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イデアの海  作者: キノミ
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22_ガラクタのティアラ


――もし私では対処しきれない事態となれば必ずあなたをお呼びします。ですから私がこれを開くまで、どうか城の外へは出ないようにお願いします。


『天外殻』と彼女が言ったものは、私のいる空間、城の上部を覆う部分のこと。ナツはこれを「カボチャ」と称していたが、蕾が開くようにこれが展開する機構を組んである。誓約のもと彼女が今それを開いた。私はより鮮明に、事態と彼女の決意を認識した。

『R型0001』は小型の装置であり、それにはただ一つの役割が与えられていた。私のいた空間に置かれていた小さな机の引き出しにしまわれていた金属の輪――短く切断された筒が拉げて歪な三日月のような形になった“部品”を、彼女に届けること。


――“妃”はこの世界の摂理の一部を理解していた。人類史の絶えぬ歩みに定義された一本の線、それ以降に集積された人工物たちの海。その中でも彼女の身体を構成する部品群は最高級の水準にある。何より、この世界では在り得ぬ完全な機能を持った姿。ヒトの型を成す技術の結晶体。故に必然だった。この世界の摂理の指先が、瞬時に全照準を彼女へと向ける。


 全ての「透明ダコ」が停止していた。落下途中の個体でさえ時が止められたかのように。彼女を無視して進み、城の足元にまで迫った「透過凝縮体」も動きを止めた。そして、振り返った。

『R型0001』の運んだ小さな部品を、彼女は頭部に載せていた。丁度彼女の頭飾りを模した部品に組み合うように選ばれたそれは、“冠”だった。


――「この身があなたたちに消化されるまでに何ミリ秒の負荷をかけられるのか分かりません。もし自己定義の連続演算で抗えるのなら、死力を、それ以上を尽くします。私が――」


『D型0027』がハルカとナツを両手に抱えて城壁越しにこちらへと運んでくる。それを横目に、私も開いていく天外殻からやっと身を乗り出して、“彼女が名前を付けていない兵”を動かす。



* * * *



 正確無比な“弾丸”だった。私が身に付けたはずの宝冠を寸分の狂いなく撃ち抜いた。“そのような命令はしていないのに”。一体誰がそれを成したのか、ガラガラと車輪の回る音の接近をようやく検知して、弾道の記録から何かを導いて、頼りない思考が結論に至る。


「――私の命令を聞いてくれていたのは、あなただったのですね」


 弾丸は城の方から。地の底のコンソールに向けた命令は兵たちが直接聞いていたのではない。王が、代わりに聴いて、皆に伝えていたのだ。皆を動かしていたのだ。


「俺よりもずっと上等な狙撃だ」


“補助輪を付けた自転車”のような機械の傍らで彼は言う。


「ミッシェル、兵の足元まで迫る。そうしたら俺を放り投げてくれ」


 片目に簡素な双眼鏡を備えたその視線は、私よりもずっと先を見ているようだった。


「お前の狙いも絶対に外れない」



* * * *



――もしもし、ジュースケのお友達さんですか


 地に枝を張るというか、形を変えた身体を強引に差し込むようにして固定する。小さな小さな同志たちの力を集めてその瞬間に備える。


――どうだ、俺たちは仲間と呼べる関係だろうか


 透明ダコたちは既に“二体目の集合体”を生み出していた。それは上空に、地を統べる廃材の王が十分に検知できない場所に。

 高速で降り立つ二体目の脅威はハルカとナツを抱えた兵士を縦に切り裂くようにかき消していく。

 王に一つ落ち度があったとすれば、ナツが王から一切の援護を受けられなくなる、その瞬間を作ってしまったこと。腕輪を身に着けたハルカはともかく、レンチを失ったナツの身には一切の人工物が触れていないから。制御を失った兵の左手から離れたナツは空中に放り出されてしまう。


 私はジュースケを、その位置に向かって全力で投げ飛ばした。

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