19.解決策の用意です。まずは捕獲からだな。
勇者召喚以前に問題を抱えていたのかよと突っ込みたいのを堪えて考える。疑問があるとすればどうしてフェイル殿下は誰も頼らなかったのか。原因が分かるのであれば対処のしようもある。性格の矯正という難しい案件ではあるけど、解決策はあるだろ。
「疑問があります。どうして私に話を持ち掛けたのですか?」
「別にこの問題は抱え続けても問題なかったんだよ。婚約を解消するつもりはないのだからいつかはアリス姫と結ばれる。君たちが召喚されるまでは」
「つまり今の状態ですと、姫様が新たなトラブルを生む可能性があると?」
「僕が危惧しているのはそれさ。せめて昔のようにお互いを好き合っていれば問題ないと思うけどさ。今のこじれた状態だと何が起こるか分からない」
変な化学反応でも起こされては困る。姫様のトラブルはもれなくこちらの責任となるし、投棄した後だって友好国であるのだから助けを求められる可能性はある。それと付き合い続けるのは俺だって嫌だ。絶対に我慢の限界を超えて、姫様に対する武力行使を行うぞ。
「責任の擦り付けあいはお互いにやりたくないはずさ」
「原因はこちらとそちらでそれぞれ持っていますからね」
姫様が本を渡さなければ、第二殿下が行動を実行しなければ今の状況にはならなかった。勇者を召喚する間違いも発生しなかったし、これ以上のトラブルも起きなかったはず。過ぎ去った問題を責め合っても何にもならない。なら被害を増やさない努力をしよう。
「メリットとデメリットは?」
「メリットは貴国に対する責任追及を緩和する。これは王族として確約するさ」
「デメリットは?」
「問題が解決するまで君を我が国に拘束する。以上かな」
ミサさんが何かを言う前に制止する。フェイル殿下の言葉に矛盾点はない。勇者を求めていないけど、俺を拘束する意味は分かっている。新たな問題が発生した場合の対応策として必要としているのだろう。別に人質として捕らえるのではない。何よりこれは非公式であるのだから政治的な効力もない。ただの信用問題なだけ。
「私は何をすればいいのですか?」
「弟の性格を元に戻してくれれば解決するよ。大馬鹿者をただの馬鹿に戻すだけさ」
「現在、第二殿下はどちらにいますか?」
「どこかで女性と楽しくやっているんじゃないかな。それがアリス姫の機嫌を取れると勘違いしてさ」
さらに機嫌を悪くしていると気付いていないのか。これ以上、そんな状態を姫様に見られては勝手に婚約破棄の発言してしまうかもしれない。なるべく早めがいいな。せめて明日から行動すれば間に合うかな。
「行動開始は明日からでいいですか?」
「会談が始まる前に解決してくれると大いに助かるね」
「無茶を言わないでください。時間が足りなすぎます」
「勇者なんだから、あっさりと解決してくれないと」
無茶ぶりにもほどがある。ちなみに俺はまだ了承するとは一言も発していない。それは相手だって気付いているはず。やってみてできないと判断した場合はさっさと退散するつもりでいる。フェイル殿下も俺はその程度の存在として評価を下げるだろうけど、俺は一切気にしない。他人の評価なんて気にしていたらきりがないからな。
「進捗の報告をしませんよ?」
「それは困るね。君のペースでやってくれて構わないよ」
「ではお聞きします。現在、第二殿下はどちらに?」
「僕も知らないけど聞けば分かるよ。目立つからさ」
目立っているのは女性を口説いているからか。王城内でそんな行為をしていたら確かに目立つ。王城の中は王の敷地内と同じ。その中で働いている人たちにとって会社の中と同じなのだ。私的に口説いていたのでは明らかに場違いになるからな。
「でも今知ったところで明日には場所を変えているはずだよ」
「いえ、行動を開始します。なるべく早めに解決してほしいと言われましたので」
「それは助かるけどさ。何をするんだい?」
「電撃で動けなくして拉致ってきます」
「は?」
俺の言葉を信じられないように固まっているが、基本的に俺のやることなんて力押しだ。まずは相手と話してみないとどの程度酷いのかが分からない。俺まで口説いてきたのなら重症すぎるからな。他国の外交官を口説く馬鹿がどこにいるんだよ。そう思っていたんだけど。
「これは凛々しく気品の溢れた女性ですね。お話はあちらのテラスで窺ってもよろしいでしょうか?」
