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第六章:目覚める悪魔

夜叉王丸は朝日が顔に当たって眩しくなり目を覚ました。


『・・・・俺は、確かミカエルの右腕を切り落として天使の娘を助けて死んだ筈じゃ・・・・・・・』


自身の身を見ると包帯が巻かれていた。


「・・・どうやら生きているらしいな」


苦笑しながらベッドから立ち上がろうとした時に左手が重く感じて見るとジャンヌが自身の腕を枕にして眠っていた。


「・・・・・・」


夜叉王丸はジャンヌを起こさないように気を付けてジャンヌをベッドに寝かせてシーツを掛けた。


「ありがとう」


礼の言葉を言って夜叉王丸は部屋を静かに出た。


部屋を出た夜叉王丸は声のする方向へと進んだ。


声のするドアを開けるとダハーカ達が寝息を立てていた。


大の男が八人も同じ部屋で寝ていると、という何とも想像しがたい状況を見て夜叉王丸は頭を抑えた。


その内、ダハーカが目を覚まして眠たそうな瞼を開けて何気なくドアの方向を見た。


「よぉ。ダハーカ」


片手を上げて挨拶をする夜叉王丸を見てダハーカは茫然としていたが、見る見る大粒の涙を流し始めて夜叉王丸に抱き付いた。


「飛天!!」


「い、生きててよかった!!おおおおん!?」


大木のような腕で夜叉王丸を抱き締めるダハーカ。


192の長身である夜叉王丸を更に超える230のダハーカに抱き締められて夜叉王丸の骨は軋みを上げた。


「煩いぞー。何を泣いて・・・・・・旦那!!」


続いてゼオンが目を覚まし後からリヴァイアサン達が目を覚まして夜叉王丸の姿を見ると歓喜の声を上げた。


「生きてたのかよ?!この野郎っ。心配させやがって!!」


「あ、主人っ。うわぁぁああん!?」


九人の男に囲まれた夜叉王丸は限界に達し傷が塞がり掛けたのも忘れて九人を蹴散らした。


「熱くるしぃいんだよ!!」


ゼイゼイっと荒い息をしながら夜叉王丸は倒れた九人を見た。


「たっく。少しは大人しくしろ」


腰まで伸びたボサボサの長髪を掻き上げながら夜叉王丸は溜め息を吐いた。


「そう言えば、ジャンヌさんはどうしたんですか?旦那・・・・・・・・痛いなぁ」


殴られた頬を抑えながらゼオンが聞いてきた。


「あの娘なら寝てたからベッドで寝かせた」


「ジャンヌちゃんに感謝しろよ。ずっとお前の看病をしてたんだからよ」


ダハーカが立ち上がって夜叉王丸に煙草を進めてきた。


「・・・・そうか」


口で煙草を受け取るとヨルムンガルドがライターで火を点けた。


「・・・・・まぁ、何はともあれ無事な事をベルゼブルに報告だな」


煙を肺に入れて夜叉王丸は何となく天井を見上げた。


一方魔界では、ベルゼブルと王族達が会議を開いていた。


その時にフォカロルの出した使い魔の報告を聞いてベルゼブルを始めとした王族は安堵の息を漏らした。


「・・・・皆の者。飛天が挙げた戦果は魔界史上に残る大戦果だ。よって飛天に爵位を与え階級もレリウーリアに昇格させたいと思うが異存はあるか?」


皇帝の言葉に王族達は無言で異存なしと答えた。


「お待ち下さい!!陛下!?」


突然、閉められていた扉が開き議会室に血相を変えたヘルブライ男爵が現われた。


「夜叉王丸に爵位を与えるなど・・・・・・・・・・」


「黙れ!!」


ベルゼブルの一喝でヘルブライ男爵は縮み上がった。


「ここは議会室。たかがサタナエル如き餓鬼の側近が入って良い場所ではないぞ」


「しかし、陛下っ。私は帝国の行く末を考えて・・・・・・・・」


「天界に情報を漏らした裏切り者がほざくな」


この言葉を聞いてヘルブライ男爵は思考が停止した。


「貴様が天界の軍に送った手紙もあるぞ」


懐から紙を取り出すベルゼブル。


「天界に情報を漏らしただけでは飽き足らず重税を民に敷き数々の令嬢を毒牙の餌食にした罪、許し難し。よって主人であるサタナエルと共に逮捕する」


ベルゼブルが眼で合図すると秘密警察が現われてヘルブライ男爵を拘束した。


「へ、陛下っ。何かの間違いです!私は裏切ってなどいません!?」


「言い訳無用だ。連れて行け」


冷やかな眼差しで一瞥して秘密警察の者に命令する。


「陛下!!私の話を聞いて下さい!?陛下ー!!」


ヘルブライ男爵は引き摺られながらベルゼブルに懇願したが、無情に扉は閉まった。


「・・・・はぁ。やっと煩い餓鬼が消えたな」


ベルゼブルは威厳ある顔から疲れた表情になった。


「まったく。議会室に乗り込んで来るなんて傲慢にも程がある」


文句を言ったのは七つの大罪の“傲慢”である元天使長ルシュファーだった。


「しかし、これで奴の領土を取り上げられる大義名分も出来た。全ては計算通りだ」


ニヤリと黄金の置物を撫でて笑う男は七つの大罪の“強欲”を司る西の王マモン。


「その口振りから察するにヘルブライ男爵に情報を漏らしたのは、お前か?」


ルシュファーがちらりとマモンを見た。


「あぁ。今日、飛天に爵位を与えるって情報をヘルブライ男爵の耳に入るようにな」


「それで乗り込んで来た無礼を理由に領地と爵位に役職を取り上げるって計算か?」


「如何にも。それを飛天にそのまま継承させれば良いだろ?」


「相変わらず計算高い奴だ」


ルシュファーは呆れた眼差しでマモンを一瞬だけ見た。


「それよりサタナエルの処罰はどうする?」


マモンの隣に座っていた色欲の権化であるアスモデウスが口を開いた。


「あいつは飛天を殺そうとした罪がある」


「だが、奴はサタンの息子であり皇子だ。処刑するにも、それ相応の手続きがないと」


アスモデウスと向き合うように座っていた嫉妬の化身のレヴィアタンが返答した。


「手続きなどしている暇はない。今にでもサタナエルを殺すべきだ」


レヴィアタンの意見を怠惰の化身、ベリフェゴールが否定した。


皆の意見が別れて議論していると、それまで沈黙だった憤怒の化身であり初代地獄皇帝だったサタンが口を開いた。


「サタナエルには決闘という形で死んでもらう」


「決闘という形なら奴を大衆の面前で殺せるし周りにも良い見せしめになる」


自分の息子の処刑方法を淡々と述べるサタナエル。


「奴は生かし過ぎた。これ以上は生かして置いたら飛天の為にならん」


非情とも言える言葉を出すサタン。


「分かった。飛天が帰り次第に決闘をさせる。それまではどうする?」


ベルゼブルが尋ねた。


「ヘルブライと一緒に牢にでも入れて置こう」


「・・・・ビレト、ザパン」


二人の王族の名前を呼んだ。


「ただちにサタナエルを取り押さえて牢に入れろ」


ビレトとザパンは一礼すると議会室を後にした。


「・・・・バール、エギュン」


ベルゼブルは次に魔界でも最大の力を誇る剣王と謳われるバールと北の王であるエギュン王の名を呼んだ。


「・・・・貴様らはただちにバルトに行き飛天の護衛に当たれ」


二人も一礼すると議会室から出て行った。


「これで今回の議会を終了する」


ベルゼブルの言葉で地獄会議は終了した。



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