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第七章:悪魔の看病

ミカエルを倒した夜叉王丸が目覚めてから三日が経った。


その間の夜叉王丸はベッドから動けなかった。


驚異的な回復力で動けるようになったがジャンヌが断固として動くのを反対してベッドから動けないでいる。


「なぁ、何時になったら俺は動いていいんだ?」


長身には小さすぎるベッドに寝ている状態で夜叉王丸は隣で椅子に座りながら器用にナイフで林檎の皮を剥くジャンヌに尋ねた。


皮を剥いていたナイフを持った手を止めて夜叉王丸を蒼い瞳で見るジャンヌの美しさに夜叉王丸は目を細めた。


「少なくとも半年は動いてはいけません」


「その間は煙草もお酒も禁止です」


母親のように諭す口調で話すジャンヌ。


「半年も禁欲しろとは地獄だ」


ジャンヌから視線を逸らし天井を見つめる夜叉王丸。


「・・・・仕方ありませんね」


溜息を吐いたジャンヌに夜叉王丸は視線を戻した。


「何がだ?」


「少し外出しましょう。もちろん私も同行します」


外出と聞いて夜叉王丸の瞳が輝いたのをジャンヌは見逃さなかった。


「さぁ、私の肩に掴まって下さい」


夜叉王丸に肩を貸そうとしたが逆に持ち上げられてしまった。


「俺の腰でも支えてくれ」


ジャンヌは夜叉王丸の腰に手を回した。


「さぁ、行きましょう」


二人は寄り添うようにして部屋を出た。


「あーあー、三日ぶりの外は良いな」


気持ち良さそうにする夜叉王丸にジャンヌも釣られて微笑んだ。


夜叉王丸とジャンヌは総督府の庭を二人で仲良く歩き始めた。


包帯の上からジャンヌに渡した陣羽織を着て夜叉王丸は三日ぶりの外出を楽しんだ。


途中で風の翼の兵士と会うと皆が夜叉王丸を心配する口調で話し掛けて来て夜叉王丸は大丈夫だと答えた。


「・・・・皆さん。夜叉王丸様を大切に思っているんですね」


「部下に心配されるなんて情けない上官だな」


苦笑交じりに答える夜叉王丸。


「いいえ。部下に心配される事は、それだけ夜叉王丸様が皆から愛されている事です」


「・・・・ありがとう」


ジャンヌの言った言葉が何処か嬉しくて夜叉王丸は照れ笑いしながら礼の言葉を言った。


庭を散歩して三十分くらいしてからゼオンが夜叉王丸の元に来た。


「旦那。散歩の所をすいません」


一礼して謝罪するゼオン。


「いや。大丈夫だ。それで何か用か?」


「はい。魔界からバール王とエギュン王が来ました」


「バール殿とエギュンが?」


夜叉王丸は訝しんだ。


二人とも個人的な付き合いがあり何度か戦を共にした戦友でもある。


その二人が尋ねて来るのは何かあると夜叉王丸は感じた。


「あの、お話をするのであれば客室をお使い下さい」


夜叉王丸の腰を支えながらジャンヌは提案した。


「ありがとう」


ジャンヌに礼を言って夜叉王丸はジャンヌを伴ってゼオンと一緒に庭を後にした。


客室に向かうとバール王とエギュン王がソファーで待っていた。


どちらも黒い軍服姿で身体から放たれるオーラは猛々しくも威厳に満ちていた。


「飛天殿。傷は大丈夫ですか?」


バール王が心配そうにジャンヌに支えられる夜叉王丸を見た。


「はい。このジャンヌ殿が私を看病してくれたので」


腰を支えるジャンヌを見つめる夜叉王丸。


「そなたは?」


「は、はいっ。バルト市長の娘、ジャンヌ・シエル・ベルサイドと言います」


夜叉王丸の腰から離れてバール王とエギュン王に一礼するジャンヌ。


「私はバール王。我らが王であるベルゼブル皇帝陛下の息子である飛天殿を助けて頂き感謝します」


エギュン王も立ち上がってジャンヌに一礼した。


「私はエギュン王と言います。この度は飛天が世話になりありがとうございます」


「い、いいえっ。私こそ夜叉王丸様にはバルト市民に狼藉を働かなかった事を感謝しています」


夜叉王丸の正体と二人の王族に頭を下げられてジャンヌは慌てふためいていた。


「まぁ、堅苦しいのはこの辺にして、何しに来たんだ?エギュン」


夜叉王丸が割り込んでエギュン王に聞いた。


「陛下からお前を護衛しろと命令された」


「俺の護衛?」


「あぁ。サタナエルとヘルブライを拘束したから、残党がお前を殺す可能性があるから俺とバール殿が護衛として選ばれた」


ジャンヌは話されている事の重要性に目を回していた。


「王族を二人も護衛に寄こすなんて、やり過ぎだ」


夜叉王丸は明らかに渋面を浮かべた。


今でも喧しい二人がいるのに増やさないで欲しいと思った。


「陛下は飛天殿を心配しているからですよ」


バール王が叱るように夜叉王丸を睨んだ。


「いいですか?そもそも飛天殿はご自分の事を・・・・・・・・・・」


「うぅぅ、傷口が開いた。ジャンヌ殿。ベッドまで頼む」


何やら説教が始まりそうなのを感じ取った夜叉王丸は痛くもない傷を痛がる振りをしてジャンヌに助けを求めた。


「まぁ!!それは大変です!さぁ、私の肩を掴んで下さい」


ジャンヌは夜叉王丸の嘘に騙されているのも知らずに肩を貸すと夜叉王丸を支えるようにして部屋を出て行った。


「・・・・・健気だな。あの娘」


エギュン王は感心するように呟いてバール王は途中で説教を打ち切られた形で不機嫌だった。


部屋に戻った夜叉王丸はジャンヌに支えられながらベッドに寝た。


「大丈夫ですか?」


「あぁ。少し動き過ぎたな」


苦笑する夜叉王丸にジャンヌは優しく頭を撫でた。


「あまり無茶はいけませんよ」


「あぁ。しないよ」


ジャンヌの言葉に夜叉王丸は苦笑交じりで答えた。


何故か分からないが、ジャンヌとは長い時間を共に過ごしてきたような感覚が夜叉王丸にはあった。


それは、恐らく彼女がかつて愛した“かの女”に似ているからかも知れないと夜叉王丸は思った。


彼女も見ず知らずの自分に優しく接して母親のように叱ったりしてくれたのを遠い記憶から思い出した。


「・・・・・似ている」


「え?」


知らず知らずの内に呟いていた事に夜叉王丸は慌ててシーツを頭から被った。


「な、何でもないっ」


「?」


ジャンヌは夜叉王丸の言った言葉を聞き取れず何を恥ずかしがっているのか分からなかったが敢えて聞かないでいた。


夜叉王丸はシーツを被りながら自身の不覚さに情けなさと恥ずかしさが一杯でしばらく頬が蒸気した。



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