20.王族相手ですよ。それがどうした。
王城内で王族を拉致したなんて前代未聞の大事件だろうな。目撃者の口封じはフェイル殿下に任せてある。馬鹿を運んでいる最中に急いで走っていった人物がいたからその人だろう。苦労を掛けて申し訳ないが、これはこの国の未来の為に仕方なくやっているのだ。決して憂さ晴らしの為に嬉々としてやっているわけではない。
「君は確か外交官の如月君だったか。君に手を握られた瞬間、電流の様なものが身体を走って。まさかこれが恋か!? だが私にはアリス姫という運命の相手が」
「少し黙れよ。この大馬鹿者が」
口調を俺のものへと変えて話したら、周りにいる連中全員が衝撃に固まってしまった。この口調をこちらで出したのはこれが初めてだからな。だけど今の馬鹿には必要な行為だ。王族として常に丁寧な言葉を使われていたのだから逆にこちらの口調の方がインパクトあるだろ。叱られた子供みたいな反応をしているのがその証拠だ。
「一つ確認する。お前にとって一番愛しているのは誰だ?」
「アリス姫ただ一人だけ」
そこだけぶれないんだな。凄い真剣な顔で言われたのだからこれが本当の顔なのだろう。それが何で変な方向へこじらせる結果になったのかは姫様が原因か。盲目的に信じてしまったために関係が悪化する結果となった。普通に考えれば分かるだろうに。
「ならどうして他の女性を口説く?」
「全ての女性を幸せにすればアリス姫だって喜ぶと思って。彼女から勧められた本にはそう書いてあったから」
「この本か。こんなものまやかしだ」
目の前で魔法を使って本を燃やす。こんなものに意味はないと示唆するつもりで。滅茶苦茶絶望してそうな顔をされたけど。それと別に雷の魔法だけ使えるわけではない。ただもっとも得意とされるのが雷なだけ。
「この本を信じた結果を教えてやる。アリス姫は幻滅しているぞ。今もお前に対する好感度は下がりっぱなしだ」
「そんな馬鹿な。だって彼女がこの本の主人公が理想だと」
「現実的に考えろ。どこの世界に自分よりも他人を優先して口説く相手を好きになる奴がいる」
世界のどこかにはそんな奇特な女性がいるかもしれないが、姫様は絶対に違う。憧れと本音は違うのだから。姫様は勇者を求めて召喚を行った。最初に出会った時に私だけといったのは自分だけを見てほしいからだ。それは馬鹿に対する不満がそのまま現れているはず。
「彼女が求めているのは自分だけを見て、自分だけを愛してくれる人物。それなのにお前はそんな彼女の真意も分からず、ただ女性を口説く毎日。これのどこに好感度が上がる要因がある」
「だが周りの女性たちは私を褒めてくれて。他の貴族たちだって」
「ただの建前だと気づけよ」
王族に取り入ろうと考えている貴族たちにとってこの馬鹿は恰好の獲物となる。ただ一点だけ誤算だったのは、この馬鹿が一度として直接女性に手を出さず、そして一切の言質を取らせていないことだ。馬鹿なりの考えであったのだろうが、その点だけは凄いと認めてやる。その才能を別方向に向けてくれよ。
「お前が信じるべきはアリス姫と家族だけだ。それ以外のものたちは基本的に害虫だと思っておけ」
「それはさすがに言い過ぎだよー」
「訂正しておく。特別でも何でもないただの人だ」
流石に突っ込まれたので訂正しておく。全部を敵として扱われたら、それこそ何が起こるか分からないな。特に妄信してしまう癖がある馬鹿は。姫様だけを信じさせるのではなく、家族の話もちゃんと聞けといったつもりだけど通じているかどうか不安だ。
「さて、ここからが本題になるが何を話すか分かるか?」
「アリス姫との関係修復だね」
「フェイル殿下が答えないでください」
「できるのか!?」
現金なものでさきほどまでの落ち込んでいた表情はどこへやら。期待に満ちた表情でこちらを見上げてくる。別に俺は特別なことは一切言っていない。俺としても琴音としても恋愛経験はないのだから。俺は幼馴染との関係も一線は超えなかった。琴音は父親以外に興味がなかった。だからアドバイスする内容だってありきたりなものだ。
「今から姫様の部屋に突撃して、今までの行動を誠心誠意謝罪してこい。その後はこっちが吐き気を催すほどの甘い言葉を囁き続ければいい」
