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番外編:決闘と言う名の処刑

夜叉王丸が残酷で、悪魔になっています。


残酷な描写があるので、見る人は自己責任でお願いします。

薄暗く、上から水が滴り落ちる中で一人の青年が、吠え立てていた。


「出せー!!俺は、第一皇子だぞ!?こんな所に閉じ込めて良いと思っているのか?!」


既に声は枯れ切っているが、青年は吠え続けた。


彼の名はサタナエル。


初代魔界皇帝サタンの長男で第一皇子。


サタンに似た容姿ではあるが、性格は愚劣の一言に尽きると周りからは言われている。


政治では自らの欲ばかり考えて、行動し権力を行使する。


戦でも同じ事で、兵たちを前線へと送るが、自分は決して前線に行こうとはせずに後方で妾などを囲い安全な場所にいる。


更に負け戦となると、直ぐに側近たちを連れて敵前逃亡という武将として有るまじき行為をした。


これには軍人だけでなく貴族達からも批難が来た。


父親であるサタンは、早くから息子の性格を熟知していたのか


『我が愚息。魔界史に残る愚将にして、恥曝しである』


と日記に書き記していた。


この歴史に名を残す第一皇子とは対比したように、第二皇子、飛天夜叉王丸は好印象に書かれている。


『この男、我と友人であるベルゼブルとの養子で血の繋がりは無いが、実の息子以上に愛して止まない』


と書かれており、民などからも好意的な印象を持たれていた。


戦では常に最前線へと身を置き、決して部下を見殺しにはせず捕虜にも人道的な対応をするなど人格者としても各国から称賛されている。


そんな夜叉王丸をサタナエルが嫉妬と憎悪の眼差しで見ていたのは、言うまでも無く書くまでも無い。


彼は、常に夜叉王丸を『人間の血を持つ下賤な悪魔』と蔑み在らぬ噂を流し、果ては暗殺までしようとした。


自分に無い物を彼は持ち、両親の愛情さえ彼にあるのが許せなかったのだろう。


嫉妬の権化であるレヴィアタンは、こう語った。


「嫉妬は誰にでもあるものだ。自分より優れた者を恨むのは当然。しかし、サタナエルの場合は、嫉妬を超えた憎悪だ」


嫉妬も超えれば憎悪とレヴィアタンは称して、サタナエルが夜叉王丸を暗殺しようとしたのも頷けると、肯定した。


しかし、こう付け加えた。


『憎悪するのは勝手だが、他を巻き込むのは、最悪以外の何でもない。そして、他を巻き込むのを夜叉王丸は一番嫌う』


『もしも自分だけを殺そうとしているなら、夜叉王丸は素直に討たれたかもしれない。しかし、他を巻き込んだから、サタナエルを殺した』


それはサタナエルが悪いし、ただ憎悪ばかりして自分で行動しなかったサタナエルが悪いとレヴィアタンは結論付けた。


逆にレヴィアタンとは反対に好色の権化、アスモデウスはこう結論付けた。


『ある意味、夜叉王丸も悪い。下手に奴を挑発したり、殺されようと見せかけたりしたから、数百年も争う形になった』


『早く、会った瞬間にでも奴の首を切り落としてしまえば、早く決着は着いていた』


アスモデウスは、夜叉王丸が会った瞬間にサタナエルの首を切り落としていれば良いと結論を出した。


サタナエルは、数か月前に夜叉王丸を暗殺しようと自ら動いたが、難なく取り押さえられて地下牢へと幽閉されて、処罰を待った。


直ぐに皇帝を始めとした王族・宰相・貴族などが地獄会議を開きサタナエルの処罰を議論した。


皇帝を始めとした王族は、『決闘』という処罰を下した。


決闘とは文字通り、1対1の戦いを意味し、勝った方が生き残るシンプルな方法ではある。


しかし、この方法は名誉を掛けた争いで行うべきもので、サタナエルには名誉など無いと宰相・貴族が反対した。


『サタナエルは、皇子ではある。しかし、皇子とは名ばかりの愚者である。そんな者に決闘の資格を与えるのは魔界の恥である』


