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16.任務ですか。投棄だな。


 あれほどの騒ぎだったので知らない人の方が少ないだろう。それだけの爆音を響かせた自信はある。。あれは副団長に魔法の使い方を聞いたのがきっかけだったか。副団長と最初に戦った際に魔力を感じるのに成功したので更に上を目指そうとしたのだが。


「魔力を爆発させればいいとアッサリと言われたので」


「琴音さん。そんな雑な扱い方をするのは危険ですよ」


「身に染みました」


 やってしまった後に聞くべき相手を間違えたと気付いた。内にある魔力を盛大に爆発するイメージで力を入れたら、雷が落ちたような轟音と共に自分が放電したのだ。あれは真面目に焦った。周囲に騎士の人達がいるのにいたるところに紫電が奔ったのだから。副団長が気付いて防御の号令を出していなかったら死人が出ていたかもしれない。それだけの惨事だった。


「おかげでコツは掴めましたけど」


「その代償が訓練場の半壊でしたから。我々としては代償として大きいのか小さいのか判断に迷いました。ちなみにいらないことを言った副団長は二か月の減俸処分となりました」


 ミサさんの補足説明にフェルトさんの頬が引き攣った。あれは俺にとっても予想外の威力だった。光や闇の属性とか関係なく、雷が出たのも驚きだったけどさ。やっぱり俺は勇者としては何の価値もないはず。うん、そう思っておこう。あんな威力を出しておいて魔力切れを起こさなかった事実には目を瞑ろう。


「彼の耳に入った時には城内が大変な騒ぎでした」


「変な対抗意識を出されても私が困ります。彼には専門の講師がついて、現在はしばき倒されている最中でしょうけど」


 俺のやらかしの件で王城の連中が慎重になってしまったのだ。下手に暴発する前に基本を学べと息巻いてしまった。俺の場合は基本をすっ飛ばして、器用に魔法を扱えるようになったので講師から講習の必要はないと太鼓判を押されてしまった。もう十二本家は色んな意味で規格外だと元の世界で痛感していたのだが、それが異世界でも通用するとは思わなかった。化物集団か、マジで。


「彼も発現まではこぎつけたようで属性は炎でした」


「講師をつけて正解でしたね」


 冷汗を浮かべるフェルトさんが何を想像しているのかは簡単に想像できる。俺みたいに暴発させた場合、下手したら王城が燃えてしまう。周囲の連中も彼の属性を知った瞬間、胸をなでおろしていた事だろう。ちなみに彼の魔法に対する飲み込みはそれなりに優秀であったらしい。やっぱり琴音が異常なのだ。俺は関係ない。


「一か月という短期間で随分と成長なされたのですね」


「何も知らない無知の状態でしたから。知識は何でも取り入れないとここではやっていけません。忙しい日々でしたが、充実した生活を送れましたね」


 忙しくもちゃんと休憩の時間もあったのだから日常としては普通だった。副団長とのトレーニングは騎士団の名物になったり、偶に料理すれば誰かしらがご相伴に預かろうと争奪戦を繰り広げるくらい有名になったりしたけど、普通だよな。争奪戦に団長や副団長まで参戦してきて陛下から注意されていたのも普通だ。


「琴音様。現実逃避していますね」


「思うのですが、やっぱり自国はおかしくないですか?」


「そうでしょうか? 私はそのように思いませんが」


「どこの国に騎士団長へ説教した後に、私の料理を食べる権利を得る王様がいるのですか!」


 ミサさんは染まっている。これは確実だな。あの光景を見た俺は唖然としたぞ。説教した後に悠然と席について、俺へと料理の催促をしてきたんだぞ。さも当然のように要求されたから俺も普通に料理を出したが、普通なら不敬罪だって適用される場面だ。それなのに誰もが疑問に思っていなかったのが不思議でならない。


「琴音様。お願いがあるのですが、どうか平和的な権利獲得を帰国してからでいいので考えてもらえませんか?」


「どうしてそのような意見が出るのか確認していいですか?」


「文官たちがあの争奪戦に参加できないと嘆いておりましたので」


「被害の心配をしてください!」


 宿舎食堂のテーブルを何個壊したと思っているんだよ。あれの請求は間違いなく騎士団へと行っているはず。原因の一端である俺にも責任はあったのだが、そこは食堂に勤めている職員の人達が弁護してくれた。何回か魔法を行使して争いを止めていたからな。電撃は便利である。威力の調整を間違えると死人が出るので加減はしているけど、微調整が難しい感じはする。


