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第二十九章:ずっと傍に

ジャンヌは気を揉んでいた。


今朝、夜叉王丸を起こしに部屋に行ったら既に夜叉王丸の姿はなかった。


誰に聞いても知らないと言っていた。


ダハーカ達も用事があると言って出かけて屋敷にはジャンヌを含めた使用人と風の翼の兵士だけだ。


夜になっても夜叉王丸は帰らなかった。


「・・・・飛天様」


もう寝ようかと思って寝室に向かおうとした時に玄関から音がした。


玄関の方へ向かってみると全身をずぶ濡れにした夜叉王丸が立っていた。


「飛天様!どうしたんですか?」


ジャンヌが駆け寄ると夜叉王丸は音も立てずに倒れるように前につんのめった。


「飛天様!!」


夜叉王丸を支えようとして抱き締めたが、体格の差で押し倒されそうになった。


何とか踏ん張って夜叉王丸を支えて、かなりの時間を労したが夜叉王丸の自室まで運んだ。


自室まで運ぶとキングサイズの質素なベッドに寝かせた。


酒の臭いがした事から恐らく飲んで来たのだろう。


「・・・・どうしてこんなに飲んだのかしら?」


普段の夜叉王丸は嗜む程度しか飲まないのに、今日は酔い倒れるまで飲んだのには何か理由があるはずだ。


しかし、詳しくは詮索せずにずぶ濡れの夜叉王丸を何とかせねばいけない。


「待ってて下さいね。直ぐにタオルを持ってきますから」


急いで部屋を出ようとしたが後ろから腕を掴まれて強い力で引き戻された。


「え?」


振り向いた瞬間に夜叉王丸に唇を奪われた。


「!!」


一瞬なにをされたか解らなかったが直ぐに理解して夜叉王丸を押し退けようとしたが太い腕で抱き締められた。


抱き締める腕は力強くも優しく壊れ物を扱うようだった。


「・・・・・神流」


抱き締められて耳元で囁かれる言葉。


「・・・神流?」


ジャンヌの声を聞いて夜叉王丸は意識を取り戻したのか、ゆっくりとジャンヌを引き離した。


「・・・・・・すまない」


夜叉王丸はジャンヌから目を背けて謝った。


「・・・大丈夫です」


高鳴る鼓動を抑えながらジャンヌは夜叉王丸を見つめた。


「・・・・神流とは恋人ですか?」


聞いてはいけないと理解していたが、口が勝手に動いて言葉を出した。


夜叉王丸は一瞬だけ驚いた顔をしたが直ぐに視線を逸らすと話し始めた。


「・・・・・神流は、俺が人間だった時の恋人だ」


恋人と聞いてジャンヌは胸が痛くなった。


「もっとも当の昔に死んでいるが、な」


どこか自嘲気味に笑う夜叉王丸。


「俺が無力だったから神流は死んだんだ」


「飛天様が無力?」


「あぁ。俺が弱かったばかりに神流は目の前で八つ裂きにされた」


「!!」


ジャンヌは息が止まった。


「神流は娼婦だった。だけど、俺はあいつが本気で好きだった」


それから夜叉王丸は自分の過去を話し始めた。


人間の頃は、魔術師の一家に生まれたが魔力がない事で一族から村八分にされて十八歳の時に家を出てフランスの外人部隊に入り戦場を駆け巡り数年後に日本に帰国して、神流と出会ったと・・・・・・・・・


「俺とあいつは結婚の約束をした。だけど・・・・・・・・あいつ等が、あの糞共が神流を殺した」


ギリッと唇を噛む夜叉王丸。


「娼婦を汚らわしい存在だと言って神流を殺した」


「俺は復讐に燃えて乗り込んだが、何も出来ずに敗れ去った」


「神流を殺したのに警察は権力の前に平伏してメディアも猟奇的殺人だと面白おかしく書いた。誰も、神流の死を悲しまなかった」


「神流を失った俺は、復讐のために人間を捨てた」


ジャンヌは夜叉王丸に何も言えなかった。


『・・・・何て悲しい方なの』


「悪魔になっても夢に出て来るんだよ。いつも悲しそうな瞳で俺を見て抱き締めるんだ」


「俺も抱き締めたが目を覚ますと神流も温もりもなく在るのは空虚だけだった」


「きっと神流は俺を怨んでいるのさ。俺が無力だったから見殺しにしたんだと。そして誰かを好きになれば、また何処かへ行ってしまうと言っているんだ」


悲しげに笑う夜叉王丸にジャンヌは何も言わずに抱き締めた。


服が濡れたが気にせずに夜叉王丸を抱き締めた。


「・・・・そんな悲しいことを言わないで下さい」


「神流さんは飛天様を怨んでなんていませんよ」


夜叉王丸の濡れた髪を愛しむように撫でた。


「・・・飛天様は何も罪を犯していません。だから、自分を責めないで下さい」


「大丈夫です。私が貴方の傍にいます」


ずっと傍で貴方を支えてみせる。


だから、そんな悲しい顔をしないで。


ジャンヌの言葉を聞いて夜叉王丸は涙を一筋、流した。


罪という名の鎖をジャンヌが経ち切ってくれたのだ。


夜叉王丸が涙を流す間ジャンヌはずっと抱き締めて頭を撫でていた。


幼い子供を慰めるような母親のようにして・・・・・・・・


ジャンヌに抱き締められながら夜叉王丸は何時の間にか眠ってしまった。


眠ってしまった夜叉王丸を抱き締めながら横にするとジャンヌも一緒に横になって二人で眠った。


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