第三十一章:作戦会議と援軍
一週間が経ちジャンヌ達を護衛して夜叉王丸の軍団はバルトに旅立った。
山道を超えて三日目の夕方にバルトに入った。
「・・・・戦が終わり次第に必ず迎えに来る」
心配そうに馬上の夜叉王丸を見上げるジャンヌに笑い掛ける夜叉王丸。
「死なないで下さいね」
ポロリと一筋の涙を流すジャンヌ。
「大丈夫だ。お前の為に死なない」
夜叉王丸はジャンヌの頭を一撫でして軍団を率いて魔界へと帰還した。
魔界へ帰ると直ぐに城に召喚されて軍議に参加させられた。
軍議に参加しているのは七つの大罪と王族、軍と騎士団の上層部であるバール、エギュン、リヴァイアサン、フォカロル、ビヒモフなどが参加している。
「先ず、何処で戦をするかだ」
ベルゼブルがテーブル上に置かれた魔界の地図を見た。
「・・・敵は恐らく北部から来ると思います」
「確かに最短距離だが、境線にある要塞バルトを取られている。その上、屈強な軍が護る北から来るだろうか?」
陸軍大将のビヒモフが異議を唱えた。
「寧ろ防御が手薄である西や南から来るのでは?」
「それでは進軍に時間が掛る。それでは我らに反撃の時間を与える」
「四方から攻めるのでは?」
「それは戦力を分割して無駄な死を招くだけだ」
「逆に我らから進軍してはどうでしょうか?」
リヴァイアサンが進軍を申し立てた。
「しかし、手薄を狙われては元も子もない」
フォカロルが慎重な意見を述べた。
「飛天。お前はどうだ?」
皆が論争する中で静寂を護っていた夜叉王丸にベルゼブルが聞いた。
「進軍だな」
「敵も総力戦で来る筈だ。それなら俺らも答えるのが戦場の礼儀ってもんだろ?」
気高い天使様へのと笑いながら喋る夜叉王丸。
「確かに。飛天の言う通りでもある」
「・・・・・殿」
音もなく鵺が会議室に現われた。
数人の者は驚いたがリヴァイアサンやフォカロルなどは驚きもしなかった。
「どうした?何か情報でも手に入れたか?」
「はっ。どうやら敵は真正面から我らと戦うようです」
「下手な小細工は無しで挑む気か」
「恐らくは・・・・・・・・」
「分かった。引き続き情報収集に当たれ」
鵺は一礼すると姿を消した。
「・・・・これで腹は決まった」
ベルゼブルは椅子から立ち上がった。
「魔界軍は正面から天界の軍を迎え撃つ。良いな?」
威厳ある言葉で辺りを見ると皆は黙っていた。
その後はどの軍を配備するか戦陣から戦略、防御策などを話し合って三時間くらいして小休憩を挟む事にした。
「夜叉王丸様。お客様が見えていますが?」
部屋を出て窓際で一服しているとメイドが話し掛けてきた。
「客?」
「はい。何でも是非ともお会い・・・・・・・」
最後まで言う前にメイドを押し退けて二つの影が夜叉王丸の胸に飛び込んで来た。
「お久し振りです!飛天様!!」
「久しいな。飛天!」
「緋夜!月黄泉!」
夜叉王丸は二人の登場に驚きの声を上げた。
「戦があると聞いたので援軍に駆け付けました」
「主の為に兵を率いて参ったぞ」
二人はスリスリと夜叉王丸の胸元に甘えてきた。
メイドの方を見ると何が何なのか解らずに混乱していた。
「ちょっと何時まで飛天様に抱き付いてるのよ。女狐」
緋夜が真紅の瞳で月黄泉を睨んだ。
「何を言う。そちらこそ妾の飛天から離れろ。鳥娘が」
二人が睨み合っていると騒ぎを聞き付けたシャルロットとシルヴィアが駆け付けてきた。
「貴様ら!皇子様から手を放せ!!」
「ちょっと飛天様から放れなさいよ!?」
「貴方達!私の飛天に何をしてるのよ?!」
「飛天から放れなさい!!」
更にペイモンとベリフェゴールが加わって事態は急展開になり始めた。
六人の美女が睨み合って周りは険悪なムードになった。
互いに牽制し合う六人に夜叉王丸は嘆息した。
「月黄泉。緋夜。止めろ」
夜叉王丸の声を聞くと直ぐに睨み合うのを止めた。
「戦が起きるって誰に聞いたんだ?」
「妖怪王から聞きました」
緋夜が月黄泉を押し退けるように答えた。
「魎月が?」
「はい。父上も飛天様を助けるようにと言われましたので来ました」
「月黄泉は?」
「妾も妖怪王から聞いたのじゃが、新しく設立した隠密部隊からも聞いた」
「何だ?お前、作ったのか?」
夜叉王丸が意外そうな顔をした。
「うむ。主が進めてくれたからな」
するりと夜叉王丸に擦り寄る月黄泉。
十二単から放たれる侍従の香が鼻を刺激した。
「作って損はなかっただろ?」
「うむ。損どころか益があったわ」
主に会えるという益だと笑う月黄泉。
後ろでは緋夜達が憤怒の表情をしていた。
それに危機感を感じたのか優しく月黄泉を夜叉王丸は引き離して距離を置いた。
「まぁ、援軍に来てくれたのは感謝する」
夜叉王丸は緋夜と月黄泉に頭を下げた。
「いいえ。飛天様の役に立てるなら・・・・・・・・」
「主の為なら何でもすると言ったじゃろ?」
仲良く?夜叉王丸に甘える緋夜と月黄泉をシャルロットとシルヴィアにペイモンとベリフェゴールは親の仇とでも言わんばかりに睨んでいた。
休憩時間が終わると夜叉王丸はベルゼブル達に月黄泉と緋夜が援軍に来た事を伝えた。
「ほぉう。援軍に駆け付けて来るとは大したものだ」
感嘆したように喋るベルゼブル。
「その二人の軍はお前に預ける」
他の者も異議なしと言った。
「これより天界との戦の準備をする。十分な準備をしておくように」
ベルゼブルの言葉で軍議は幕を閉じた。
緋夜と月黄泉の軍は双方を合わせて五千と二百。
妖獣大戦の傷痕が未だに消えない事もあり思うように集まらなかったらしいが、それでも少数の軍団である夜叉王丸にとっては有り難かった。
緋夜の率いた軍には将皇の姿もあり夜叉王丸との再会を喜び恩を返すと意気込んでいた。
緋夜と月黄泉の軍団を連れて屋敷に帰ると部下達に緋夜と月黄泉の事を説明した。
「以上で説明は終わる。取り合えず何時でも戦えるように準備はしておけ」
軍団長の夜叉王丸の言葉に兵士たちは頷いて兵舎へ戻った。
夜叉王丸も和風の自室に戻り押入れの中に布で巻いて仕舞っていた朧月や朱鷹、村正などを取り出した。
「・・・・・・・」
朧月を無造作に抜くと青白い光が妖しく輝いて夜叉王丸の瞳に映った。