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15.勇者の偉業ですか。あれは執念だ。


 学ぶべきものがたくさんあり、一か月の期間はあっという間に過ぎ去ってしまった。その間に遭遇したトラブルはそれなりに多かったが語れるべきものはない。むしろ思い出しくはない。確かに自分にとって糧となる部分はあったが、本当に疲れてしまった。


「列車が存在していたのは驚きましたね」


 場所は王都近郊の駅。隣国へ移動するための場所へとやってきたのだが、まさかこの世界に列車があるのは本当に意外だった。魔物の発生頻度が稀であるからこそ、こちらと同じでレールの設置など順調に行われた結果か。


「先代の勇者が築かれた偉業です。今では交通と流通の要となっています。まだ届かぬ国も存在しておりますが、各国が協力して更なる線路の整備を行っております」


「なるほど。我々はこれで移動するのですね?」


「そうです」


 知識と熱意による完成か。見た目は蒸気機関車に見えるのだが、煙突から煙が出ている様子はない。勇者の資料を全て読んで分かったのだが、呼び出された勇者は各々でこの世界で革命を起こしていた。先代は列車の開発による交通の革命。人生の全てをかけて列車の開発に尽力したらしい。


「魔力式の動力炉。随分と苦労したのが分かります」


 蒸気機関車自体の試作は早期に達成できたらしいので、知識として随分と博識な勇者だったのは分かる。だけどそれで満足せず、こちらの世界の特色である魔法を用いた列車の開発に熱意を燃やした。その結果が今目の前にある魔力式の列車。だけど彼は、この列車が走る姿を見る前に他界したらしい。


「熱意も老いには勝てずか。それでも形を残せたのだから悔いはなかったのかもしれない」


 世界の誰もが認める功績を出せたのだから彼はまさしく勇者だったのだろう。だけどやっぱり自分のことを考えてしまう。俺はこの世界に何を残せるのか。彼ほどの熱意はなく、知識もない俺がやれること。そこまで考えて思考を切り替える。未来を考えるよりも、現在の問題を解決するべきだ。


「外交官としての決定権を私に託して大丈夫なのですか?」


「室長からの命令です。今回は我が国の命運を勇者に託すべきだと。」


「責任の丸投げは勘弁してほしいです」


 初仕事から俺に重責を背負わせないでほしい。本来ならば俺は補佐か、見学のみで済ますのが普通だと思う。それなのに外交官の部署から同行してくれるフェルトさんが補佐というのは納得できない。それとも何かしらの考えでもあるのか。一応、必要な知識などは一通り学んだはず。あとは臨機応変に対応するだけなのだと言われたが。


「言われるであろう要求案とその対策は教えられましたが」


「琴音さんは飲み込みが早く、教える側としては大変楽であったとお聞きしましたが」


「室長からは姫様を投げ捨ててこいと言われましたよ」


「あの方は自宅に帰れなくて随分と鬱憤が溜まっていますので」


 外交官部署での俺の呼び方は様付けしないでくれと頼んでいる。同僚の人達が様付けしてくるのは違和感があって慣れない。距離があるように感じられるので止めてくれと言ったのだが、室長だけは最初から遠慮はなかった。ぶっきらぼうな言い方をする人だけど、仕事は優秀であると聞いている。やらかした姫様に当たりが強いのは仕方ないと思うけど。


「琴音さんの恰好も似合っておりますね」


「お褒めに預かり光栄です」


 現在の俺の恰好は学園の制服ではなく、外交官としての制服をまとっている。黒いスーツに金の刺繍が少しだけ施されたもの。地味でもなく、派手過ぎない恰好は俺としても好感が持てた。何より女性らしい恰好とは違うので大変助かる。やっぱりズボンの方が落ち着くな。


「それじゃ乗り込みましょうか。出発の時間もそろそろです」


 しばらく自国から離れるわけだが、無事に戻れるように尽力しよう。例え友好国であろうとも危険性はある。王族が味方であったとしても、貴族たちの考え方は別にあるかもしれない。誰が味方で、誰が敵であるのか見極めて対応するのが最善か。それが難しいのだが、やってみるしかない。失敗してこそ得るものだってあるのだから。


「甘い考え方だけど」


 外交官の仕事で失敗すれば、それは自国にとって不利益を被る場合だ。今回の場合は姫様の馬鹿がやらかした後始末であり、確実に不利益が発生するパターン。だからこそ我々の任務はいかに不利益を最小限に抑えるかが重要になっている。室長から言われたのはもう一つあるのだが、それに関しては自動的に解決するだろうと楽観視している。