「それにどうして文官の人たちまで知っているのですか?」


「口コミで広まったらしいです。私たち侍女の間でも勇者の料理を食べてみたいと話が回っております」


「珍しいものではありません。私が作れるのは一般的な家庭料理のみです」


 いつの間にか家事が趣味の一部と化しているだけで、珍しい料理はできない。失敗するのを怖がっているわけではなく、挑戦してはいるのだが成功する確率は僅かでしかない。俺の友人たちには実験台になってもらっていたのだが、不評ばかりで偶に喧嘩へと発展していたな。琴音は友人が少ないのでそんな実験もできなくなっていたけど。


「それがそうでもないのです」


「どういうことですか?」


「過去の勇者が起こした食の革命。調味など数多くのものを残された勇者なのですが、レシピに関しましてはそこまで多く残っていないのです。特に和食は現地の私たちの味覚と多少合わない部分がありまして」


 日本人が美味いと絶賛しても、海外の人まで同じ意見ではない。それは当たり前の話。お店を運営するのならば現地に合わせた味付けを見極めないといけない。ミサさんが言いたいのは和食料理を提供しているお店は殆どなく、そして受け継いでいる料理人も少数しかいないということか。見た目、匂い、味など文化で癖の違いはあるからな。


「ですが琴音様の料理は何と言いましょうか。温かみがあるといいますか、なるべくこちらに合わせようとしてくれていますよね?」


「食べてくれる人が美味しいと思うものを提供するのは当たり前じゃないですか」


 連日こちらの料理を食べていれば、ある程度の傾向は把握できる。それに俺もそうだが、味付けで不満が全くないわけじゃない。そのストレスを、そして自分の味を忘れないように料理をしたくなるのだ。元の世界と変わらないだけ調味料は豊富にあるからな。あとは俺も知らない材料を使うのはやっぱり楽しい。下手したら調理場から動かないので時間になったら強制退出させるよう他の人たちには頼んである。


「デザートは上を知っているだけに、頑張りたいとは思っていますが」


 俺にとって、そして琴音にとってもデザートで一番美味いと感じたのはバイトしていた喫茶店のスイーツ。沙織さんの元で見習いみたいなこともやっていたのだが、そもそも知識から足りていないと実感した。別に将来継ぎたいと思っているわけではなかったが、それでも近づきたいという思いだけは膨らんでいた。


「時間が足りないなぁ」


 あれもやって、これもやっての状況ではどんなにやりくりしても時間が圧倒的に足りない。社会人なら当たり前なのだが、趣味に費やせる時間は少ない。まだ琴音は学生としての年齢なのに、どうしてこの苦しみを味わうのか。原因は明確だよな。あの姫様を何としてでも隣国へ投げ捨てよう。


「よし、やる気が出てきた」


「今までの流れでどうしてやる気が出るのか理解できません」


「フェルトさん。計画は?」


 同行しているフェルトさんは隣国の担当者。俺たちよりも隣国に関する情報は多く持っている。頼れる男性が傍にいるのだから、安心感はあるな。さらに言えば今回はお荷物が一切ないのだ。彼が同行していた場合、行動を監視する必要が生まれてしまう。他国でトラブルを起こされたのでは、こちらの交渉に悪影響を及ぼすから。


「我々の任務は二つ。姫様の婚約を成立させる。賠償請求を緩和する。現状ですとどちらも難易度としては非常に高いと思われます」


「姫様を投げ捨てるのもですか?」


「現在、姫様と隣国の第二殿下との関係は冷え切っております。距離を取っているのはこちらの姫様なのですが。原因は第二殿下にあります」


「原因、およびその対策は?」


「原因は第二殿下の女性関係。対策は、現状ではありません」


 負け確定ではないだろうか。原因が分かっているのに、その対策ができない。つまり現在の手札では解決するのが困難、または不可能である。そもそも女性関係が問題なのであれば、第二殿下の周りから女性の影を消滅させればいい。それがほぼ不可能だから困っているのか。


「元からそのような人物だったのですか?」


「いえ、以前までは姫様一筋の方だったのですが、一年ほど前から現在の状況になっています」


「突如としてですか?」


「そのように聞いています」


 ふむ、面倒な感じがしてきたぞ。室長であるアリサさんが俺にぶん投げてきた理由が何となく分かってきた。強引にでも解決して、姫様を何としてでも投げ捨てろという強い意志が。


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― 新着の感想 ―
[一言] よくよく思えば地球では今頃お隣さんが琴音飯を食えなくなって嘆いてそう ついでに買い物した物が落下して放置されてただろうから「琴音が食材を放置するはずがない!」理論で誘拐確定で護衛が怒られたり…
[一言] サブタイ見て、任務ですか。(姫様を)投棄だな。と読んでたんですが、匙を投げる的な意味で投棄なら相当ですね(笑) 雷属性なのは魔窟時代にストッパーとして雷でも落としてたからですかね?
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