と反論をして逆の処罰を下した。


宰相・貴族が下したのは、『惨死』であった。


この処罰は、魔界の中でも一際に目立つ処罰で重い処罰である。


先ず、手足を切り落とし、それを魔獣に喰わせる。


その光景を見せる事で相手の恐怖・絶望などを心の底に焼き付かせるのだ。


次に市中を引き回して、市民などから石を投げさせ罵倒させる。


位が高い者が市民に誹謗中傷されて、屈辱感を植え付けるのだ。


そして、七つの罪である憤怒・傲慢・嫉妬・怠惰・好色・強欲・暴食を相手に見せつけてやる。


最後に八つ裂きにして煉獄の炎で生きながらにして灰も残さず焼き尽くす。


これほど残酷な刑は無いとまで言わしめられる処刑方法だ。


宰相・貴族は、サタナエルの悪行は、惨死に値すると結論付けて下したのだ。


しかし、皇帝・王族は、こう言い加えた。


『決闘をさせるが、それは、貴族達などの前で行う』


決闘は名誉を掛けた戦いであるため1人だけ見届け人を残し、誰も見る事は禁止されている。


だが、サタナエルの決闘は貴族達に見せつけて、サタナエルへの憎悪を晴らせると同時に見せしめの為でもある。


サタナエルに与した貴族などもいる。


逆に夜叉王丸に与する貴族もいれば、サタナエルに見切り・絶望して夜叉王丸の軍門に下る者もいた。


サタナエルが捕まった今、大抵の貴族は軍門に下ったが、未だにサタナエルに味方する貴族が居るのもまた事実。


理由は様々ではある。


ある貴族は、義を重んじ理屈が夜叉王丸の方にあろうと、サタナエルを裏切れない。


またある貴族は、人間である夜叉王丸にサタナエルが負ける筈がないという、差別的な見方をする者もいた。


前者と後者を比較すると、サタナエルに義理を重んじて味方するのは、アルバルド公爵家だけだった。


どちらも一歩も引かずに議論を続けたが、サタナエルの父親であり初代皇帝のサタンの一言で決定した。


『あの愚息を魔界に産んだのは、我。ならば、その愚か者を処刑する方法も我が下すのが魔界の道理である』


この一言で宰相・貴族は口を閉じ、サタナエルの処罰は『決闘』という形だけの公開処刑が決定した。


サタナエルは地下牢に閉じ込められてから、毎日のように叫び続けていた。


皇子として生まれた自分が何故、地下牢に閉じ込められているのかという疑問と屈辱で身も心も気が変になりそうになっていた。


「出せ!!私は第一皇子、サタナエルだぞ!!」


分厚い魔術が施された鉄の扉を叩き続けていると、扉が開いた。


「出ろ。皇帝陛下が、お呼びだ」


兜と鎧、そして、槍と剣で武装した兵士がサタナエルを両方から抑えるようにして地下牢から出した。


「は、放せ!!私は・・・・・」


「お前は、もう皇子でもなければ、魔界の民でもない。ただの愚かな馬鹿者だ」


兵士は、冷たい声でサタナエルに告げた。


「なんだと!!」


「先ほど、貴様の父君であったサタン様が貴様を破門とした」


「破門だと?!」


「そうだ。これから、貴様は夜叉王丸様と1対1で戦ってもらう」


「ふ、ふはははははは!!あの人間風情と決闘だと?笑わせるな?!この私は・・・・・・・・・あが!!」


最後まで言う前に、兵士にサタナエルは、殴られた。


「夜叉王丸様は、正式な魔界の皇子。貴様などが侮辱する権利は何処にもない」


口と鼻から血を出して、項垂れるサタナエルを二人の兵士は、無表情で決闘場と言う名の処刑場へと連れて行った。

















----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------


「・・・・・・・・・・」


決闘場では、貴族達が席に座りサタナエルの登場を待っていた。


周りは、ローマのコロッセオのように円形闘技場の造りとなっていた。


