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終章:伝説の始まり



「・・・・もう一度、言え」


夜叉王丸は怒気を抑えた声で跪く兵士に尋ねた。


鎧からジャケット姿になったが、戦が終わって間もない事から殺伐とした雰囲気を出していた。


「・・・・は、はい。ヴァ、ヴァレンタイン子爵殿は、せ、戦死したと・・・・・・・・」


兵士は夜叉王丸から放たれる気に怯え震える声で答えた。


「ほぉう。お前らの軍団では立派に戦った武将を殺すだけでなく一人だけ置いて行くような鬼畜なのか?天使が聞いて呆れる」


「そ、それは・・・・・・」


「何だ?文句があるならヴァレンタインを連れて行け」


ギロリと兵士を睨み下ろす夜叉王丸。


「あ、いえ・・・・・その・・・・・・・・・」


兵士は夜叉王丸の威圧的な態度に怯えた。


しかし、直ぐに夜叉王丸は視線を逸らした。


「・・・行け」


地を這うような声を聞いて兵士は礼もせず一目散に部屋を出て行った。


夜叉王丸がいる場所は天界と魔界の境界線に立つバルト。


ベルゼブル達は先に魔界に帰還したが、夜叉王丸はジャンヌ達を迎えに行くために立ち寄った。


そして、夜叉王丸との戦いで傷ついたヴァレンタインの治療の為だ。


夜叉王丸との戦いを終えた後すぐにヴァレンタインは捕虜となったが人道的な扱いを受けて捕虜交換を待っていたが、それは兵士の言った言葉で適わなくなった。


『・・・・くそ。何て奴らだ』


ギリッと唇を噛みながら夜叉王丸は怒りを抑えた。


「・・・貴方が怒る必要はないわ」


夜叉王丸に静かに声をかけたのはベッドに上半身を起こしていた他ならぬヴァレンタインだった。


左足には包帯と固定具が巻かれていた。


「それに、戦死って扱いも悪くないわ」


どこか悲しげに笑いながら呟いた。


「捕虜になったなら家の恥に、婚約者の家の恥にもなるけど、戦死なら恥にはならないわ」


「・・・・婚約者がいたのか」


「えぇ。ユニエールっていう侯爵家の長男。とても優しくて紳士な方よ。本当なら子爵の私とは歴然とした差があるのに婚約してくれたの」


嬉しそうに話していたが、でも、と付け加えるヴァレンタイン。


「私が捕虜になったと聞けば、あの人の恥になる。だから、戦死で良かったの」


夜叉王丸は何も言えなかった。


勝者が敗者に掛ける言葉など慰めであり嫌味でしかない。


「・・・・私、どうなるのかしら」


天井を見上げて誰に言う訳でもなく呟いた。


『・・・・前例がない以上は分からんな』


過去の一度も、こんな状態にならなかった事で夜叉王丸は考えた。


捕虜なら、しかも貴族なら和睦などの良い条件を付けられたが戦死扱いとなると何も出来ない。


戦略価値もないなら殺すのが常套手段だが、夜叉王丸はヴァレンタインを殺す気にはなれなかった。


価値も無く家族にも見放されたヴァレンタイン。


それは、過去の自分に似ていた。


同情は、自己満足に過ぎない。


しかし、夜叉王丸は同情などよりもヴァレンタインが哀れでならなかった。


『・・・・・くそっ。どうすれば良いんだ』


考えに苦しんでいるとドアを叩く音がした。


「誰だ?」


「ダハーカだ。美夜ちゃんが呼んでる」


ドア越しに掛けらた声に返事をするとヴァレンタインをちらりと見て部屋を出た。


「美夜ちゃん。どうかした?」


案内された場所に行くと一人で美夜がソファーに座っていた。


「あの、ヴァレンタインさんの事なんだけど・・・・・・・」


どこか鎮痛そうな表情をする美夜を見て夜叉王丸は理解した。


「彼女は戦死者として天界に帰る事を許されなかったよ」


