとも思わない。普通なら来訪の一報くらいは入れるだろ。
「彼の教育は順調ですか?」
「騎士団の訓練に顔を出してはいるけど芳しくはない。考えの矯正にも苦労はしている」
「中々抜け出しませんね」
表情から苦労しているのを察する。顔は出しているけど毎日というわけではないだろう。副団長が指導するとやり過ぎるから接触は禁じているはず。強くなりたいという欲求はあるからそれなりの努力はしていると思うけど。
「魔法の習熟は?」
「そっちは概ね順調。勇者はやっぱり慣れが早い」
漫画、アニメ、映画と参考になる映像は色々とあったからな。イメージがしやすいのは大きなアドバンテージになる。理屈で考えるよりも、感覚で扱うのが正しいらしい。魔法を理屈で考えるのは前提が間違っている。こんな超常現象を解明なんてできるか。
「国として欲しいと思いますか?」
「我々にとっては必要不必要の判断はしない。勇者の意思に任せる」
「私は?」
「部下は見捨てない。ただし、馬鹿じゃなければ」
つまり馬鹿な真似はすれば容赦なく見捨てるのか。本気で言っていそうで怖い。俺だって好んで場をかき乱しているわけではない。状況がそのように仕組まれている気がするだけ。俺がやらかさないと最善の結果にたどり着けないのが悪い。
「交渉の席には誰が立会人として参加するのですか?」
「現在その為の会議が開かれている。帝国側は立会人を拒んでいるらしい」
聞かれたくない話だってあるだろうからな。主にアルステア王国の不評とか。でまかせを言ってくる可能性だってある。こちら側の印象を悪くして、帝国へ引き込もうとするのは手法としては当たり前。だけどそれをこちら側まで聞いてしまったら、国家間の問題へと繋がってしまう。
「立会人は必要ないと思います」
「どうして?」
「どちらにせよ、結果は変わりませんから」
彼が帝国を選ぶ可能性は高いと思っている。まだ考えを改めないのであれば、甘言に惑わされて言質を取られるはず。アルステア王国は是が非でも勇者を必要としていないから、勇者を当たり前のように扱っている。それが正しいのだが、彼にとっては不満に思っている部分なのかもしれない。
「特別扱いしてくれる国と、しない国。彼ならどちらを選ぶと思いますか?」
「前者」
「勇者として扱ってほしいと常に思っているはずです。それは最初に召喚されたときの発言で分かります」
だから甘い言葉に弱い。俺ならば甘い言葉を囁かれてもその裏を読んでしまう。基本的には疑ってかかるからな。騙されるよりだったら、それを利用した方がいいじゃないか。




