23.次の相手です。休みが欲しいな。
アルステア王国へ帰ってきた俺たちはそのまま王城へと直行した。本当なら城下町へ寄り道しても良かったのだが、上司である室長に叱られるだろうと止められたのだ。巻き込まれるのはフェルトさんだから当然か。
「絶対に休暇の申請をしますからね」
「却下されるのがオチですよ。ここ最近の忙しさは本当にきついです」
勇者召喚の事後処理に奔走しているからな。あの姫様がやらかしたのを国が後始末しているのはいいだろう。だが被害者であるはずの俺が駆けずり回るのはおかしいと思っているのは俺だけか?
「私は被害者なのに」
「使えるのならば子供でも使え。実際その言葉通りですから」
成人は十六歳なのだが、別に働くのに年齢制限は設けられていない。能力があるのであれば幼い子供でも容赦なく働かせているのだが、勤務時間は一般職員よりもかなり短い。それに合わせて給料も安いのだが、一種の社会科見学と考えれば納得できなくもない。
「何というかアルステア王国は変わっていますね。街並みからもそう思えます」
「勇者の影響を一番受けている国ですから」
今までの勇者はここで召喚されて、そして殆どが他の国を選ばずに、ここを選択していた。理由は分からないが、住みやすさや人の温かさに惹かれたのかもしれない。俺のように他の国を回れるのであれば心変わりするかもしれないが、結局は墓もアルステア王国にあるのだ。
「でもこれはやり過ぎの様な気がします」
「建築物ですか? 私は生まれた頃からこのようなものでしたから不思議に思ったことはありません」
「他の国へ行った際には?」
「自国の特色だと思っていました。変わったものが多いですから、我が国は」
俺がいた時代よりも若干古い様式ではあるが、それでもファンタジー感は一切感じられない。それほど建築物に関しては現代と変わりないように思える。やったのは二代目勇者。その記録を読んで違和感を覚えたのがある。時間経過が合わないと。
「自重知らずの勇者たちですか」
「琴音さんもその中に含まれているのを自覚してください」
別に俺は文化に革命を起こすつもりはない。そんな知識もないからな。やりたいと思ったからやるだけ。だから自重していないと思われているのだ。勇者が魔王になるかもしれないと言われるのはこのためだな。自由過ぎる勇者が世界に破滅に導く。
「魔王になった勇者は存在しないと言われていますが、本当なのでしょうか」
「記録上は確認されていません」
あくまで記録上の話。記録に残せなかった不都合はあったはず。一つ問題があるとすれば魔王をどのような手段で倒したかだ。対応策である勇者は魔王になっているので不可能。あるとすれば寿命による死亡。時間による解決か。それまで辛抱するのもかなり辛いと思うのだが。
「魔王になって何をするのかという疑問もありますね」
「世界征服でしょうか?」
「それなら最初から勇者として活動していないと思います」
何かしらの原因があったから魔王になったのではないのか。過去を考えたところで資料が何も残っていないのでは調べようがない。そもそも魔王が本当に悪となる存在なのかも謎なのだ。勇者の意味は分かる。世界の救済と革命の引き金。魔王がその逆であるのなら世界の破滅と文明の衰退。繋がりはするけど、納得のいく答えじゃないな。
「疑問があるとすれば時間経過が合っていない点でしょうか」
「時間ですか?」
「建築物を見ても二代目勇者は私と変わりないか若干の過去から召喚されたと思って間違いないでしょう」
「それが何か?」
「二代目が召喚されたのは何百年も昔なのに、私とそれほど差がないのは不思議です」
もちろん技術が発展して追い付いてきた可能性だってある。それでも基本構造から考えなくてはいけないのだから勇者の知識は必要になってしまう。召喚される人物に時間的な制約は設けられていない。つまり過去でも未来でも時間的概念を超えて召喚できるのか。そんなものを解明できる気は微塵もしないな。