その現場へ同行するつもりはない。本気で吐きそうになりそうだから。その程度でいいのかと表情が物語っているけど、基本的にあの姫様はチョロいと思う。自分にとって都合のいい出来事が発生すれば過去の事を忘れてしまう可能性は高いだろう。駄目なら次の手を考えればいい。
「ほら、とっとと行け」
ミサさんに縄を切ってもらって簀巻き状態を解除する。俺としては触りたくもないからな。失敗した場合を考えると気が重くなってしまうが、仕事として割り切るしかない。何で外交官の仕事を選んだはずなのに、婚約騒ぎに首を突っ込む羽目になったのか。
「上手くいったら君への褒賞を」
「いらん。さっさと私の目の前から消えろ」
報酬はフェイル殿下からもらうのだから馬鹿からもらう必要なんてない。期待もしていないからな。それよりさっさとこんな馬鹿なイベントを終わらせたいのだ。こちらに一礼して慌てて走り去るのを確認してから椅子に座る。精神的に疲れたぞ。
「うん。お見事かな。口調の使い方も上手かったと思うよ」
「彼は王族です。今まで通りの丁寧な口調では効果が薄いと思いました。あのような口調で喋られた経験もなく、今回みたいに叱られることもなかったでしょう」
だからこちらの言葉を黙って聞いていたのだと思う。有無を言わさず押し切るしかなかった。他の方法があったかもしれないが、そもそも第二殿下に関する情報が少ない。今回はまだ第一弾の試みであり、失敗したのであればもう少し綿密な計画を立てる必要があるだろう。だから駄目元のやり方なのだ。
「これで成功してくれれば波乱もなく終わりそうなのですが」
「こっちとしては成功しても波乱しか残らないよ。馬鹿がやらかしたツケをどうやって清算するか」
王族が貴族へ謝罪回りをするわけにもいかないからな。お手付きをした訳でもないから謝罪の必要はないけど、何かしらの誠意は見せないといけないか。金銭面の賠償は違うし、領地収入から引かれる税金も減額はできないだろう。こればかりは俺が考えてもいい方法は出て来ないな。あるとすればこれかな。
「合コンでもセッティングしますか」
「それは何かな?」
「馬鹿が口説いた女性は全員が未婚者で合っていますか?」
「そうだね。婚約の約束をしていない者たちだったかな」
「なら出会いの場を提供するのはどうでしょうか。男性の貴族でもまだ相手が決まっていない人もいるでしょう。社交界では他の貴族に気を使う必要もありますから、同じ年代の、または未婚の方々のみでパーティーを開くなどでしょうか」
婚約する見込みの相手を奪われたのであれば、新たな出会いを与えるのがいいかもしれない。王族という高嶺ではなく、もっと近しい存在ならば親しくなるのに時間は掛からないかもしれない。不平不満はあるだろうけど、それは飲み込んでもらうしかない。
「もちろんその費用は王族持ちですけど」
「結構掛かりそうだけど、やるしかないかな。婚約までこぎつけたら、こっちへの不満も減るだろうし、出会いを与えた恩義を感じてくれるかもしれない。メリットとしては悪くないかな」
貴族の婚活をサポートする王族か。また珍しい文化にならないといいけど。嫌だぞ、合コンを広めた勇者とか言われるのは。自分でも馬鹿な発言をしたとは思っているさ。あとは女性たちが獣とならないことを祈るしかない。醜い争いをしてドン引きされる場合だってあるさ。
「結果は明日になってみないと分かりませんが、成功率は高いかと」
「僕も同じ感想かな。何だかんだと女性を口説くのは慣れているはずだからね」
馬鹿の唯一の得意分野。それを活用しないわけにはいかない。本人を使うからこそ姫様にとっては意味のある行為になるのだから。間接的なものでは効果がない可能性だってある。本当なら馬鹿とお花畑のみで解決してほしかったのだが。それが望める状況でもないからな。
「それじゃ今回はこれでお開きということで」
「こんな密談はこれっきりにしてほしいものです」
「失敗したら継続だからね」
去っていくフェイル殿下を見送って、部屋から完全に出たのを確認してから思いっきり脱力してみた。ぐでーとテーブルの上で伸びをしているとミサさんから注意されてしまった。予想外に面倒くさくてどうでもいい仕事が終わったのだから少しくらいは許してほしい。