キラキラ笑顔で露骨にこちらへ媚びを売ってくる姿勢が凄く気持ち悪い。本人の顔面偏差値が高いだけに似合っているのだが、俺からしたらお近づきになりたくない人物だ。しかもさきほどの会話はまだ俺から声を掛けていない段階。近づいただけでこれかよ。
「アルステア王国外交官の如月と申します」
こちらから正体を告げたのに、第二殿下の態度は一切変わらない。甘ったるい言葉を延々とぶん投げて来るのでフィルターを掛けて聞こえないようにしている。馬鹿だとは思っていたけど、これほどとは。こちらにいる彼よりも酷いかもしれないな。どうしてこうなったのか知らないといけないのだが、関わり合いになりたくない。
「短い間の滞在となりますが、どうかよろしくお願いします」
差し出した右手を第二殿下は疑いもせずに握ってくる。そこへ電撃を流して声を発する前に失神させる。あとはミサさんが用意した道具で簀巻きにして、さきほどの部屋へと戻ってきた。どこからどう見ても立派な誘拐でしかないな。国際問題に発展するようなものだけど、ちゃんと未来の王様からの許可は得てある。
「迅速な行動だとは思うけどさ。やり方間違えていないかな?」
「会話しているのが苦痛でしかありませんでしたから」
中身が男性なんだぞ。延々と同性から口説かれ続けるのがどれだけ精神的苦痛なのか知らないよな。俺だって女性になったのだから内面にも変化があるだろうと思っていたらかなり緩やかで男性としての意識は全く変わらないのだ。それなのにこんなナンパ男と付き合わないといけないのは正直嫌でしかない。
「会話してみようと試みましたが、秒で諦めました」
「それは会話した内に入らないからね」
「ですのでさっさと拉致ってくるのが最適だと思いまして」
「僕の許可がなかったら重罪だからね。許可を出した覚えもないけどさ」
そういえばそうだったな。俺の言葉を聞いて固まっている間に部屋を出て、行動を開始したのだから。事後承諾ということでいいだろう。失神していて話を聞ける状況じゃないからフェイル殿下から抱えている問題を聞かせてもらうか。
「この状態の馬鹿ですと別に姫様と婚姻しなくても候補は数えきれないほどいると思いますが」
「本当に数えきれないほど婚約の打診が来ているから困っているのさ。口説いた女性たちが本気になるし、家族は王族に名を連ねられると息巻いてさ」
「一人を選べば、他の貴族との間に軋轢が生まれてしまう」
「そうなんだよね。だけど下手に側室まで受けると何人くらいになると思う?」
「想像したくはありませんね」
側室を無制限に受け入れてしまえば、それは王家の崩壊を招く要因になりかねない。まず国庫が持たないだろう。女性は色々と金が掛かる。美を求めるような連中だと猶更だ。第二殿下のハートを独り占めしたいと考えていれば、金は湯水のように使われていくだろう。他にも女性同士の諍いでトラブルは絶対に生まれる。それに巻き込まれた人物の話が出回ってしまえば信用失墜へ繋がるかもしれない。
「将来計画なんてありませんよね。この馬鹿は」
「だから昔から婚約の約束をしているアリス姫しか選択肢が残っていないのさ」
「最低限の苦情で済ます方法ではありますか」
ヘイトは全部姫様に向かってしまうけどな。でも心配の必要は一切ないな。あの頭の中がお花畑の姫様なら会話の全てを自分の都合のいい方向へと考えてしまうだろう。そして傍らには馬鹿だけど一途な第二殿下がいる。真面目に王位を継ぐのがフェイル殿下で良かった。あの二人がこの国を背負ったら確実に滅亡してしまう。
「大馬鹿者と頭の中身がお花畑な姫ですとお似合いですね」
「君も結構毒を吐くね」
「散々な目に遭わされていますから」
聞きたくもない甘ったるい会話をされたり、世界を跨いだ誘拐をされているんだぞ。恨み辛みだって覚えるさ。しかも何の因果かこの二人の婚約を成立させないといけないのはふざけているとしか思えない。逆に幸せをぶっ壊したいぞ。
「はっ!? ここは一体?」
「お目覚めのようですね。フェイル殿下。ここから私の口調に関しては目を瞑ってください」
「すでに色んなものに目を瞑っているよ」
フェイル殿下からの言質は取った。今からここで行われるのは誰も知らない事件だ。だから多少乱暴な行動をしても問題なし。だから、俺はいつもの行動をすることにした。




