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第八章:逃亡と策略

ビレトとザパンがサタナエルの部屋に行った時にはサタナエルの姿はなく金品なども持ち去られた後だった。


「・・・・逃げられたか」


舌打ちをしながら二人は部屋の中を隈なく探して手掛かりを捜した。


「・・・どうやら慌てて逃げたようだな」


手掛かりは見つからなかったが、部屋の乱雑からしてヘルブライ男爵が捕まったのを直ぐに感知して慌てて荷造りをして逃げたのだろう。


「お主ならどうする?」


ビレトが鷲のように鋭い琥珀色の瞳でザパンを見た。


「わしだったら暫くは身を隠して機会を窺うが、あの未熟者の事だ。ヘルブライを助けるか、若しくは一人でバルトに向かい飛天を殺すかだな」


「恐らく前者だろうな。あの臆病者に一人でバルトに乗り込む度胸などない」


ビレトは蔑む口調で言った。


「わしも思うな」


ザパンも同意を示した。


「た、大変です!!」


牢を護っていた番兵が駆け込んで来た。


「ヘルブライがサタナエルの手引で脱獄しました」


「やはりな」


二人は頷くと部屋を出た。


「バルトにはバール殿とエギュンが向かったから心配ないだろう。わしらはヘルブライ男爵に関与した者たちを捕まえるか」


「そうだな」


二人は部屋を出るとベルゼブルが創立したハエ騎士団を連れてヘルブライ男爵に加担した貴族を捕らえに向かった。


一方、牢を脱出したヘルブライ男爵とサタナエルは、まだ自分に味方する貴族の手引きでバルトまでの船で向かっていた。


「おのれ・・・・・・夜叉王丸」


ヘルブライ男爵は船の中で悔しげに唇を噛んでいた。


あんな人間出身の悪魔に自分が屈したのが許せなかったが何より許せないのは純血である自分を蔑ろにした七つの大罪と自分を貶めた夜叉王丸だ。


「ヘルブライ。これからどうするんだ?」


サタナエルが心配そうな声で聞いてきた。


「このままバルトに行き夜叉王丸の首を取ります」


「出来るのか?向こうにはバールやエギュンの他にもリヴァイアサン達がいるぞ」


全員が自分よりも格上の悪魔でサタナエルは怖かった。


「心配は要りません。幾ら護衛が居ようと部屋の中までは来ませんし夜叉王丸自身が護衛は嫌っています」


この事は城での生活を見てきた事で分かっていた。


「しかし、護衛が居ないとしても殺せるのか?もう私もお前の軍団も役に立たんぞ」


ヘルブライ男爵の軍団は夜叉王丸付きの近衛兵であるシルヴィアの軍団が壊滅させサタナエルの軍団はフォカロル将軍の軍団が海の藻屑にした。


「ご安心ください。あのような人間風情に純血の私が負ける訳がありません」


ニヤリと笑うヘルブライ男爵を見てサタナエルは心強くなったのか力強く頷いた。


「そうだな。あんな人間に負ける訳がない」


「その意気です」


そんな二人の密会を聞いた水夫は艦長室に行き艦長に伝えた。


「そうか。奴らは皇子様の寝込みを襲う積もりです」


艦長は長椅子に座り優雅に紅茶を飲む銀髪の男に言った。


「そうか。御苦労だった」


銀髪の男は椅子に座ったまま感謝した。


銀髪の男の名前は秘密警察長官のネルガル。


秘密警察とは国内での対テロ対策や他国などに潜入するスパイ活動などの通常の警察などでは対応できない事件を手掛ける組織で恐れられている。


何故、秘密警察の長官がサタナエルとヘルブライ男爵の船に乗っているのかと言うと、この船を所有する貴族も夜叉王丸を慕っていたからだ。


自分より格下のヘルブライ男爵に扱き使われていた貴族は早くから見切りを付けて夜叉王丸の味方に付きスパイ活動をしていた。


そしてヘルブライ男爵が助けを求めてきたのでネルガルに報告したのだ。


「・・・・これで反乱分子は消去できる」


ネルガルは残酷な笑みを浮かべながら温くなった紅茶を一口のんだ。


夜になってバルトに到着したヘルブライ男爵とサタナエルは船を降りて城へと向かった。


「どうやって中に入るんだ?」


前を歩くヘルブライ男爵に尋ねるサタナエル。


「瞬間魔法で中に入り夜叉王丸の首を取ります」


「本当に大丈夫なのか?リヴァイアサンとフォカロルもいるぞ」


「あんな二人など敵ではありません」


