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イデアの海  作者: キノミ
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52/52

『スクラップドリーム』


  作詞/作曲:ジャリネロ・スクアード


【TRACKS】

1. 目覚めて見上げた茜空

2. 同胞たちは叫ぶ

3. 使命

4. 及ばぬ力と逃走に友は現れる

5. 思考の縁

6. 眩い光

7. 黄昏に勇む

8. 使命よりも大切なもの

9. Teorema (GUEST: Barbarian On The Groove )



----------------------------------------



「ねぇナツ、ちょっと止まっていい?」


 電子水平器が不思議な値を示していた。


『Err: -0.0…01』


 この表示で水平器が私たちに伝えようとしていることを二人でじっくり考えて、それらしい結論に達した。値はマイナス――下り坂で、その勾配は限りなくゼロに近いけれどゼロではない。この橋は完全な水平ではないのだ。


「でもさ、数学ならもっと便利な記号で表せるんじゃない?」


「そうかもしれないけどこの機械には扱いきれないとか。液晶に数学の記号が表示できないのかもよ」


「なーるほど」


「そもそもナツはそんな感じの記号を数学で習った……?」


「いやー……」


――つまり、この橋がどこまでも続くならば。



* * * *



「む、何か落ちてる」


 どれくらい橋の上を進んだのか、幾つ白い主塔の下をくぐったのか、何もないはずの灰色の路面にポツンと落ちているものがあった。セントナツ号マークIIをスタンドで自立させて、二人でそれに駆け寄る。


「飛行機の……模型?」


「そう見えるけど、なんで……?」


 ナツと同じ疑問が浮かぶ。何故ここに、それも一つだけ?


「ハルカ、これ触っていいよね」


「大丈夫だと思う」


「では失礼して――」


 肩幅くらいのサイズはある立派な機体だ。コックピットの透明な部品から見える操縦席や小さなパイロットの人形も作り込んであるように見える。全体は深い緑色で、赤と黄色の線や模様がワンポイントで入っている。どこの国とも型とも付かないように。


「あれ、これラジコン飛行機なのかも」


「え?」


 よく見るとナツの言う通りだ。そもそもアンテナ線が、ひっくり返してバッテリーを――


「ちょっと待って、フタ開けるから」


――入れるところはあるのに、“何も入っていなかった”。ただ、稼働するプロペラや電池室から僅かに見える機構からも間違いないだろう。


「動かす方ってコントローラーって言うんだっけ? 操縦桿の方は落ちてないよね?」


「うん、見当たらない」


 それでは今一度、何故ここに。


「むー……。もう振り返っていいんじゃないかな。ダメかな」


「まだダメだと思う」


「……りょーかい。これ、前カゴに入れて一緒に連れて行ってあげる?」


 少し考えさせてとナツに時間を貰う。バッテリーも無しに単独で飛んできたとなれば、このラジコン飛行機にも何か“思うところ”があったのだろう。そして、その向かう方角は私たちと同じだった。


「――置いていこう」


 ナツが頷く。ただ直感で決めただけだよと言ってみたけれど、ナツはナツで肯定する理由を教えてくれて、私たちの結論は変わらなかった。

 また二人でセントナツ号マークIIに乗り込む。左右には廃材の海、空は――少し薄くなった気もする茜色。前にはずっとずっと先まで続く白い塔と、滑らかに敷かれた橋の路面だ。


「今更だけどさ、お腹もすかないし喉も渇かなくて良かったよね」


「そうだね、本当に……」


 ナツもいてくれるし、セントナツ号マークIIだってある。ジュースケのCDもミッシェルの電池とイヤホンもある。みんなの写真もだ。そう、本当に。だから私は安心して信じられる。橋の向こう側はまだ見えないけれど、きっと、私たちは辿り着ける。

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