「解明できない超技術。なぜ作られたのか分からない謎。過去の文明は何がしたかったのか」
「琴音さん。そちらに没頭する前に目先の問題を考えてください」
現在やっている考察なんてただの現実逃避でしかない。俺がこれからやらないといけないのは上司である室長へ友好国アンスリウム王国で何をやったのか報告しないといけないのだ。それを思い出すだけで頭が痛くなってくる。
「この報告書を信じてくれると思いますか?」
「私ならやり直しを命じて、さらには事情聴取でしょうか」
ですよね。俺だって同じ方法を取ると思う。外交官として派遣したのに、やったのは恋愛問題の解決に、不満を述べた貴族娘たちを黙らせただけ。目的は完璧にこなしてきたけどその手段が問題になる。外交問題にはならないよう配慮はしたけどさ。
「一番の問題は第二殿下を簀巻きにしたことでしょうか。あの、本当にやったのですか?」
「はい。ミサさんと協力して。私一人では運ぶのが大変でしたから」
「琴音様が魔法で感電させて、私が用意した縄と布で縛り上げました。見事なお手並みだったと証言いたしましょう」
「いえ、そんな証言は必要ないのですが」
慣れていたのは俺として馬鹿たちをまとめあげていたため。琴音にそんな経験はないから。ハリセンで叩きまくって、それでも足りない馬鹿には簀巻きにして吊るしていたな。突き抜けた能力があるのに、使い方が間違っている奴らばかりだったのだ。普通の手段では黙らせることすらできなかった。
「普通に国際問題へ発展する案件ですよ」
「そこはフェイル殿下の許可を頂いていましたので問題ないかと」
「いえ、常識的に考えてありえません」
「では非常識ということで」
「琴音さんはもっと常識的な方だと思ったのですが」
「元の世界でこのような言葉があります。十二本家に常識を求めるな。関わるならば相応の覚悟を持て。利用しようとは絶対に思うな」
資産は潤沢、能力は飛びぬけている十二の家。さきほど言った三つの言葉はどれも当て嵌まる。常識なんて知らないとばかりに無茶な行動をして成功を収める。親しいものならば巻き込むのは当然。だってそのほうが面白いから。勝手に利用されたと知れば相応の報復行動に動くと厄介極まる人物たちばかり。俺だって一応はそこの人間なのだ。
「その十二本家というものがどのようなものなのか判断できないのですが」
「私が逃亡を覚悟するくらいの化物たちです」
「話を変えましょう」
露骨に逃げたな。俺ですら手を焼いているのにこれ以上問題を抱えたくないのは分かる。だけどここは異世界だ。いくら奴らでもさすがにここへは現れないだろう。来たら革命どころか一国を作り上げる可能性すらある。それに巻き込まれると思うと重い溜息が出てしまった。
「どうかしたのでしょうか?」
唐突に馬車が停止した。外に誰かが居て、フェルトさんに耳打ちしているのを確認したけど。フェルトさんの表情が険しいものに変わったな。何かしらの問題でも発生したか。でもその問題とは何なのか。
「琴音さん。問題が発生しました」
「それは察しますが何ですか?」
「帝国の使者が来訪したようです」
相手側からの先制か。別に想定していなかったわけじゃない。こちら側から訪問するのが筋であるのだが、相手がしびれを切らしてやってくる可能性はあったのだ。その可能性が高いのが帝国であるのも協議していたのだけど。
「タイミングとして考えれば焦ったのでしょうか」
「勇者の一人が友好国へ向かったのですから、取られる可能性があると思ったのか」
「状況は聞けましたか?」
「いえ、来訪したのはさきほどだったらしく」
まだ何の目的でやってきたのかは分からないと。でも目的なんて一つだけだよな。勇者の引き抜き。この一点のためだけに来たと思って間違いない。賠償の交渉へやってくるなんて悠長さはない。そしてアルステア王国が一番警戒している国でもある。
一難去ってまた一難。彼ならさっさと連れて行ってもらって構わないが、矛先は俺にも向かうよな。さて、どう動くかな。