その下では、漆黒の衣装に外套に身を包んだ男、飛天夜叉王丸が立っていた。


口には煙草を銜えており、後ろには彼の仲間の内3人がいた。


「さて、あの馬鹿はどんな死に方をするのかな?」


一番、大きな体格をしたアジ・ダハーカが口端を上げて笑みを浮かべた。


「処女を失った女みたいに泣き叫ぶんじゃないか?」


隣で夜叉王丸の腹心であるフェンリルが下駄な笑みを浮かべて答えた。


「違いない。あいつならそれくらい泣き叫ぶな」


普段、下駄な話などでは笑わないヨルムンガルドでさえ声を立てて笑っていた。


「おい。あまり笑うな」


夜叉王丸は、煙を口の隙間から吐いて、仲間を叱った。


「豪く不機嫌だな」


ダハーカが夜叉王丸の後姿に語り掛ける。


「・・・あんな餓鬼の為に時間を費やするのが嫌なだけだ」


「だろうな。今の時間ならジャンヌちゃんと茶でも飲んでいる頃だし、な」


ダハーカは笑いながら述べた。


淡白で、これから決闘をやるような言葉ではないように思えるが、彼らから言わせればサタナエルなど道端の小石に過ぎない。


「お前から見れば、あんな餓鬼は小石に過ぎないだろうな。最も俺みたいに歳を取った奴から見れば、あんな餓鬼は小石どころか空気にも見えん」


ダハーカは爬虫類のように縦眼を細めた。


「どうやら来たようだぜ」


「・・・・あぁ」


「お前が負けるとは思っていないが、しくじるなよ?」


「誰に向かって言っている?」


「ふっ。それだけ言えるなら十分だ」


ダハーカ達は、後ろへと下がった。


サタナエルは兵士たちに両脇から抑えられる形で現れた。


貴族達は、その姿を見て失笑を浮かべた。


その中には、未だにサタナエルに従っている者もいた。


「味方からも笑われるとは、ほとほとあいつは道化師だな」


「道化師でも無い。ただの愚者だ」


ダハーカの呟きを夜叉王丸が訂正した。


煙草は地面に捨て、靴底で消し去っていた。


「言えてるな」


ダハーカは笑った。


夜叉王丸は数歩、前に歩み寄った。


兵士たちは夜叉王丸に一礼してからサタナエルを解放して下がった。


サタナエルは、膝を着きそうになりながら立つと夜叉王丸を、濁り切った汚い眼差しで睨んだ。


「・・・人間。今日こそ、貴様を打ち倒してやる」


「そういう言葉は俺を殺してから言え」


「ふん。強がりも今の内だ。貴様の屋敷に仕えている天使の娘、名は知らぬが、かなりの美人だそうだな。貴様を倒したら、我が妾として可愛がってやる」


「・・・・禁句を言いやがった。あの馬鹿」


ダハーカが小さく呟いて、フェンリルとヨルムンガルドも最早、勝負は着いたと思った。


夜叉王丸の前で、ジャンヌの悪口、または蔑むような言葉を言えば、言った本人が辿る末路は既に決まっている。


それは、彼に仕える近衛兵隊長、シルヴィア・エターナル・ゾルディス女侯爵が身を持って実感している。


夜叉王丸は無言でサタナエルを見ていた。


左目の金色の瞳の奥には、激しい憎悪が宿っていた。


彼は、右の眼帯を外して後ろに投げた。


眼帯の下には、紅の瞳が宿っていた。


「それを持っていろ。今は、それでも抑えられない」


「了解した。しかし、直ぐに殺したりするなよ?蝿王とサタンからも長い時間を掛けて殺せと言われているんだろ?」


「知った事か」


無下に言う夜叉王丸にダハーカは、ここまで怒り心頭では止められないな、と半ば諦めのk状態に入った。


二人の間にサタンが割って入った。


「これよりサタナエルと飛天夜叉王丸との決闘を開始する。互いに剣を取れ」


サタナエルは地面に刺さった剣を抜いた。


両刃の剣で頑丈そうな作りだった。


対して夜叉王丸は、腰に差していた伊勢千子村正を抜いた。


「夜叉王丸よ。冷静さを失うな」


「・・・・・・・・」


「そなたが怒りを覚えるのも解かる。しかし、これは、父としての願いだ。決して、変化をするな」


