表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/36

01.誘拐された先は異世界でした

以前に書いた『元令嬢の誘拐召喚』を全面的に書き直した作品です。

悪役令嬢、庶民に堕ちるの別世界線だと思っていただければ助かります。

あちらを読まずとも、こちらのみで読める仕様になるよう尽力します。


 学園の一学期が終わり、足りない食材の補充をしてから自分の部屋へと戻ってきた。だけど扉を開けた先は見覚えのない場所であり、踏み込んでもいないのに周囲一帯の景色は変わっていた。不思議なことに持っていたはずの食材を入れていたエコバックまで消えている。石畳の床に、石壁のみの部屋。明らかに自分が住んでいる場所ではなく、誰かが仕込んだドッキリとも思えない。


「どういうこと?」


 変化は二つ。目の前には兵士を後ろに立たせた女性と男性。そして俺の隣には見覚えのない学生服を着こんだ青年。隣の男性の恰好は当たり前であるのだが、目の前の二人が問題だ。女性は現代では似つかわしくない装飾の施されたドレス。男性も同じように過度な装飾が施された貴族服みたいな恰好をしている。これが仮装なら納得ではできるのだが。ハロウィンの時期には早すぎる。


「本当に勇者様がやってきてくれました!」



「これも姫様の願いが強かったおかげでしょう」


 困惑しているこちらを一切気にせずに、声を弾ませて大喜びの女性に対して、男性も喜色満面の表情で応えている。気になったのは女性の発言。勇者とはどういう意味なのか。それに床に描かれている発光している幾何学模様も明らかにおかしい。特殊な塗料である可能性も否定はできないけど、やる意味が分からない。


「これって異世界召喚というやつかな?」



「安易に結論を出すのは危険だと思います」


 小説や漫画などでよく聞く言葉。異世界召喚という状況に酷似しているのは分かる。喜びが隠せていない青年に対して、俺の表情は曇るばかり。相談者としてこの青年は相応しくない。この状況を喜ぶのは現実逃避と同じ。現代に未練も後悔もない俺にとってこんな状況は望んでいないもの。さっさと現実に返せと言うのが本音だ。


「勇者様は、私だけの勇者様になってくれますか?」


 一番の問題になりそうなのはこの女性で決定だな。何だよ、自分だけの勇者とは。風貌から予測して俺よりも若干幼いか。思考に関しては完璧にお花畑だと思う。それに敢えて俺から視線を外して青年だけを見つめている気もする。必要なのは青年であり、俺は邪魔な存在であると語っている感じだ。確かに青年の見た目は悪くない。一目惚れしたとしても不思議じゃないな。


「貴方が望むであれば、俺にできる範囲でやれることをやるだけだ」


 何を格好つけているのか。そもそも相手の目的が分かっていないのに、安請け合いができる状況か。女性の狙いが青年であるのは分かる。そしてもう一人の男性の視線は俺へと向けられている。その顔はこちらが安心できるものではなく、好色の雰囲気が伝わってくる。女性の俺としては鳥肌が立つほどの気持ち悪さだ。琴音の容姿が優れているのは俺も同意するけどさ。


「全員そこを動くな!」


 状況の変化はあっけなく訪れた。俺のいる場所の奥にある扉。つまり女性と男性の後ろにある扉から別の兵士たちがなだれ込んできた。それを指揮している男性の恰好もこれまた異様である。二人と違い、派手さはないがそれでも高価な衣服であるのは分かる。一番の異様はマントを羽織っていること。俺の時代にマントを羽織るような人物はあまりいない。


「やってくれたな。アリス」


「何かいけないことをしましたか? お父様」


 全く悪気のない表情をしている女性に、父親である男性は頭を抱えている。次々に拘束されていく他の者たちと違って、女性だけは一切の拘束をされていない。それは危険性がないことの証明かな。思考が完璧にお花畑であるのは間違いないけど。そして状況の変化に思考が追いついていない青年はポカーンとしているばかり。俺としても動ける状況じゃないけど。思考だけは止めてはいけない。


「すまないが、お二方は別室に案内させていただく」


「構いません。お願いします」


 いつまでもこんな場所にいても仕方ない。女性と違い、あとからやってきた男性はこちらに対して誠意を尽くしてくれそうな感じはする。本当にすまないといった感じが雰囲気から伝わってくるから。恐らく女性がやらかした行為は大問題に発展するほど重大なものだったのだろう。仮に異世界召喚であったのなら俺達を呼び出すのは間違っていたのかもしれない。


「何がどうなっているんだ?」


「それはこれから分かることです」


 拘束はされていないが、俺達の周囲は兵士たちに囲まれている。何かをした場合は即拘束されるだろう。俺としては大人しくしているつもりはあるのだが、問題は隣の青年だな。明らかに今の状況を受け入れられていない。下手な動きをされては俺までとばっちり受けそうなので止めて欲しい。自分の事で精いっぱいなのに、他人の面倒まで見ていられない。


