22.敵からの感謝ですか?ふざけるな!
前に進み出た俺を睨みつける彼女たちの睨みが怖いことで。だけど、その程度の眼光が俺に効くかよ。お前たちの都合なんて知らない。こちらの都合を優先させてもらう。あと、この馬鹿たちの親はさっさと娘たちを取り押さえろよ。
「貴族の娘たるもの、国を一番に考えるのは当たり前ですよね。第二殿下とアリス姫の婚姻は両国の友好を強固にするもの。それを祝福できないあなたがたを馬鹿と表すのは間違っているでしょうか?」
俺の煽りに全く耐性がないのか食って掛かろうとして来たのだが、ようやく動き出した親御さんが止めてくれた。現在の俺の立ち位置は姫様たちと娘たちの丁度中間。最初の騒ぎでここへ移動したのだ。さきほどの場所だとちょっと都合が悪くて。
「そんなお馬鹿な方々には天からの贈り物が届くかもしれませんね」
右手を上げて一拍置いてから指を鳴らす。一瞬の閃光と轟く爆音。それは会場の外で発生した現象。誰もが外へと視線を向けるが、その一瞬を確認できた人間はいない。
「贈り物が欲しい方は誰でしょうか?」
娘たちは凍り付き、親御さんに引っ張られながら群衆の中へと戻っていく。誰もが思っただろう。さきほどの現象は俺が引き起こしたもので、確認はできなかったが恐らく雷を落としたのだと。そこまでの力のある勇者に逆らうのは恐ろしいと考えてくれたのであれば僥倖。ここまでは計画通り。
「陛下。騒ぎを大きくしてしまい大変申し訳ありません。私はこれで退場とさせていただきますので、どうぞ引き続きお楽しみください」
「難儀を掛けた。ゆっくりと休んでくれ」
「お待ちになってください」
さっさと退場しようとしたのに、それを引き留めたのは姫様だった。苛立ちを込めた視線を向けると姫様は若干怯んだのだが、それでも引かない。空気を読めよ、この馬鹿が。ここで俺がさっさと退場するのが理想的だったのに。
「あ、あの。ありが」
「黙れ」
感謝の言葉を遮る。有無を言わせぬ怒りを込めた言葉に、姫様は黙ってしまう。その際に第二殿下の腕へと縋りつくのは他人から見れば可愛らしく、そして可哀そうに思うだろう。そして俺は悪役か。ここからは計画性などなく、全てがアドリブ。感情のみで動く愚の骨頂。
「お前は私に発言するな。何も思うな。それが私に対する謝罪になる」
それだけを言い、会場を後にする。会場の雰囲気は最悪になっただろうな。俺の知ったことではないが。俺は現状を受け入れてはいるが、原因を許してはいない。人生を狂わされたのに、自分を祝福してくれると勘違いされては怒りもする。失礼な発言が許されるのであれば地獄に落ちろと言っていたな。ぐっと堪えたけど。
「心中お察しします」
「あのお花畑な頭の中身は一生治りそうにありませんね」
横にいるのはミサさんだけ。フェルトさんは残って事態がどのように動いているのか観察する役目がある。自国の人間が誰もいなくなるのは駄目だよな。俺の役目は全部終わった。あとは自国へと戻って報告するだけなのだが、怒られるか、呆れられるかのどちらやら。
「しかし琴音様には驚かされてばかりですね。あのような魔法をお使いになって疲弊しているように見えません」
「別に本物の雷を発現させたわけではないですから。あれはただの演出です」
「えっ?」
本物の雷を落としたら被害が出るじゃないか。落とす場所だって計算しないといけないのにその下調べすらできなかった。会談の話し合いが結構長引いたからな。
「閃光と音で雷が発生したと思わせただけです」
一瞬の演出だから本物なのか、偽物なのか判別が難しい。それにどこへ落ちたのかだって探すのも大変だろう。ただ近くでという情報だけでは探しようがない。勘のいいフェイル殿下あたりは気付いているかもしれないけど。
「これでこの国での仕事は全部終わりましたね」