「フェルトさん。隣国とは友好国であり、姫様の婚約者がいると聞いているのですが関係性はどのようなものでしょう?」


「国同士の付き合いでいえば全く問題ありません。姫様だけではなく、殿下も隣国の王族とは親しく、文通をするほどの仲ですから。問題となるのは姫様の婚約者でしょう」


「問題ですか?」


「姫様一途な方だったのですが、あまりよろしくない話を聞くようになりまして。その所為で姫様との関係がこじれているのです」


「女性関係ですか?」


「まさしくその通りです」


 何か嫌な予感がするな。俺が女だからではない。別にナンパされたところで断ればいいだけなのだから問題はない。勇者を引き抜こうと考えている貴族が利用しようと考えている場合だって、王族を頼れば解決できる。一番厄介なのは王族もそれに加担する場合か。それだと友好国が全くの敵になってしまう。


「予感としては別だけど」


 一緒に搭乗している姫様の様子を確認しているが、窓の外を見て溜息を吐いている。隣国へ行くのに、全く興味がなさそう。婚約者といつぶりの再会なのかは分からないが、両思いとは考えられないほどテンションが低いな。彼との遭遇自体は城内の協力により防ぐことはできたのだが、それが姫様の気分を害したのは間違いない。


「アレス殿下が随分と苦労したようですけど」


 妹をなだめる役目は殿下が担当していた。気苦労が多くて、その日の飲酒量が増えてしまっていたのを注意した覚えがある。どうしてか夕飯を殿下と取る機会が多かった。他の面子まで俺と殿下をくっつけようと画策しているようだが、無駄な行為だと気付いてくれ。偶に騎士団宿舎で飯を食うのはそれから逃げる為でもあった。


「副団長には結局、手も足も出ませんでしたけど」


「いえ、あれだけやれる琴音様も素晴らしい結果ですよ」


「話は聞いていましたが、あの副団長に率先して挑むのは中々の根性だと思います」


 誰だ、デマ情報を流しているのは。俺は一度として副団長を訓練に誘った覚えはない。自主トレーニングをしていたら唐突に襲われるのだ。逃げても追われるのだから、仕方なく防衛行動をしていただけ。素手同士なのに、全く敵う気がしなかった。専門職は伊達ではないな。団長に関しては真面目に化物だと思ったけど。


「副団長が団長に挑んで悔し気に地面を殴っていましたけど。地面が陥没する威力で」


「騎士団長の鉄壁は我が国の自慢ですから」


 何をしても揺らぐことのない防御。副団長の全力の拳をノーガードで受けても、笑って済ませていた。流石の俺もドン引きであった。あれは本当に人間という部類に含めても大丈夫なのか悩むほど。俺も一度だけ全力で腹筋を殴らせてもらったけど、殴った拳が痛かった。そもそも筋肉で防いでいないと言われたが、説得力は皆無だぞ。


「ここ数年は他国との争いも、魔物の被害もないので騎士団の実力を示す機会がありません」


「それはいいことだと思いますけど」


「おかげで副団長のしごきがきついと騎士団が嘆いています」


「私は宿舎で感謝されましたね。被害が減って助かると。次の日に後悔していましたけど」


 俺の自主トレーニングに付き合った連中が何人かいたのだが、ほとんど途中でリタイアしていた。体力だけは負けていないんだよな。これでも元の世界じゃ護衛の人たちすら根を上げるほどだったから。そして騎士の人たちにとって最悪だったのは、俺のトレーニングの後に副団長のしごきが待ち構えていたことだろう。


「女性に対して下心有りで接する人に副団長は厳しいですね」


 疲労で満足に動けない騎士を文字通りぶっ飛ばしていたのだが、見慣れてしまったために何とも思わなくなってしまった。明らかに俺もあの騎士団に染まってしまったのだが、それを見学していた陛下に心配されてしまった。常識は持ってくれと。陛下も自国の騎士団が常識外れだと自覚していたのかよ。


「琴音さんは魔法の習得できたのですよね?」


「大騒ぎの結果で、何とか。あれは副団長が悪いと思います」


「いえ、琴音様にも責任があります」


「一体何があったのですか?」


 やっぱり外交部署の人間は忙しすぎて、周りの出来事に気付けなくなっているか。自分のことで精いっぱいだろうから責めるつもりもない。知らない人がいるのはいいことだ。今からそれを教えないといけないのは気が進まないけど。

活動報告で待っていたとコメントしてくださった方々、本当に嬉しく思います。

そして全力で謝罪します。お待たせして、本当に申し訳ありませんでした。

ちょっとした事情と、大部分が編集面倒臭いで放置していました。

話の流れは出来ていたんですけどね。改稿前ではその流れがぶった切れていたんですけど。

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― 新着の感想 ―
[一言] 随分と濃い日常を過ごしたんだろうなぁ
[一言] 予想はしていたけどやっぱり騎士団に染まっちゃいましたか(笑) そういえば脳花(脳内お花畑の略)勇者は騎士団の訓練に参加したりしたんですかね?
[良い点] 旧作も楽しく読ませて頂いていたので、 再開されていて嬉しいです。 [一言] > 例え友好国であろうとも【危険の可能性】はある。 「危険」という言葉自体に可能性(おそれ)が含まれるので危険…
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