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短編集  作者: かかと
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彼のそばに

 私は教室に立っている。わかるよ。今は夢の中だ。私も多くの夢を見てきたから、なんとなくわかるようになった。いつも堪らないほど面白いことや嬉しいこともある。苦しい思いもすることがあるけど。

 教室は朝の日を浴びて、床の木目が綺麗に出ている。本当はコンクリートで少し冷たい灰色をしているけど、今は夢の中だから気にならない。私は床を触った。少し古びているけど、少し柔らかくて少し黴臭いがいいと思っている。少し触っていると横になりたくなった。私は横になる。スカートだけど誰も来ていないから問題ない。

 ドアが開く音が聞こえる。少し木が引っかかった音がする。そこには私が気になっている男の子が入ってくる。私は体を起こした。彼は全く私のことを気にしていない。…今日はそういう設定なのね。彼は荷物を置くと上着を脱いだ。春が近いというのに最近は冷えていたから、彼も上着を着てきたのだろう。シャツから見える筋肉が少し気になる。彼は野球部に所属していたけど、少し前に怪我で辞めてしまった。しかし、彼の筋肉は衰えていないように見える。野球に未練はないと言っていたけど、本当はあるのだろうなと思う。

 彼は早速、スマホを開いていた。厳密に言えば学校はスマホの電源を切っておくのが校則となっている。わざわざ教室で通信するようなことはないからね。彼はスマホに何か入力をしている。少し読み返した後、送信したらしい。彼が緊張しているのが分かる。私はポケットのスマホが振動しているのを感じた。私がスマホを見るとそこには彼からのLINEが入っている。


『今日、放課後に屋上で会えるかな?話があるんだ。』


 本当にべたな誘いだなと思う。でも、彼の性格上、これ以上の文章がなかったのだろうとも思う。でもさ、もう少し捻ってくれてもいいじゃない?人生の中で告白なんてそう簡単にあるわけでもないのよ。女性をときめかせるのも男性の仕事じゃない?なんて、どうでもいい上から目線で物事を俯瞰しながらも自分の顔がだらしなくなっているのを感じている。

 素直に嬉しいと思う。彼はレギュラーになったのはわずかな時間だったけど、本当に一生懸命に努力をしているのを感じていたから、その話を彼から聞いたとき本当にうれしかった。私は彼が緊張しているのを見て、スマホに入力した。


『うん、待ってるね。』


 彼に対しては簡潔に答えた方がいい。彼は物事を難しくとらえるところがある。言葉の裏読みをするとか、行動を見ながら推察するとか聞いたことがある。彼にはストレートに言った方がいい。

 戦国時代ではないけれど、情報収集は大事だ。あまりに多くの量の情報を見ていても行動できなくなるけど、まったく情報収集しないのもいけない。要するに良い塩梅でやっていくのだ。次々と教室に生徒が入ってくる。平和な日常だ。ただ、私にとってはそれだけではなくて特別な日。それこそ、8年以上彼のことを思っていたのだから。私も教室に入ってくる。なんか、不思議な感じだ。

 授業が終わり、私と私は屋上に向かった。本当に緊張している面持ちで彼は屋上に来ていた。彼は誰かと付き合っていると聞いたことはない。今まで野球に全部つぎ込んでいたのだろう。夢の中だけど、本当に緊張している。


「知り合って大分経つけど、俺、その…。」


 そういうまどろっこしいのはいらないのだけど、黙って聞く。彼の悪いところだけど、不器用でまっすぐなところが好きでもあるから。


「君のことが好きだった。」


 うん?過去形?いや、彼が間違えただけかな。


「えっと。」

「ごめん間違えた。好きなんだ、君のこと。」

「ふふ。」


 倒置法になっているよ。君はそんなに変な言い方をする人はないでしょ。緊張でおかしくなっているのだろうな。笑っているのはもう1人の私だけど。その私を見てみればすごく気持ち悪い顔をしている。にやけすぎ。だらしないなと思う。本当にうれしいからこんな表情ができる。


「いいよ。付き合おう。」

「…マジで?」

「告白したのはあんたでしょ。」

「いや、OKもらえると思っていなかったから。」


 もう1人の私は手をつないだ。



 目が覚めると私は彼の顔を見た。そして、起き上がりカーテンを開ける。久々に懐かしい夢を見たな。彼はまだ眠っている。テレワークになって彼は起きるのが遅くなった。仕事はたくさん来るらしいけど、彼と顔を合わせるのが多くなった。あれから10年経ったけど、たった1つの指輪を薬指にはめている。

 新型コロナウイルスで日常はなくなっているけど、私としては彼と一緒にできるだけそばに居たい。私は時間を見た。もう9時か。もう少ししたらパートに行かないと。でも、もう少しだけいいよね。彼の寝顔を見ても。私は指輪を触りながら、彼の寝顔を見ていた。



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