「琴音様のおかげで婚姻に反対するかたもいないでしょう。勇者が認めたものを否定する愚か者は国として抑え込むと思います」
「私が姫様に対していい印象を持っていないのも理解したはずですね」
「姫様を利用して琴音様を誘き寄せるような馬鹿な真似もしないでしょう」
計算外の事態ではあったが、きっちりと利用させてもらう。祝福してくれたのだから勇者は姫様を気に入っているという思い込みは邪魔でしかない。姫様から救済の打診があれば勇者が駆け付けてくれると利用されるのは業腹だ。だから俺の行動は姫様にだけではなく、貴族に対する釘差しでもあった。
「あの姫様が私を結婚式へ招待しないのを切に願います」
「フェイル殿下から届く場合もあると思いますが」
「破り捨てるか、燃やすかの選択肢しか浮かびません」
幸せそうな顔を見るだけで怒りが湧いてくるのだ。結婚式に呼ばれでもしたら苛立ちとストレスが凄い勢いで上昇しそうだ。俺にとっては拷問でしかない。行くのならばアレス殿下だけにしてほしいな。
「料理。殆ど食べられなかった」
「お部屋にお運びするよう頼んでおきました」
「さすが」
もしかしたら、ちょっとした量かもしれない。だけど今回は我慢しよう。元の世界だったら、嫌なことがあっても隣室の人と一緒にご飯を食べながら愚痴を零してストレス発散していたのだが。こっちでのその役目はミサさんだな。
「ちなみに質と量は?」
「ご安心を。私が選び、琴音様が満足できるだけの量を頼みました。手配は完璧です」
「イエーイ」
嬉しくなってミサさんへハイタッチしてしまう。こうなったら馬鹿食いによるストレス発散。明らかに駄目なやり方なのだが、今回ばかりは許してほしい。ちゃんと自国に戻ったら身体を動かして、スタイルの維持はするから。サボるとぽっちゃり体形に戻ってしまう。
「琴音様は不思議な方ですね。切り替えが早いといいますか、感情の起伏が激しいといいますか」
「制御できないものほど扱いが難しいのです。私にとって感情を抑えるのがそれです。特に怒りに対するものは我慢が効きません」
俺の本当の母親は玉の輿を狙って俺を生んだ。そして目論見が失敗したから妹へと俺を捨てた。その話を聞いた俺は母親に対して消えない怒りを抱えてずっと生きてきたのだ。だからなのか怒りを我慢するのは俺にとって難しい。
「勇者が魔王になるという話がありますが、もしかしたら私はそうなるかもしれませんよ」
「いえ、短いお付き合いですが私には琴音様が凶行に走るとは思えません。仮にそのような事態になるのであれば原因は我々にあると考えます」
理解者がいてくれるのは本当に頼もしい。まだ俺の全部を見せていないし、真実を話してはいないけど、ちゃんと俺を見てくれる人がいるのは心の安定につながる。誰もがミサさんと同じように考えてくれないだろうけど、一人でもそんな人がいるのは俺にとっての救いである。
「食べて寝て、明日も元気に過ごそう!」
「お傍には居りますので、愚痴程度なら零してください」
結局滞在日数は予定通りで終わり、外交官としての初仕事は無事に終わった。これが外交官としての仕事だとは全く思えなかったけどな。何で仲がこじれた姫と王子の関係修復をしなければならなかったのか甚だ疑問だ。
「それではフェイル殿下。お元気で」
「また君が来てくれるのを楽しみに待っているよ」
「その際に彼女の顔を私に見せないのであれば喜んで参上しましょう」
「やれやれ。彼女も嫌われたものだね。君の状況を考えれば当然だけど」
わざわざ見送りに来てくれたフェイル殿下へ釘を刺しておいたけど、必要なかったな。彼もまた俺をちゃんと見てくれている人物。結婚式以外でならばまた来訪しても構わない。そして列車は出発する。新たな問題が自国で発生しているとは知らずに、俺は帰国する。
練習内容、魔法式スタングレネードとか閃光手榴弾みたいなものです。




