第五章:必ず助ける
「・・・・・大変です!!」
ダハーカ達がジャンヌの薦めで市長の屋敷で寛いでいると一人の兵士が血相を変えて入って来た。
「ぐ、軍団長が傷だらけで屋敷の前に置かれていました!!」
「なに!!」
椅子から立ち上がったダハーカ達は慌てて屋敷の外に出ると夜叉王丸が傷だらけで地面に寝ていた。
「すぐに私の部屋へ運んで下さい!急いで!?」
一緒に来たジャンヌは慌ててダハーカに言った。
「分かった!飛天、しっかりしろ!?」
ダハーカは夜叉王丸を担ぐと急いでジャンヌの案内する部屋へと運んだ。
「出血を止めますから包帯をお願いします」
了解したとダハーカ達は急いで包帯を取りに行った。
直ぐに包帯を取りに来たダハーカ達にジャンヌは受け取った包帯を身体に巻いた。
しかし、出血が酷く包帯は直ぐに赤くなった。
「もっと包帯を!!無ければカーテンでも何でも良いです!?」
「それから氷とタオルをお願いします」
ダハーカ達以外にリヴァイアサンやフォカロルも包帯や氷、タオルを調達するのに励んだ。
何度も包帯を取り換えて氷で額を冷やすこと一時間。
やっと出血が止まった。
しかし、今度は熱が下がらず氷の取り換えが必死だった。
その間、ジャンヌは片時も夜叉王丸の傍から離れずに看病をした。
途中で夜叉王丸がうめき声を上げると血で染まった手で夜叉王丸の手を掴んで優しく励ました。
「大丈夫。大丈夫ですよ」
それを聞くと夜叉王丸の顔が和んだ。
「・・・・絶対に死なせません」
ジャンヌは目の前の男を死なせない事に時間を費やした。
その間、ダハーカ達はリヴァイアサンとフォカロルも混ぜて軍議を開いていた。
「・・・ヘルブライの野郎が天界と密通していただと?」
リヴァイアサンは眉を顰めた。
「あぁ。旦那が見つけた手紙にヘルブライと書かれていた」
「愚かな男だと思っていたが、ここまで愚かだったとは・・・・・・・・・・」
フォカロルは呆れた表情をした。
「鵺が蝿王に報告しに行っている」
「・・・・もうして来た」
何時の間に現われたのか壁に寄り掛かって鵺がいた。
「相変わらず神出鬼没な奴だ」
フェンリルの言葉を無視して鵺は言葉を続けた。
「ヘルブライ並びにサタナエルと殿を暗殺しようとした者を密告罪と国家反逆罪その他諸々の罪で裁くとの事だ」
淡々と無表情で言う鵺にリヴァイアサンとフォカロルは寒気を感じた。
ダハーカ達とは違い、この男は顔を見せず話す事も要件しか話さず無愛想に見えるが実は仲間思いで特に夜叉王丸を馬鹿にすると情け容赦がない。
二人とも酒の席で夜叉王丸を馬鹿にしたら半殺しにされた事があるため鵺の前だと出来るだけ控えている。
「それでヘルブライとサタナエルは?」
「ヘルブライは秘密警察がサタナエルは近衛兵が捕まえて一味は騎士が取り押さえる予定だ」
「そうか。御苦労だな」
ダハーカが労いの言葉を掛けた。
「貴様の為ではない。全ては我が殿。飛天夜叉王丸様の為だ」
無愛想に答える鵺にダハーカは苦笑した。
「それで、殿の容体は?」
「熱は下がった。後は体力勝負だと」
「まぁ、あの体力馬鹿なら死な・・・・・・おわっ!!」
リヴァイアサンが軽口を言おうとすると鵺が忍者刀を抜いて首筋に当てた。
「・・・・我が殿を愚弄するか」
「い、いやぁー。そういう訳では・・・・・・うわぁ!!」
「待て!!」
リヴァイアサンを追う鵺。
「貴様は許さん!!」
「ひぃ!!落ち着け!?」
「黙れ!?」
「喧嘩なら外でやれ。茶が不味くなる」
「少しは静かにしろ。眠れねぇだろ?」
わいわいと騒いでいると
「煩いですよ!?」
バンッとドアを開けてジャンヌが怒鳴り声を上げた。
その声に皆が止まった。
「けが人がいるんですよ?傷に障ったらどうするんですか?!」
『・・・・・す、すいません』
大の男が八人も子供のように謝った。
「今後一切、騒いだら屋敷から追い出しますよ」
それだけ言うとドアを閉めるジャンヌ。
「・・・・・見た目によらず怒らせると怖いな」
ダハーカの言葉に皆が頷いた。
「・・・シルヴィアより怖い」
リヴァイアサンはブルブルと震えていた。
どうやら過去のトラウマが蘇ったようだ。
部屋に戻ったジャンヌは自分の小さいベッドで眠る男、夜叉王丸を見つめた。
全身を傷だらけにして戻った夜叉王丸。
熱は下がったが未だに眼を覚まさない。
「・・・・どうか。目覚めて下さい。皆が心配してるんですよ」
白い手で夜叉王丸の前髪を撫でるジャンヌ。
その表情は悲しげな表情だった。