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第三十章:悪い予想

ジャンヌに鎖を断ち切ってもらってから既に三年の時間が過ぎた。


その間に夜叉王丸の軍団である風の翼では変化が起きていた。


民間医だったソフィーが正式な軍医として風の翼に配属されたのだ。


妖獣大戦を機に大きな戦は起きなかったが小さな小競り合いなどが頻繁に起きていたので夜叉王丸の軍団も戦っていた。


その度にソフィーは参加していた事で正式に軍医として働きたいと夜叉王丸に進言してきた事で軍医となった。


ソフィーの他にも何人かの医者が軍医として参加してきた。


しかし、戦がない時は民間医として万魔殿の民衆の治療をしている。


今は戦もないので夜叉王丸は桜の木の下で昼寝をしていた。


そこに近づく小さな影があった。


影は夜叉王丸の前で止まると小さな手で夜叉王丸を揺さ振った。


「ひーてん」


幼い声で夜叉王丸の声を呼んだが夜叉王丸は眠ったままだった。


「ひーてん!ひーてん!!」


起きない夜叉王丸を小さな手は何度も揺さ振った。


「まぁ、真夜様。入らっしゃったのですか」


ジャンヌが幼子、真夜に話し掛けた。


「あ、ジャンヌー。ひーてんが起きないの。遊んでくれるって約束したのに」


真夜は金色の可愛らしい瞳を輝かせながら頬を膨らませた。


「飛天様。起きて下さい。真夜様が来ていますよ」


ジャンヌが鈴を転がしたような声で夜叉王丸に話しかけると直ぐに眼を覚ました。


「ん?おー、真夜。来たのか」


寝ぼけた眼差しで真夜の黒髪を優しく撫でた。


「むー、遊んでくれるって言ったのに」


真夜は頬を膨らませて睨んだ。


「悪い悪い。寝不足でな」


ポンポンと真夜の頭を撫でる夜叉王丸。


「ひーてんは何時もお昼寝してるね」


真夜の言葉に夜叉王丸は苦笑した。


「そうでもないぞ」


幼い真夜を軽々と抱き上げる夜叉王丸はジャンヌを促して歩きだした。


「あ、真夜!!来たのか?」


フェンリルが尻尾を振りながら夜叉王丸に抱かれている真夜に駆け寄った。


「フェン。こんにちは」


真夜は夜叉王丸から降りるとフェンリルの頭を撫でた。


「おぉ、真夜。いらっしゃい」


茨木童子が真夜の頭を撫でた。


「これは真夜様。ようこそ屋敷へ」


ヨルムンガルドも真夜の姿を見ると笑顔で出迎えた。


「真夜!!会いたかったぞ!!」


ダハーカは真夜を力いっぱい抱き締めた。


「く、苦しいよー」


真夜はジタバタ暴れた。


「おい。真夜様が苦しんでるぞ」


ゼオンがダハーカから真夜を奪い取った。


「大丈夫ですか?真夜様」


「うん。ありがとう。ゼオン」


真夜の笑顔を見てゼオンも釣られるようにして笑った。


三歳になった真夜は何度か夜叉王丸の屋敷を訪れるようになった。


勿論、護衛は一緒だ。


護衛はビレトとザパンの二人。


どちらも王族で叩き上げの軍人として名高い。


この二人の他にも夜叉王丸付きの護衛であるシルヴィアとシャルロットがいる。


本来なら夜叉王丸の護衛だと言って反対するのだが、夜叉王丸たっての頼みと真夜の護衛をすれば主人である夜叉王丸の屋敷に訪れられるという利益がある事で護衛をする事にした。


