第三十五章:第2ラウンド
戦場から離れた夜叉王丸とヴァレンタインは少し離れた場所に来ていた。
「ここなら邪魔者はいない」
夜叉王丸は翼を出したまま朧月を右肩に掛けた。
「・・・・・・・・」
ヴァレンタインは鎌を両手で持って右脇に構えた。
「・・・ッ」
左足が痛いのか唇を噛んだ。
「・・・行くぞ」
夜叉王丸は朧月を正眼に構えて一気に間合いを詰めた。
「はっ!!」
朧月を上段から振り下ろした。
ヴァレンタインは身体を斜めに動かし避けると鎌の石突きで夜叉王丸を攻撃してきた。
石突きを交わすと第二撃として右脇に構えた鎌が襲い掛かって来た。
「ちっ」
頭を低くして避けると間合いを取った。
「なるほど。昨日とはまったく違うな」
「ふっ。私を甘く見るな」
得意気に笑うヴァレンタイン。
『プレッシャーに負けたな』
昨日は全軍の前で戦った事からプレッシャーに負けたのだろう。
「・・・・俺も少し本気で行くか」
夜叉王丸は翼を仕舞い背中の鞘に朧月を収めると左脇に構えた。
日本剣術独自の武術である居合の構えだ。
「・・・さぁ、来な」
右手の親指を朧月の柄に掛けて不敵に笑う夜叉王丸にヴァレンタインは何かを感じたのか気を引き締めた。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
互いに睨み合っていたがヴァレンタインが先に動いた。
「てや!!」
奇声を上げながら鎌を下段から斬り上げた。
しかし、それよりも速く夜叉王丸が朧月を抜いてヴァレンタインの首に襲い掛かった。
「甘い!!」
だが、ヴァレンタインは鎌を捨て鎧から赤い布を取り出して目の前に出してた。
「何っ!!」
朧月が空を切って手応えがない事に夜叉王丸は驚きの声を上げた。
「貰った!」
右から声が出て来て向きを変えるとヴァレンタインが両刃の長剣、ロングソードで斬りかかって来た。
この剣は騎兵が使う為に作られた物で通常の剣よりも長い造りになっている。
しかし、重量という訳でもなく片手でも操れる事でサーベルと同じ位に重宝されている。
夜叉王丸は咄嗟の事で反応が遅れて完全に交わし切れず顔に付けていた仮面に傷が衝いた。
「まだまだ!!」
ヴァレンタインは間を置かずに突きを入れてきた。
それを何とか交わすと夜叉王丸は間合いを取った。
『・・・こりゃ思っていた以上に強敵だな』
自分の見方に少し呆れながら夜叉王丸は再び居合の構えをした。
ヴァレンタインはロングソードを右手で突きの構えをして赤い布を左手で持った。
その姿は牛を迎え撃つ闘牛士のようだ。
「・・・・・・」
夜叉王丸はヴァレンタインの間合いを詰めると上段から斬り降ろした。
ヴァレンタインは布で受け流して再び突きをしてきた。
今度は交わし切れずに左胸を抉った。
「やった!!」
歓喜の声を上げたが夜叉王丸の身体は黒い羽根へと変わった。
「な、にっ・・・・・・・・!!」
眼の前に黒い羽根が広がるのをヴァレンタインは茫然とした。
「・・・・・ハッ」
上から殺気を感じて見上げると夜叉王丸が翼を出して突きをしてきた。
「くっ」
避けようとしたが左足が痛んで動けずに右肩を突かれ横に抉られた
「・・・・ぐっ」
激痛が肩を襲い思わず呻き声を上げた。
「・・・黒羽静夜暗殺剣、旋風の舞」
剣を落として肩を抑えながらも地面に膝を着かないヴァレンタイン。
「その闘志は見事だ。だが、その腕では戦えないだろ?」
夜叉王丸は故意に剣を握る右の肩を狙ったのだ。
「ま、まだだ!私にはまだ切り札がある!!」
ヴァレンタインは瞳に魔術を込めた。
「デス・アイ!!」
瞳から強力な魔術が放たれた。
このデス・アイとは死天使の隊長だけが操れる技で瞳に魔術を込めて相手を見て呪殺する技だ。
しかし、夜叉王丸はデス・アイを受けても倒れなかった。
