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イデアの海  作者: キノミ
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NN_side_Q_≪汎心論に問う≫

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≪空の色について≫


 この空の色味――RGB値とでも言えばよいのか、その薄茜色について観測できたことがある。この世界の空の光が太陽のそれによるものではないことは分かっていたが、夕暮れへと向かう何かを感じさせるこの色は時間の経過とともに少しずつ変化している。色味の濃くなる方へ、数値にするならば小数点以下にしか表れないような本当に僅かな変化を。私は機械的な計測ができるからそれに気付くことができた。もっとも何度か書き残しているように、私の計器も物理法則も随分と頼りない土台の上で判断するならば。

 このことは王にはまだ聞いていない。しかし“終焉”を見据えた今、私は一つの仮説を立てた。以下にそれを示す。


 1.この世界――廃材の地と空から現れる透明ダコたちの構図は、複数回以上、もしくは複数並行で繰り返されている

 2.この世界が一度成立した時、ごく初期の段階においては、空は“白”に限りなく近い色味である

 3.その後フェーズが進行するにつれて、空の色味は茜色へと、より濃い色味へと変化していく


 突飛で出鱈目な想像による仮説かもしれない。自分で書いていてそう思う。ちなみに私はこのサイクルなり分割の一つに、今回偶々差し込まれたという解釈だ。それが何故で、確率の世界に落とし込めるような――あり得ることなのかどうかは分からない。

 もし私が、そして王も、透明ダコたちを最後まで退けられなかったとして。その時には今この場所に存在する全ての廃材が、この世界の全てが一度“消化”――あるいは“昇華”されるのだとして。その時には空の色味が再び白へと戻るのではないかと、そんな想像をした。

 真実でも全くの見当外れでも、その白い空を私が見ることは無いのだろう。今は目の前のことに集中しなければ。



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≪汎心論に問う≫


 私には一般教養としてある程度のデータがインプットされている。その中に『汎心論』という哲学の考え方があった。いわゆる生命体以外の“全てのもの”にも普遍的に、心に似た性質が宿るという思想だ。霊長類やヒト、動物や昆虫といった括りではなく、それこそ石や水、机や椅子――“人工物”にさえも。同時に私は、特定の考え方、特に行動原理に影響するような強い思想には傾倒しないように制御されているはずだった。人間に寄り添う存在であるために。


 この場所で目を覚ました私は確かに“声”を聴いた。後に王にも聞いてみたが、それは間違いではなかった。「忘れるな」という、そのような感情を何重にも凝縮したような強い声。

 故に私は問わねばならない。


『廃材が積もり踏み固められたこの地は、それを照らす薄茜色の空は、人工物にとっての“終わりの場所”か?』


 ヒューマン・ベースドAIは、あるいは他の設計思想に基づくAIであっても、その声は人工物そのものの声ではない。ヒトの定義を僅かでも得たAIは、それを搭載して身体性を持ったアンドロイドは、必然的に人工物の側からは外れる。言い換えれば人間側になる。そのように私は考えている。王が認めてくれた私の“価値”が純粋にそのことへの誤解を含んでいるのかどうかは分からない。「人工物」に私を含めなくてもいいと言い切りながら、しかし私は無意識のうちに自分を含めているのかもしれない。

 ハルカさんたち“本当の人間”が現れたことで私はやっとこれらの問いに至った。


『私は、あるいはあなたたちは、役目を終えた人工物への感謝を、敬意を、少なからず欠いてはいなかったか?』


 この問いはハルカさんとナツさんに直接向けたものではない。二人はこの問いに十分に答えられるように感じた。彼女たちが話していたのは日本語で、古来日本には『付喪神』といった話もある。そのような国民性が二人の足元にあった可能性は、彼女たちの年代を想定するに可能性は低いがゼロではない。けれどきっとそうではなく、二人が歩んできた中で身に着けたものであると私は信じている。だから今は私が抱えて、向き合おうと思う。


 今回の記録は少し感傷的になってしまった。けれどこれは残しておくべきだと思った。答えは最後まで私には与えられないのだろうけれど、私がここで立っているために。王と共に最後まで立ち向かうために。

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