「シルヴィア達は?」


夜叉王丸がゼオンから真夜を受け取り尋ねた。


「玄関で待ってるよ」


「それじゃ迎えに行こうか」


真夜の頭を撫でながら夜叉王丸は玄関へと向かった。


玄関に行くと軍服に身を包んだビレト達が待っていた。


「ほぉう。珍しく低血圧ではないのだな」


ビレトが物珍しそうに言った。


「こいつが起こしたからな」


肩に抱き上げている真夜の頭を撫でた。


「まぁ、立ち話もなんだ。上がれ」


夜叉王丸はビレト達を屋敷へ招き入れた。


「いらっしゃいませ」


ジャンヌとメイド達がビレト達に頭を下げた。


「お久し振りだな。ジャンヌ殿」


ビレトとザパンはメイドであるジャンヌに頭を下げた。


彼女が夜叉王丸を三年前に救ってくれてから皇帝を始めとした王族から信頼されて敬意を表されるようになった。


「こんにちは。ジャンヌさん」


シャルロットが気さくに挨拶するとジャンヌも返答した。


母親が堕天使であるシャルロットは魔界で生きるジャンヌに強い感銘を受けて仲良くしている。


「・・・・失礼する」


ぶすっとした表情でシルヴィアも挨拶した。


貴族であり純血であるシルヴィアはジャンヌを下賎な天使風情と見下していたが夜叉王丸の逆鱗に触れた事で雷を落とされたため不服だが敬意を表している。


「まぁ、座れや」


夜叉王丸に勧められてビレト達が座った。


「真夜。少しジャンヌ達と遊んでてくれないか?」


何かを感じ取ったのか夜叉王丸は真夜を降ろした。


「えー!遊んでくれるんじゃなかったの?」


頬を膨らませる真夜。


「ちょっと話をするだけだ。直ぐに終わる」


「うん。分かった」


夜叉王丸の言葉を真夜は素直に受け入れた。


ジャンヌをちらりと見ると頷いてみせて真夜を抱き上げた。


「さぁ真夜様。私どもと遊びましょう」


「うん!」


メイド達と真夜が出て行くと客室は空気が重くなった。


「・・・何か遭ったのか?」


椅子に座った時にビレトとザパンの瞳に重大な事を隠していると夜叉王丸は見抜いた。


「あぁ。お前も知っていると思うが、天界に不穏な動きがある」


ビレトが重く口を開いた。


「まぁな。ベルゼブルに秘密警察があるように俺も鵺という頼れる奴がいる」


夜叉王丸が呼ぶと鵺が音もなく現れた。


「鵺。どんな情報を掴んだ?」


「はっ。私の掴んだ情報に寄れば天界が戦を仕掛けて来ます」


しかも大戦を、と付け加える鵺。


バルト戦を機に大きな戦は特に無かったが各地で小競り合いが勃発していて双方ともに大戦の準備をしていた。


表向きは互いに悟られまいと行動していたが、裏では秘密警察などが天界に侵入して情報を流してキャッチしていた。


「鵺の言った通りかい?おっさん」


夜叉王丸の言葉にビレトとザパンは頷いた。


「あぁ。良い部下を持ったな。飛天」


「まぁな」


淡泊な答えを返したが声色で誇っているのが分かった。


「恐らく類を見ない大戦になる。恐らく七大天使も全員が出る」


「・・・・・ほぉう。七大天使がねぇ」


夜叉王丸の瞳に一瞬だけ憎悪が浮き出たのをビレトとザパンは見逃さなかった。


「陛下はミカエルを倒したお前に期待している。頼むぞ。飛天」


ビレトとザパンの言葉に夜叉王丸は頷いた。


「安心しろ。飛天には俺らが付いている」


ダハーカの言葉にゼオン達は頷いた。


話を終えた後は真夜との約束通り遊んだ。


真夜が帰った後で夜叉王丸はジャンヌを自室へと呼んだ。


「・・・・近い内に大きな戦が起きる」


夜叉王丸の言葉にジャンヌは少し怯えた表情を浮かべた。


「俺は、ここも戦場になるかもしれない。だから、お前をバルトに避難させようと思う」


「他のメイドもお前の所に避難させる。それから、美夜ちゃんと真夜も一緒に避難させたいんだがどうだ?」


「私は飛天様の意見に従います」


ジャンヌは声が震えるのを感じた。


夜叉王丸が自分を避難させるという事は、とても大きな戦という事だ。


そうなったら夜叉王丸も前線に立つ事で危険に曝される。


「バルトまでは俺が護衛する」


「・・・分かりました」


ジャンヌは一礼して夜叉王丸の部屋から退出した。


一人になった夜叉王丸は懐からセブンスターを取り出して口に銜えてジッポライターで火を点けた。


「・・・八つ裂きにしてやるよ。あの女を・・・・・・・!!」


憎悪を露わにした表情で夜叉王丸は紫煙を吐いた。


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