21.これで終わりですか。まさかな。
注意されても俺の体勢は変わらない。今回ばかりは許してほしい。王族を拉致したという事実が今更ながらにとんでもないことをやらかしたと自覚しているのだから。反省も後悔もしていないけどな。
「琴音様。はしたないです」
「一仕事片付いたので見逃してください。あれを仕事といっていいのかは疑問ですけど」
「勇者は個人的な依頼を受ける場合もあるらしいのですが、恐らく今回の事例は初めてでしょう」
王族貴族から悩みや問題を相談されて、それを解決していたのは資料で知っているし、姫様と他国の中を修復して婚約させるまでは分かる。だけど、その殿下を簀巻きにして一室に連れ込んで説教する勇者がどこにいるんだよ。事情を知らない人だったら絶対にやり方を間違えていると言うだろう。
「明日が本番のはずでしたけど、多分やることはありませんね」
「成功していた場合はフェイルリード殿下が緩和してくださるのですから、こちらとしては大変助かる提案でした」
「成功さえすれば一石二鳥なのですが、その為にやったのがあまりにも馬鹿馬鹿しいことでしたから」
「これは本国に戻ってどのように説明いたしましょう」
「ありのままを報告するしかありません」
胡乱な目で見てくる室長が脳裏に浮かぶ。絶対にこれは何の冗談なのかと聞かれるよな。包み隠さず真実を話したとしても。もういいや。何も考えずに休もう。明日になれば結果も分かるし、後回しにしてもいいだろ。思考放棄したくもなるぞ。
次の日を迎えて朝食の片づけが済んだ後にフェイル殿下が入室してきた。結果の報告だとは思うけど、どうなったことやら。
「おはよう。ゆっくり休めたかな?」
「それはもうぐっすりと」
「君のことだから警戒はしていたと思うけどね」
友好国とはいえ、他国だからな。熟睡しすぎると何かあった場合に後れを取ってしまう。フェイル殿下は信頼してもいいと思っているが、それ以外に関しては油断していい存在ではない。それくらいは自覚しているさ。
「結果はどうなりましたか?」
「監視していた者からの報告だと、部屋に入ってからまだ出てきていないらしい」
明確な判断はできないけど、成功したと思っていいだろう。さすがは数々の女性を口説き続けてきたわけではないな。馬鹿らしいとは思いつつ、一つの問題が解決したのに胸をなでおろす。正直な感想はかなり複雑な思いだけど。
「婚姻の発表はどうしますか?」
「今回の会談が終わった後にパーティーを開くからそこでやる予定だよ」
「気が早いですね」
「僕としてもさっさと終わらせたいんだよね。あとのことを考えると」
フェイル殿下にとってこれからが本番だからな。第二殿下と姫様の婚姻を不満に思う貴族をまとめあげないといけない。説得は意味がないので何かしらの方策を考える必要があるかな。そこから先は俺の考えることじゃない。
「ミサさん。フェルトさんを呼んできてください。これからの相談をします」
「かしこまりました」
会談へ向けての相談。どのような話を進めて、緩和へといたる道筋を作るのか。全てをアドリブで乗り切るつもりはない。目の前に協力してくれる人がいるのであれば手を借りないのは愚策だ。最善を尽くして行動しないと足元をすくわれるからな。
「君たちにとってこれからが正念場だね」
「フェイル殿下の協力で大筋は見えていますけどね」
やってきたフェルトさんとフェイル殿下を交えての密談。入ってきた瞬間のフェルトさんは大いに驚いていたけど、事情を説明している時間はない。速やかにどのような話で会談を進めるのか方策を決めないといけない。おかげでこの後に行われた会談では、何の問題もなく俺たちにとって優位となる結果を得ることができた。
「琴音さんには驚かされますね」
「偶然の産物です。私が招いたものではありませんから」
会談も無事に終わり、次に行われるパーティーへフェルトさんと向かっている最中。今回の事態はフェイル殿下が俺を利用したからこそ、俺もその結果を利用したに過ぎない。お互いにとって利益のある行動をしただけ。
