エンジェルズ・イブ
黒い天使に救われた青年と神域の聖天使の修正版です。
作者執筆殆ど初心者の為暖かい目で見守っていただけるとありがたいです。
西暦二千三十九年。十二月二十四日。人間という生物が主流となって動いていた世界に衝撃が走った。突如として空に巨大な白き門が現れ人々の視線を一斉に集める。その門が開くと中からは背中に純白の翼を持った<天使>の大群が雪崩の様に世界に降り立った。
そんな、世界が驚愕に包まれいる中、見晴らしのいい丘で雪の降る幻想的な空を背景に二人の子供が対話している。一人は普通の七、八歳くらいの少年。そしてもう一人は真っ白な髪にこの世のものとは思えない程に美しい容姿の八歳くらいの少女。たが、そのどれよりも少年の目を引いたのは少女の背中に折りたたまれている白い翼だった。
「貴方の、血をくれない?」
透き通る様な透明感のある声で少女が少年に問う。その表情にはなんの感情もこもっておらず機械的に質問された様に少年は感じてしまう。
「血?少しならいいよ」
少年は震える声で答えた。普通見知らぬ人?に血をくれと言われても嫌と答えると思うがこの少年は家庭の事情により人から必要とされる事に飢えていてその願いが魅力的に思えたからだ。
「少しじゃ足りない・・・・・・」
「じゃあ、どのくらい?」
「これくらい・・・・・・」
そう言うと少女は何処からか金色の剣を取り出し少年の胸を斬り裂いた。
「え?う、うウァァァッ!」
少年の胸からとめどなく溢れる血液が少年の命の火を減らし続ける。
「まだ、足りない・・・・・・」
少女は少年へ向けて手をかざす。すると・・・・・・
「ギャァァァァァァァッ!」
少年の体中の血液が少女の手に吸い込まれていく。その勢いは止まる事なくどんどん少年の体から血液が失われていく。その苦痛は想像を絶するもので少年の心は既に壊れかけていた。
「さようなら人の子。貴方の魂が幸せになります様に」
少女は少年に向けて祈りを向けると背中の翼を広げて何処かへ飛んでいってしまう。
そして斬られた少年は・・・・・・
「父さん・・・・・・」
今は亡き父を呼ぶ。飛行機の操縦士だった父。そして少年もそれに憧れ将来は操縦士になると母親にいつも語っている。
少年の意識がどんどん薄れていく。そして薄れていく程に先程の出来事が頭に浮かぶ。何故、自分がこんな目に遭わなくてわならない?何故、こんなに苦しまなくてはいけない?あの少女が悪い。そうだ全てはアイツのせいだ。少年の頭の中が少女への恨みの感情で満たされていく。
「絶対に、殺してやるっ・・・・・・」
そして少年は願った。生きたいと、生きてあの少女を殺すと、自分にされた以上の苦痛を与えてやると。少年の頭の中に何通りもの殺し方が浮かんでくる。
すると少年は腹のあたりに違和感を覚える。少年は力を振り絞り腹のあたりを見てみると黒い鳥。カラスとも違うどこか神秘的なその鳥は少女に切り裂かれた胸のあたりに留まっていた。
「助けて、あげましょうか?」
「だ、れ?」
「目の前にいるじゃない?」
「鳥?」
「そうよ」
少年は目の前の鳥から聞こえる女性の声に驚きながら先程の言葉を思い出す。
「助けて、くれるの?・・・・・・」
少年は苦しみながらも助かるかもしれないという希望に縋る様に目の前の鳥に問う。
「貴方がそれを望むならね」
鳥は小馬鹿にする様な声音で答える。
「アイツを殺せるならなんでもいい・・・・・・」
「さっきの天使?あれは強いわよ。正直化け物ね」
「化け物だろうと、殺したい。何をしてでも殺したい」
そう言う少年の目には確かな光が灯っていた。憎しみの禍々しい光が。
「いいわねぇその憎悪の光!気に入ったわ。貴方に力をあげる」
すると黒い鳥は歪みながら少年の傷口へ滑らかに入り込んでいく。すると少年の身体は・・・・・・
ドクン、ドクン、ドクン、ドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクン。
少年の心拍数が異常な程に脈打ちながら少年の身体を構成する要素が一つ一つ変化していく。血液、筋肉、それら全ての要素が人間のものでなくなっていく。
「ァァァッ!ギャァァァァッ!」
途方も無い激痛が少年の身体を襲う。焼ける様な裂けるような痛みが体中を走り回る。すると少年の身体に異変が起こる。瞳の色が黒になったり紫になったり交互に入れ替わっている。
「ウァァッッ!」
少年が苦痛に襲われ始めてから三時間が経過したが未だに痛みがなくなることはない。すでに少年に意識はなく身体だけが苦痛を感じる。
「・・・・・・」
そして少年は自分の意識を隔離することによって自我の崩壊だけはなんとか避けていた。すると突如として苦痛の時間も終わりを告げる。
「ああ、終わったか・・・・・・」
<貴方本当に人間?順応しきってない私の力を使うなんて>
何処からともなく少年の頭の中に直接声が聞こえる。
「ええ、そのおかげで精神世界に逃げられましたよ」
<何年くらいいたの?>
「百年とちょっとです」
そう、この少年は不思議な鳥からもらった力で自分の意識を逃して精神世界で過ごしていたのだ。そして百年もそこで過ごせば体は歳をとらなくても精神的な年はとる。
「これで、天使を殺せる・・・・・・」
<さっきよりも憎悪の質が上がってるわね?>
「百年も恨むことをやめませんでしたから」
<あの子達は元気?>
「貴女の精神世界にいた方達にはお世話になりました」
<それはよかったわ>
「はい。本当に感謝してます」
<それよりも見て。天使がどんどん降って来てる。人間側が負けるのも時間の問題よ。だから私の指示した場所に向かって>
「わかりました」
そう言うと少年は背中に黒く美しい翼を広げると何処かへ飛んでいく。
この一連の出来事こそが歴史の変革点。<天使の雪崩>と呼ばれる世界に始めて天使が現れた現象であり世界が天使に支配される事になる運命の日、<エンジェルズ・イブ>だった。
だが、世界は知らない。それ以上に危険で悪質なこの世に災厄をもたらす事になる異物がこの日に誕生した事を・・・・・・
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