14.私の評価ですか。危険物扱い。
外交官として働く。ただし、その中身を一切把握していない俺にできることなんてない。だからこそ、挨拶を兼ねて仕事場へとやってきたのだが。とてもじゃないが、挨拶なんてできる状態じゃないな。
「地獄絵図ですね」
「絶賛修羅場の真っ最中ですから」
姫様がやらかした影響で各国から苦情や要求がひっきりなしにやってきているのだろう。それを処理するにしても人員も時間も足りないような気がする。折角やってきて何もせず帰るのも何だしな。
「責任者の方は?」
「あちらにおります」
先導するミサさんに後ろをついていく。慌ただしく動いている人達の邪魔にならないよう歩いて、辿り着いた先には小さな女性が書類に文字を書き殴っている。目の下には隈が色濃く浮き出ているな。
「外交部室長のアリサ様です。アリサ様。こちらが新たに配属されます琴音様です」
「如月琴音です。よろしくお願いします」
「ん」
挨拶は手短に。そしてたった一言で終わってしまった。こちらに目を向けたのは一瞬だけ。すぐに視線を外して、書類仕事に戻ったのだがそれでこちらが気分を害することはない。忙しいのは分かっているからな。
「少し待つ。これが終われば、ほんの少し時間ができる」
「それではお茶の準備をさせていただきます」
「手伝います」
「それは駄目です」
だったら何をしていろと。忙しいそうな中でポツンと一人だけ立ち尽くしていることの精神的辛さが分からないのかよ。せめて邪魔にならないように隅っこにいるしかないじゃないか。
「お待たせ。それでそっちが新手の勇者?」
「勇者という呼称は不似合いなので止めてもらっていいですか?」
「了解。なら、琴音」
「はい」
「この地獄の中に入る覚悟はある?」
正直な感想を述べるなら嫌すぎる。何も知らない新人が即戦力になる可能性なんて僅かしかない。猫の手も借りたい状況なのは知っている。そしてその原因が誰にあるのかも。諸悪の根源は姫様であろうとも、俺が全く関係していないわけではないからな。
「何ができるのか分かりませんが、よろしくお願いします」
「よろしい。といっても琴音がやることはもう決まっている」
「何ですか?」
「各国からの嘆願処理係」
口元が引き攣ったのは確実だな。表情も取り繕う余裕すらなく、嫌そうな顔をしているだろう。外交官ってそういう仕事じゃないよな。むしろ、勇者としての役割となっていないか。
「あの、仕事の内容が良く分からないのですが」
「各国から勇者に対して依頼が持ち込まれる。それを処理するのが琴音の役目」
「曖昧ですね」
「今のところ、勇者を我が国に招きたいという嘆願が多い。ぶっちゃけ引き抜き工作」
だろうな。ただ招待したいだけではなく、自分の国の所属となってほしいというのが国としての思惑だろう。勇者というネームバリュー。もしかしたら持っているかもしれない強大な力が目当てかな。
「賠償金の請求とかも来ているけど、それはこっちで処理する。これは新人が担当できるものじゃないから」
「召喚装置の無断使用に対するものですか?」
「前例がないから幾らの額になるのか計算中。法外な金額を要求してきている国もあるから頭が痛い」
なるほど。全面的にこちらが悪いのだから、それをどのように避けて要求金額を引き下げるのかを検討しないといけない。その為の情報を探ったり、相手の国の弱みとなる部分がないのかを調べている最中かな。打てる手としては最善だろう。卑怯な方法も実はあるのだが。
「勇者に値段をつけるのですか?」
「あー、なるほど。陛下が推す意味が分かった」
この一言で盤面はひっくり返る。確かに召喚装置を勝手に使ったのは全面的にこちらが悪い。ただし、召喚装置と勇者は紐づけされる。賠償金の金額はそのまま勇者の値段になっても不思議じゃないのだ。そして、嘆願書で勇者の訪問をお願いされている。所属を決めた俺が金を支払わされた国へ何もせずに行くと思っているのかな。来てほしいのなら賠償金を返せと言ってやるぞ。
「さて、私の値段は幾らでしょうね?」
「その手は最後まで使いたくない。あまりにも悪辣すぎる」
自分の身を人質にして、相手を脅しているようなものだからな。それと依頼するのであれば、自分たちが請求した賠償金並の金額をこちらに支払わないといけないかもしれないと相手に思わせることもできる。一石二鳥みたいでお得なんだけど。
「勇者でお金儲けしたくありませんか?」
「ミサ。今回の勇者は頭がおかしくない? それか頭のネジがぶっ飛んでいる」
「可愛らしいお方だと思ったのですが。攻勢に出るとここまで手段を選ばないとは思いませんでした」
使える手は何だって使う主義だからな。働き手としての自分は売るが、身体を売る気はない。つまり、俺の身柄を他国に引き渡してお金を得る手段を取った場合は敵に回る。この国ならそんなことにはならないと思うが。
「馬鹿ではないけど、優秀でもない。有能ではあるけど、使い方を誤るとこっちが被害を受ける」
「その評価はどうなんでしょう」
「いえ、的確だと思われます」
今の会話だけで危険物扱いされていないかな。そんなぶっ飛んだ発言をした覚えはないのだけど。生きていた頃の俺なら、こんな手は普通に使う。そうしないと馬鹿達の手綱を握ってられなかったからな。
「琴音の使い方はおおよそ把握した。危険物として認識」
「賠償金が欲しいか、それとも勇者が欲しいかの二択ですよ。相手の要求を利用するのは常套手段では?」
「自分の身体を利用する時点で普通じゃない」
身体を差し上げるわけじゃないからまだいい方だろう。それに相手の国に俺の身柄が移されたとしても、おかしなことをされそうになったら逃げればいい。他国に助けを求めれば、こちらの言い分を信じてくれる可能性は高い。だって、勇者を欲しい国は沢山ありそうだからな。
「現状において私が、いえ勇者としての存在が最高のカードなのです。なら、それを有効活用すべきです」
「でもそのカードを切るかどうかを選択するのは貴女自身。私達にその選択をする権利はない」
「やっぱり、この国を選んで正解でした」
この国の人は、少なくとも陛下やミサさん、そしてアリサさんは勇者ではなく俺を尊重してくれている。全員がそうでないとしても身近に味方がいてくれるのは心強い。だったら、多少の無茶だってできる。
「だけど、悪巧みの際は事前に通知すること」
「意外とガードが堅いですね」
「琴音は何かをやらかしそうな予感がする」
釘を刺されたけど、思い立ったら即行動の俺にとってはあまり意味はないな。できることならこの国にとって不利益にならない行動をしないと。未来なんて分からないが、せめてそれくらいは心に決めておかないと。
猛烈に忙しい職場での挨拶はこれで終わりを迎えた。危険物扱いとなってしまったのはちょっとだけ不満だが、俺としての評価は妥当なところか。禁句を言われたら爆発する自信はあるからな。
このお話だけは編集ではなく、新規で書きました。
流されるだけが主人公ではないのです。
場をかき乱してこその、自身の評価を覆すのが主人公ぽいですよね。
琴音の場合は評価が下降しますけど。