「な、何で・・・・・・・・」
ヴァレンタインは茫然としたが、敗北を認めたのか大人しくなった。
「殺せ。貴様に殺されるなら武将として本望だ」
諦めの声でヴァレンタインは瞳を閉じた。
しかし、夜叉王丸は朧月を鞘に収め背中に背負い背を向けた。
「ま、待て!なぜ殺さない?!」
背後でヴァレンタインが声を荒げて聞いてきた。
「あんたは殺すには惜しい。だから、殺さない」
背を向けたまま答えた。
「殺せ!敵に情けを掛けて行き残りたくない!!」
ヴァレンタインの声は涙声に変わっていた。
「・・・だったら、自分で自害しろ」
それだけ言うと夜叉王丸は背を向けて歩き出した。
「待て!殺せ!!私を殺せ・・・・・・きゃあ!!」
背後を振り返るとヴァンタインの身体に無数の矢が突き刺さり夜叉王丸にも襲い掛かって来た。
「ちっ!」
朧月を抜いて矢を切り捨てるとヴァレンタインを庇うように立った。
「何者だ?姿を見せろ」
ドスのきいた声で矢の放たれた場所に言うと周りを囲むようにして兵士たちが出てきた。
「初めまして。飛天夜叉王丸殿」
兵士たちの中から上官らしき男が出てきた。
「お前、味方であるヴァレンタインを何で殺そうとした」
「我が軍は彼女のような恥さらしを生かしておくほど甘くありません」
男は人差し指で頬を撫でた。
「昨日の余興を言っているのか?」
「はい。この女は推薦されながら負けた。まさしく天使の恥です」
ヴァレンタインは何も言えずに俯いた。
「おまけに足を怪我して汚名返上とばかり今日も挑んだのに貴方様に二度も敗北するという情けなさ」
蔑む言葉を出すと周りを囲む兵士たちも笑いだした。
「・・・・・・・・」
夜叉王丸は何も言えずに黙るヴァレンタインをちらりと見た。
恐らく昨日も言われたのだろう。
「女でありながら死天使の実働部隊の隊長を務めるのも甚だしいのに、更に負けるなど生かしておく必要はありません」
「貴方様にも死んで頂きます」
兵士たちが弓を引き絞った。
「・・・お前ら屑に殺されるほど俺は雑魚じゃない」
夜叉王丸は右の眼帯を外して真紅の瞳を露わにした。
「貴様らは、この場で八つ裂きにしてやる」
朧月を右上段に構えた。
「たった一人で一個師団を相手にする積りですか?」
馬鹿にした口調で夜叉王丸を見た。
「戯言はそれだけか?」
夜叉王丸は朧月に魔力を込め始めた。
「幾多の屍を作り、その身を血に濡らし続けた蛇神、夜刀ノ神よ。その力で目の前の敵を一掃したまえ・・・・・・蒼月刃!!」
朧月から蒼い刃が放たれると同時に四方から矢が放たれた。
放たれた矢は一瞬で消滅して男と周りを巻き込むと爆発を起こし周りにいた兵士たちも消滅させた。
「ふん。雑魚が」
唾を地面に吐いて夜叉王丸は朧月を持ったまま唾を広げると何処かへ飛んで行き残されたヴァレンタインは目の前の現場を呆然としていた。
天魔大戦は三日間も及び双方ともに限界まで発達して双方の痛み分けという事で決着が着いた。
この三日間の激戦で双方の兵士が死に絶えた。
四日目の朝に七つの大罪と七大天使は双方の意志で和睦する事になった。
和睦の条件として
1、互いの領土を侵略または占領しない。
2、これからは互いの存在を認める事。
3、どちらかが第三世界の種族、国家に攻撃された場合は互いに助ける事。
の三カ条だ。
戦が終わると互いに捕虜などを送り返したりして七日後に領土へ戻って行った。
ただし、一人だけ天界へ帰還する事が許されない人物がいた。
死天使第七十部隊、隊長レオノチス・ヴィクトリア・ヴァレンタインだ。
えー、お久し振りです。ドラキュラです。かなり時間が掛りましたが悪魔な男爵の一部が完結です。
これからも二部、三部と続きますが、次の更新は何時になるか分かりません。
今度は現代物を書きたいと思いますので宜しくお願いします。