「・・・努力しましょう」


サタンの真摯の眼差しに夜叉王丸は、出来る限りはすると言い、村正を両手で持ち、正眼に構えた。


対してサタナエルを見るサタンの瞳は、冷酷で、かつて天界に戦いを挑んだ男の眼差しであった。


「我が愚息よ。貴様を今まで生かした事を、我は一生、後悔するぞ」


「はっ。父上は何時もそうだ。私より、人間風情の悪魔を贔屓する」


「黙れ。貴様は、魔界の恥だ。リリスとリリムも貴様を恥と言っているぞ」


後ろから青いドレスを着たリリスとリリムが姿を見せた。


「サタナエル。貴方をそれなりに息子として可愛がったわよ。だけど、ここまで来ると息子とは言え、許せるものじゃないわ。お願いだから、綺麗に死んでね」


母親とは思えない言葉を吐くリリス。


「母上。貴方と言い、父上と言い、どうして私を蔑むのですか?どうして、そのような人間風情の味方をするんですか」


「人間風情と言うけど、少なくとも貴方より飛天さんの方が、悪魔よ。貴方みたいに“欲望に溺れた小僧”と一緒にしないで」


「母上の言う通りです。貴方は、“溺れた者”でしかない」


リリムが止めとばかりに告げた。


「・・・・夜叉王丸を殺したら、貴方達を手始めに殺させて頂きます。そして、蝿王を殺し私が新たな魔界の王になる」


サタナエルは、もはや尋常ではない気を出して、家族に向かって言った。


「おい。お喋りはその辺にしろ。こっちは、早く貴様の首を切り落として帰りたいんだ」


夜叉王丸が、急かした。


サタナエルは、夜叉王丸を睨み一気に走り剣を振り上げた。


地下牢に居た時とは、まったく違う。


「・・・・・・・・」


剣を避ける夜叉王丸は間を取り、剣を構え直した。


「死ね。人間!!」


サタナエルは攻撃を再開した。


夜叉王丸は剣を交わしながら、サタナエルを見続けた。


金と紅の瞳は、じっとサタナエルを見ている。


「どうした?何故、攻撃しない」


攻撃を繰り出しながらサタナエルは、夜叉王丸に問い掛けた。


「・・・・・・・・・・・・・」


対して夜叉王丸は無言だった。


しかし、次の瞬間、サタナエルに飛び掛かると、彼の反対方向に移動していた。


血が付着していない村正の刃を一度、払うと静かに鞘に収めた。


「・・・勝負、あったな」


ダハーカが耳まで口を裂けて笑った。


次の瞬間、サタナエルは、体中から血を流した。


「がっ!!」


止めなく溢れる血は、大地を赤く染め、吸った。


貴族達は、何が起きたのか分からないと言う顔だった。


しかし、ダハーカ達は分かっていた。


サタナエルの攻撃を交わしながら、夜叉王丸は斬っていたのだ。


常人には分からない速さで、的確に相手の急所を・・・・・・・・・・


「な、何が起きた・・・・・・・・?」


サタナエルは剣を杖にしながら夜叉王丸の方を見た。


「自分に起きた事も分からんか。愚か者が」


夜叉王丸は振り返った。


その顔は、とても残酷な顔に歪んでいた。


「ひ、ひぃ!!」


サタナエルは思わず悲鳴を上げた。


「どうした?さっきまでの威勢は?俺を殺した後、サタン様とベルゼブルを殺して魔界の王に君臨するんじゃなかったのか?」


夜叉王丸はサタナエルに歩み寄った。


「俺を殺して、ジャンヌを妾にしようとしているらしいが、そんな事は俺が許さん」


貴族達には聞こえないように喋った。


「あいつは俺の物だ。身体も魂も。全てな。あいつを俺から持ち去るなら、あいつを殺すだけだ」


だが、それは俺が望んでいる事ではない、と夜叉王丸は付け足した。


ダハーカは、それを聞いてまだ理性は失っていないなと安堵した。


「よ、寄るな。化け物!!」


「俺が化け物なら、お前は何だ?人間か?悪魔か?天使か?それとも神か?」


・・・・・・・・・それとも、ただの愚者か?


