第三十四章:隻眼の天使殺しVS紅の堕天使
地上で大勢の双方の兵たちが見守る中で夜叉王丸とヴァレンタインの戦いは始まろうとしていた。
夜叉王丸は飛竜姿のダハーカに乗り朱鷹を構え天馬に乗ったヴァレンタインは大鎌を肩に掛けていた。
天魔両兵士が開戦のラッパを鳴らした。
「・・・・・・」
「死ね!!」
音を合図に天馬を片手で操りながらヴァレンタインが夜叉王丸の左肩を目掛けて鎌を振り下ろしてきた。
夜叉王丸は冷静に太刀筋を呼んで朱鷹で受け止めて横に受け流すと素早くヴァレンタインに突きを入れた。
「はっ!!」
ヴァレンタインは夜叉王丸の突きを交わし再び振り下ろそうとしたが、朱鷹の払いを諸に右脇腹に食らった。
「・・・・くっ」
僅かに顔を歪めて天馬から振り下ろされそうになったが、立ち直り夜叉王丸と距離を置いた。
『噂通りの強さだな。伊達に女で隊長を務めている訳ではないようだ』
ヴァレンタインの攻撃に感嘆しながら夜叉王丸は左手でダハーカの手綱を掴んだ。
「今度は俺らから仕掛けるぞ」
「了解」
夜叉王丸はダハーカに乗ったまま荒い息をしていたヴァレンタインに突っ込んだ。
「むんっ」
朱鷹を左斜めから振り下ろすとヴァレンタインは苦痛に顔を歪めながらも大鎌で朱鷹の攻撃を受け止めた。
どうやら夜叉王丸が与えた一撃が大きかったようだ。
それでも攻撃の隙間を見ては反撃するヴァレンタイン。
兵士たちは夜叉王丸とヴァレンタインの空中戦に息を飲んだ。
飛竜に乗る夜叉王丸と天馬を操るヴァレンタイン。
通常は天馬の方が飛竜に比べて劣るのだがヴァレンタインは天馬を巧みに操り夜叉王丸と互角の勝負を見せていた。
戦いを始めてから一時間が過ぎた。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
ヴァレンタインは荒い息をしながら大鎌を構えた。
対して夜叉王丸は息切れ一つせずにいた。
「その武器、お前専用に作られた武器じゃないだろ?」
「・・・何故、分かる?」
「見てて動きがギコチない」
夜叉王丸の言葉が図星だったのかヴァレンタインは何も言えずに押し黙った。
「これからも使い続けると身体が持たないぞ?」
「だ、黙れ!!」
ヴァレンタインは何かを振り切るかのように大声を発して天馬を操り夜叉王丸の頭上に着くと大鎌を振り下ろした。
しかし、それよりも速く夜叉王丸がヴァレンタインの鎌を振り払って後方に飛ばし天馬の翼を斬り落とした。
天馬は悲鳴を上げてヴァレンタイン諸とも地上に落下した。
魔界軍は歓喜の声を上げて天界の軍は悔しげに歯ぎしりした。
その日の戦いは終わった。
翌日の早朝に戦いは再び幕を開けた。
「突っ込め!奴らを皆殺しにしろ!!」
背中の朧月を抜いて夜叉王丸は天馬を斬りながら下の兵士に指示をとばした。
ヴァレンタインとの戦いで朱鷹は刃こぼれ一つしなかったが、今日は念のため朧月を使用している。
この太刀は抜刀に適した打ち刀とは違い反りが強くほぼ垂直になっている。
通常の数倍はある長さの刀を夜叉王丸は片手で使い天使軍を軽く一振りで五人は片付けていた。
圧倒的な戦いをしていると背後から名を呼ばれた。
「・・・・昨日は、油断したが今日は負けない」
天馬には乗らずに翼を出して飛んでいるヴァレンタインが立っていた。
左足は木の棒と布で固定されていた所を見ると昨日の戦いで天馬と一緒に地面に叩きつけられた時に足を折ったのだろう。
「・・・昨日で勝負は着いただろ?」
眼を細めながら夜叉王丸はヴァレンタインを見た。
隈の辺りが赤くなっていて髪も乱れていた。
恐らく仲間の前で敗北したのが悔しくて涙でも流したのだろう。
「昨日は油断しただけだ。だが、今度は負けない」
鎌を構えるヴァレンタイン。
しかし、足が痛むのか苦痛に顔を歪めていた。
「・・・・・・・・・・」
夜叉王丸は断っても戦うだろうと分かったのでダハーカから降りて翼を出した。
「ダハーカ。俺はヴァレンタインを相手にする。お前は、他の奴らを叩け」
ダハーカは頷くと天使軍に襲い掛かって行った。
「なぜ飛竜から降りた?」
「お前が天馬に乗っていないのに俺だけが乗る訳にはいかない。騎士としての貴殿に対する礼儀だと思ってくれ」
馬鹿にした口調でもない様子をみてヴァレンタインは夜叉王丸に一礼した。
ヴァレンタインなりの感謝の表わし方なのだろう。
「ここでは、外野が煩い。どこか離れた場所でしないか?」
夜叉王丸の提案にヴァレンタインは無言で頷いて、その場から離れた。