「本当にすまない!」


 別室に案内されて、用意されていた席に座るなり、目の前の男性はテーブルに額を付けそうなほど頭を下げて謝ってきた。俺としては予測が当たったかな程度だけど、隣の青年が若干嬉しそうにしているのが気に食わない。誠心誠意謝っている人物に対して、その態度は駄目だろ。しかも相手は俺達の知らない情報を持っている人物。可能な限り話を聞きださないといけないのだ。


「頭を上げてください。まずは状況の説明を求めます」


「そうだな。君達には知ってもらわないといけないな。簡潔に言ってしまえばここは君達のいた世界とは違う世界だ」


 おい、隣でガッツポーズするな。変な空気になってしまったじゃないか。つまりあの女性が言っていた勇者という言葉は何の捻りもなくそのまま俺達を指していたのか。だけど魔王を討伐してくれとかの話をされても困る。俺は一般的な学生でしかなく、とてもではないが危険を伴うような行為なんてできない。隣の青年は知らんが。


「私達が元の世界へ帰れる方法ありますか?」


「大変すまないが、ない。今まで帰還した勇者はいないと伝えられている」


 可能性の一つが消えたか。ショックは大きいが、それを表情に出してはいけない。弱みを見せていい段階ではまだない。それに俺達以外の勇者が過去に召喚されたという事実があるという情報は大きい。そこから探れば何か分かるかもしれない。


「魔王とかはいるのか?」


「過去に存在していたと伝えられているが、現在は脅威となる存在はいない」


 武力を必要としている状況でもないのか。それならどうして勇者を必要としたのか分からない。考えられる可能性はあるのだが、あまりにも馬鹿らしい理由。でもそれが当たりかもしれない。女性の発言。目の前の男性の態度から察するに、考えられるのは一つだけ。


「まさかとは思いますが、彼女の独断専行ですか?」


「その通りだ。大変すまない!」


 もう一度頭を下げる男性に俺はため息を吐くしかない。勇者を必要としていない世界で、ただ一人だけ勇者を求めた女性の願望とは一体何なのか。こればかりは本人に聞くしかないのだが、俺としては彼女と面と向かって話したいとは思わない。絶対に顔面へビンタの一発くらいは食らわせるから。


「じゃあ、俺達って何で呼ばれたんだ?」


「馬鹿娘が欲しいと願ったのだろう。そこに付け込んだくそったれ貴族がいたという話だ」


「馬鹿らしい話ですね」


「全くだ」


 揃って溜息を吐く俺と男性なのだが、全く興味のなさそうな青年はどうしたものか。若干、男性からこいつは大丈夫なのかと視線を送られている気がするのだが、あえて無視しておこう。彼については名前すらも知らないし、着ている学生服から場所の特定もできない。同じ学園に通っていたわけではないのは確定しているけど。


「私達の扱いはどのようなものになるのですか?」


「貴賓として我が国で保護させていただく。その間にこれからどうするのか将来を考えてほしい」


「つまり自由ということか?」


「我が国が気に入らないのであれば他国を紹介することもできる。勇者を欲しいと思っている国はこぞって名乗りを上げてくるだろう」


 また厄介な情報が出てきた。命を狙われる訳ではないが、身柄を確保される可能性はあるのか。勇者という存在が貴重であるのは何となく察する。そうでもなければ勇者を召喚するとか言わないだろう。武力か、それとも知力を求めているのかは分からないが、ただの学生に求めていいものじゃない。


「冒険者になってもいいんだよな?」


「構わないがお勧めはしないぞ。未踏の遺跡には危険がつきものだ」


「それこそ望むところだ」


 夢を見過ぎだな。俺達はまだ何も知らない学生と変わりない。特別な力が宿っている感じもしない。魔力とか訳の分からない超常の力があるのかも分からない。そんな状態で危険のある場所へ赴くのは自殺行為でしかない。まだ死にたいとは思わないし、あんな経験をもう一度体験なんてしたくもない。


 俺の一度目の人生は毒殺という形で終わり、二度目の人生はなぜか令嬢の身体を借り受けて現在を生きている。それがどうして異世界に誘拐されたのかさっぱり分からない。

活動報告で書き、連載して、挫折した作品のフルリメイク。

勢いのみで書き続けるのは無理だと思い知らされました。

色々とあって書き直したものが手元にあったので、活用しようと思ったまでは良かったのですが。

強引に分割したようなものなので、話の切り替えで読み辛い部分があるかもしれません。

三十話くらいまでその状態が続きますので、ご不便をおかけします。

教訓:口は禍の元

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] やっと読み始めれる 地球の方の知り合いが阿鼻叫喚してそう
[一言]  リメイクしたんですね。結構好きだったので嬉しいです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