「よ、寄るな!!だ、誰か助けてくれ!!」


サタナエルの悲鳴に近い懇願に誰も動こうとはしなかった。


「さぁ、掛って来い。まだ殺さない。もっと痛めつけてから、たっぷりと殺してやる」


バキバキ、と手の節を降り、夜叉王丸は言った。


「ひぃ!!だ、誰か、助けてくれ!!」


サタナエルの言葉は、それが最後だった。


次の瞬間には、夜叉王丸の村正が一閃していた。


首が胴から離れ、胴は足から離れた。


首は高く宙を舞った。


胴と足は、地面に倒れた。


宙を舞った首は、控えていた魔獣の口の中に入り、バキバキバキと音を立てて喰われた。


「・・・ふんっ。もう終わりか。情けない。酒の肴にもならんな」


夜叉王丸は、魔獣を見ると、こちらに来いと言った。


魔獣は直ぐに走って来た。


「この肉を喰え。血は、全て吸え。一滴も一欠片も残すな。全て喰って吸え」


魔獣は夜叉王丸に頭を垂れた。


夜叉王丸は魔獣の頭を優しく撫でた。


その姿は、魔界の者として、次世代の王として相応しい光景で、貴族達は、早くも新しい王の誕生だと囁いた。


サタン達は、サタナエルの遺体を無表情に見つめていた。


「最後まで愚かな死に様だな」


サタンは冷たく呟いた。


「仕方ないわよ。生れた時から、愚か者のストーリーが出来上がっていたんだから」


「ストーリーは、自分で描く物。それをサタナエルは、しなかった。だから、当然の結末でしかないですね」


リリスとリリムは、人生を物語に例え、自分で作り上げる筈の人生を、ただ最初から作られていた物語に進んだサタナエルの死は、当然だと言った。


サタンが声を張り上げて、言った。


「これで決闘は終わった。飛天夜叉王丸は、勝利しサタナエルは死んだ。これにて決闘を終える。そして以後、夜叉王丸に敵対する者は、魔界の敵である!!」


貴族だろうが、何人だろうが、夜叉王丸に矢を射るという事は地獄帝国に反旗を翻すという事。


それをするなら一族郎党、牛馬なども問わず皆殺しにするとサタンは告げた。


サタナエルを応援していた貴族達は、サタンの声に恐れ戦き、夜叉王丸の残酷無比の態度に悲鳴を上げて、我先にと逃げた。


「・・・ネルガル」


サタンが小さく秘密警察のネルガルを呼んだ。


「・・・・はっ」


「逃げた奴らを、皆殺しにしろ。女子供問わず八つ裂きにして灰も残さず焼け。金品も全て、だ」


残さず燃やせと命令を下すサタン。


「畏まりました」


既にベルゼブルの蝿騎士団が動いているとネルガルは、告げて姿を消した。


夜叉王丸は血がこびり付いた右手を見た。


「・・・汚ねぇ色だ」


本物の血は、赤く、朱く、もっと紅く、もっともっと深く、そして真に紅い。


しかし、この血は、汚い色だ。


「フェンリル」


夜叉王丸は、自身に絶対的に忠誠を誓う狼を呼んだ。


「この手を舐めろ」


フェンリルは無言で右手を舐めた。


愛おしく、まるで恋人を抱き締めるかのように優しく舐めた。


「眼帯」


夜叉王丸はダハーカに眼帯を寄こせと言った。


ダハーカは眼帯を持って歩み寄った。


「理性は残っているか?」


「辛うじて、な」


「そうか。正直、失ったかと思ったぜ」


まぁ、それはそれで楽しい惨劇(げき)の開幕になると言った。


「当てられたか?」


「かもな。こいつも、そのようだし」


右手を無心に舐めるフェンリルを見下すダハーカ。


「こんな、所をジャンヌには見られたくないな」


夜叉王丸は小さく息を吐いた。


「仮に見られても、あの方を手放す気はないでしょうに」


何時の間にかヨルムンガルドが眼帯を取り上げて、夜叉王丸の後ろに周り眼帯を結んでいた。


「・・・・あいつは、俺の物だ」


「あぁ。お前の物だ」


あの娘もそれを望んでいる、とダハーカは心の中で呟いた。


ここにサタナエルの決闘と言う名の処刑は行われた。


その日の内にサタナエルに与した貴族達は忽然と姿を消した。


一族郎党、牛馬や屋敷、金品なども残さず、だ。


こうして夜叉王丸は、魔界での地位を不動の物にした。


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