第三十二章:天魔大戦
軍議を終えてから半年後に天界から宣戦布告の手紙が送られてきて魔界は直ぐに兵を上げた。
「皆の者!今日こそ我らを地獄に追い込んだ憎き天界を撃ち滅ぼすぞ!!」
ベルゼブルは私兵である蝿騎士団の前で演説した。
「おぉ!!」
演説が終わると騎士団は剣を抜き高々と掲げた。
「さぁ!行くぞ!!」
ベルゼブルが先頭を切ってユニコーンに乗って走ると護るようにビレト、ザパンが並んで後ろに蝿騎士団が続いた。
サタン、ルシュファー、ベリフェゴール、レヴィアタン、マモン、アスモデウスも続く様に各々の軍団を率いた。
夜叉王丸の軍団も後に続いて進軍を始めた。
飛竜が空を駆け巡り鎧に身を包んだ兵士たちが地面を隙間なく覆い尽くした。
天界と戦う場所は双方の境界線で何もない平地だった。
境界線まで行くと天使軍が先に到着していてミカエル率いる七大天使達が兵を後方に下がらせて白銀の鎧に身を包んで悪魔軍を見つめていた。
ベルゼブル率いる七つの大罪と夜叉王丸も兵を後方に下がらせて進み出てミカエル達と眼と鼻まで近づいた。
「・・・・久し振りですね。兄上」
ミカエルが漆黒の鎧に身を包んだルシュファーに碧色の瞳を向けて口を開いた。
「久し振りだな。ミカエル」
アイスブルーの瞳を冷たい氷のように鋭くさせてミカエルを睨んだ。
神の右の席に座る事を許された天使長ルシュフェール。
今は双子の弟であるミカエルが受け継いで天使長を務めている。
双子の天使は無言で睨み合ったままだ。
夜叉王丸は七大天使の中で唯一白銀の鎧ではなく漆黒の鎧に身を包んだ白銀の女性を睨んだ。
女性は夜叉王丸の視線に気づくと煌々とした深紅の眼差しで見つめてきた。
「・・・・今日こそ、貴様の首を取ってやる」
朱鷹を女性の眼筋で止めてドスの籠った声で喋る夜叉王丸。
「嬉しいわ。その眼。少しも変わってないわね」
まるで名刀みたいに鋭い瞳だと言って恍惚とした眼差しで夜叉王丸を見つめる女性は死天使長、サリエル。
「ふん。貴様こそ相変わらず胸糞悪い笑みを浮かべるな」
吐き捨てるように言う夜叉王丸。
二人の会話を七つの大罪も七大天使も黙って聞いていた。
「・・・必ず貴様の首は頂く。そっちの“偽善者”の首と一緒に、な」
サリエルの隣に控えめに立つ女性も睨む夜叉王丸。
「・・・・・飛天」
癖のかかったブラウンの髪を靡かせながら女性はサリエルとは対照的に悲しそうに見つめてきた。
「その憐れむ瞳を抉り出して魔獣の餌にしてやるよ。ラファエル」
口端で笑う夜叉王丸に女性、ラファエルは悲しげに視線を逸らした。
暫く互いに睨み合っていたが双方ともに背を向けて軍に戻ろうとした時にミカエルが夜叉王丸を呼び止めた。
「・・・私の恋人を救ってくれたこと感謝する」
一瞬なにを言っているのかと首を傾げたが、直ぐにバルト戦で助けた天使の娘だと分かった。
「別に戦いで民間人が死ぬのは嫌いだからな」
背中を向けたまま突き放した口調で言うと夜叉王丸はベルゼブル達の後を追った。
どちらからともなく開戦の合図であるラッパを鳴らした。
ここに例を見ない大戦、天魔大戦が幕を開けた。