美夜は悲しげに沈黙した。


ダハーカもどこか同情的な表情をした。


「・・・その彼女、どうなるの?」


「前例がないから俺にも分からないんだ」


「・・・・ねぇ。彼女、魔界に連れて来れない?」


美夜の言葉に夜叉王丸とダハーカは目を見張った。


「どこにも行く宛がないなら面倒を見れないかな?客人として迎えれば」


「・・・・なるほど。確かに、その手があったな」


夜叉王丸は頷いた。


かなり危険ではあるが、今の状態で放り出す訳にもいかない。


「分かった。ヴァレンタインに話してみるよ」


美夜に礼を言って夜叉王丸はヴァレンタインの部屋に戻って客人の事を話した。


「・・・・私を客人として?」


「あぁ。王妃から頼まれた」


ヴァレンタインは夜叉王丸の言葉が理解できない顔をしていた。


「俺としても、あんたみたいな武将は丁重に扱いたいと思っている」


「・・・・・・・・・」


「無理にとは言わない。だけど、もし良ければ魔界に来てくれ。俺も出来るだけ、力になる」


励ます口調で言うと夜叉王丸はヴァレンタインの部屋から出た。


部屋を出るとすすり泣く小さな嗚咽が聞こえてきたのを敢えて聞かないようにした。


ヴァレンタインの部屋を出た夜叉王丸はジャンヌの所へ向かった。


ジャンヌの所へ行くと真夜、ソフィー、シャルロット、シルヴィア、月黄泉、緋夜と一緒に談笑していた。


「あ、ひーてん」


夜叉王丸の姿を見ると真っ先に真夜が飛び込んで来た。


「おぉ、真夜。久し振りだな」


ポンポンと真夜の頭を撫でる夜叉王丸。


殺伐とした府に気を一掃させて大らかな雰囲気を出した。


「お帰りなさいませ。飛天様」


水色のワンピースを着たジャンヌが優雅に一礼した。


「あぁ。ただいま」


ジャンヌに笑みを返した。


「皇子様。ヴァレンタインは?」


シルヴィアが真剣な顔つきで聞いてきた。


一人の武将としてヴァレンタインの事を気にしていたのだろう。


「天界では戦死者として扱われて帰還できないから魔界で引き取ることにした」


胸元に抱く真夜の髪を撫でながら言った。


「引き取り相手は?」


シャルロットが気になった様子で聞いてきた。


「んー、たぶん俺かな?」


「俺が倒したし他の奴らだと信用が怪しい」


「しかし、敵であった者を皇子様の屋敷に住まわすなど」


シルヴィアがうろたえた口調で喋った。


「まぁな。だけど、あいつを放っておく訳にもいかん」


「それに、あいつは寝込みを襲うような性格じゃない」


どこか断言した口調で言う夜叉王丸にシルヴィアは口を閉じた。


「流石は妾の惚れた殿方。敵にも情けを掛けるとは天晴れじゃ」


月黄泉が近寄って夜叉王丸の頬に触れた。


「つーきーよみー。あっぱれってなぁに?」


真夜が夜叉王丸にしがみ付いたまま尋ねた。


「素晴らしいという意味よ。真夜ちゃん」


月黄泉の変わりに緋夜が答えた。


「ひーてんは、あっぱれー」


真夜が手を叩いて笑った。


その光景を見て皆は顔を綻ばせた。


ヴァレンタインの身柄は夜叉王丸が引き取る事をベルゼブルに報告すると予想していたのかすんなりと了承された。


三か月後に夜叉王丸は真夜達を連れて魔界へと帰還した。


天魔史上に、その名を残す飛天夜叉王丸。


彼の傍には常に大勢の妻たちが存在していた。


そして大勢の妻たちの中には、ジャンヌ、シルヴィア、ソフィー、シャルロット、月黄泉、緋夜、ヴァレンタイン、真夜の名前が名簿に載っていた。


悪魔な男爵第一部、完

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