「この後のパーティーですが、勇者のお披露目も兼ねていると」
「私として遠慮したいのですが、主役が顔を出さないのは批判を受けますね」
どこの国も勇者を求めている。それは友好国であろうとも変わらない。フェイル殿下は勇者に興味がないようだけど、他の者たちは少しでも懇意にしてもらえればと考えているはず。だからせめて顔を覚えてもらおうと今回のパーティーを企画したのだろう。真面目に琴音の過去を思い出してしまう。
「ここから先、私の表情が結構危ないものになりますけど気にしないでください」
「過去に何があったのですか?」
「特に何も」
心配されるようなものじゃない。琴音が相手にされなかっただけなのだ。だけど他の人たちがどのような思いで会話をしていたのかは知っている。権謀術数が渦巻く社交界は異世界でも同じだろう。思い出すだけでやる気がそがれていく。
「お酒は控えてもらえますと助かります」
「一滴も口に入れません。少しばかり嫌な予感がしますから」
このまま何事もなく終わりとは感じられない。勇者のお披露目もあるのだが、合わせて姫様と馬鹿の婚姻発表が行われる。まだ関係者しか知らないのだから、騒ぎになっていないが発表した時に何が起こるか。その時のことを考えると酒を口に入れるわけにはいかない。
「やっぱりウンザリです」
「我慢してください」
パーティーが始まると我先にと俺の元へと人が集まってくる。こちらのご機嫌取りが目的なのだから、俺が相手に会わせる必要はない。笑顔を向けるわけでもなく、会話を交えもしない。ただ仏頂面で話を聞き流す。つまらない時間は長く感じる。そして時間経過に比例して俺の機嫌が悪くなっているのを察したのか人が離れ始めてくれた。
「お集まりの諸君。重要な報告をさせてくれたまえ」
代表者は王様か。王の声により、俺へ集まっていた注目は全て持っていかれた。おかげで少しだけ気を緩めることができる。話している内容は事前に話していたように姫様と第二殿下の婚姻発表。驚きの声が辺りから聞こえてくるのは演技と本音だろう。あの状態の第二殿下が婚姻できるとは思っていなかったのか。
「他人の幸せがこれほど憎らしいと思えるとは」
「結婚に憧れているのですか?」
「いえ、あの姫様が幸せそうなのが気に食わないのです」
当たり前の感情だ。俺をこの世界へと誘拐した張本人が幸せな家庭を築く。それを心から祝福できるわけがない。まだ彼女から謝罪の言葉一つも受けてはないのだが、それは俺が彼女と面と向かうのを拒否しているのが原因でもある。謝罪を受けたら、今回のことで感謝を伝えられたら我慢が効かないかもしれない。
「フェルトさん。一つ伝えておきます」
「何でしょうか?」
「姫様は私にとって敵です。今ならハッキリと言えます」
第二殿下を見つめる幸せそうな表情がどこまでも憎い。事情を知らない人間だったら俺が嫉妬しているように見えるだろう。だけど知っているフェルトさんとミサさんは同情するような表情を浮かべる。誰が誘拐犯を祝福できるか。
「その婚姻に異議を唱えます!」
その声と同時に進み出た女性は五人。いずれも俺は知らないけど、第二殿下の表情は焦りを浮かべている。恐らく彼が口説き落とし、婚姻を迫られていた女性たちなのだろう。第二殿下を諦めきれなかったか。婚約破棄ではなく、婚約への異議というのもあれだけど。
「その異議に対して私から申し上げます」
私情は捨てる。何が一番なのかは理解している。何より第二殿下に発言を許すのは危険なのだ。ここで姫様との婚姻を考え直されると目的の達成とならない。それに関係が余計にこじれる可能性だってある。それを防ぐために俺が矢面に立つ必要があるのだ。
「あなたがたは馬鹿ですか?」
「何ですって?」
それでは盛大に行動をしようじゃないか。その為の練習だってしてある。彼女たちの気持ちも分からないわけではないが、それよりも優先したいものがあるのだ。
あの姫様の顔を二度と見ない為に絶対にこの国へ投げ捨てる!
爆睡し過ぎて、更新が遅くなりました。
申し訳ありません。