どこか自信満々で答えるヘルブライ男爵にサタナエルは安心したように笑った。


「それは頼もしいな。頼むぞ。ヘルブライ」


「お任せ下さい」


ヘルブライ男爵は大きく頷いた。


そんな二人を見る人物がいるのを二人は知らない。


「・・・・・愚かな」


嘲いの笑みを浮かべる鵺。


ネルガルから連絡を受けた夜叉王丸は鵺に命じて密かに監視させていた。


「・・・殿に報告せねば」


鵺は二人を見下ろしたが直ぐに視線を外して城に向かった。


「・・・・そうか。やはり、来たか」


屋敷の外で鵺の報告を聞きながら夜叉王丸は煙草を蒸かしていた。


ジャンヌは外出中のため、鬼の居ぬ間に何とやら・・・・・・・


「ふぅー、それでどれ位で着くと思う?」


「恐らくは深夜二時かと」


「そうか。お前はまたヘルブライを見張れ。俺は総督府で待ち構える」


「総督府ですか?」


何でわざわざジャンヌの屋敷で待ち構えないのか、と鵺は目で言った。


「あんな下衆共の血で、この屋敷を汚したくない」


鵺は納得した顔で頷くと姿を消した。


「さぁて、俺は一眠りするか」


吸っていた煙草を指で揉み消すと夜叉王丸はダハーカ達に総督府へ向かうと告げに屋敷に戻った。


それから深夜二時。


辺りは寝静まった時間にヘルブライ男爵とサタナエルは城に到着した。


「夜叉王丸は総督府の寝室で寝ているそうです」


ヘルブライ男爵とサタナエルはバルトの城の中に入ると総督府を目指して隠密行動をして進んだ。


何人か見張りの兵士に見つかりそうになったが、幸いにも見つからずに総督府の中に着いた。


「鍵も掛けないとは油断しているな」


裏口のドアが開いているのを油断していると思い嘲笑い中に入り寝室へと足を運んだ。


「・・・・準備は良いですか?サタナエル様」


サタナエルは腰に差した剣を抜いて頷いた。


二人は頷き合うと剣を片手に一気にドアを蹴破りベッドに突き立てた。


しかし、ベッドのシーツを退かすと夜叉王丸の姿はなかった。


「何っ」


「よぉ。待ってたぜ」


窓際を見ると上半身を包帯で覆った夜叉王丸が立っていた。


「貴様っ。謀ったな!!」


二人は剣を夜叉王丸に向けた。


「あぁ。お前らがバルトに来るのも分かっていた」


ニヤリと笑う夜叉王丸。


「で?どうする」


「こうする!!」


ヘルブライ男爵が不意にナイフを取り出して夜叉王丸に向かって投げた。


それと同時に二人が突っ込んで来た。


「・・・・・・・」


夜叉王丸はナイフを避けてヘルブライ男爵の剣を右足で横に払いサタナエルの腕を掴むと巴投げで地面に叩き付けると間を置かずに落とした剣を拾いヘルブライ男爵の左腕を斬り落とした。


「ぐわああああ!!」


ヘルブライ男爵は肘から先の無い左腕を抑え絶叫を上げた。


「俺の前に二度と現れるな。さもないと殺すぞ?」


「・・・・この怨み必ず貴様の血で返させて貰うぞ!飛天夜叉王丸!?」


捨て台詞を残しヘルブライ男爵は瞬間魔法で姿を消した。


「・・・・おい。出て来いよ。ネルガル」


夜叉王丸が声を掛けると音もなくネルガルが現われた。


「流石は皇子様。見事な腕前ですね」


ネルガルは人懐こい笑みを浮かべた。


「皇子と呼ぶのは止めてくれ。背中が痒くなる」


「これは失礼しました」


クスクスと笑うネルガル。


しかし、瞳だけは笑っておらず冷やかにサタナエルを見下ろしていた。


「ヘルブライは逃げたが、こいつはお前に預ける」


「ありがとうございます。陛下、サタン様もそれを望んでいます」


「サタン様が?」


「はい。これはまだ秘密ですが、この愚か者を処刑ではなく決闘で葬れとの事ですので」


ネルガルの言葉に夜叉王丸は何かを感じ取ったように目を細めた。


「・・・なるほど。そういう事か」


「はい。鋭い洞察力に感服致します」


ネルガルは一礼して床で伸びているサタナエルを軽々と脇に抱くと瞬間魔法で姿を消した。


一人になった夜叉王丸はヘルブライ男爵が残した左腕を見下ろしたが直ぐに視線を逸らすと魔術で火を点けて腕を燃やした。


燃える腕から悪臭が漂ってきたが構わずに暫く炎を見ていたが興味を無くしたのか部屋を出て行った。


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