第二章:侵攻開始
三日でバルト戦の準備を整えた夜叉王丸の軍団は早朝の内にバラテを出発した。
進行ルートとしては遠回りだが東から山道を伝って海を船で越えてからバルトに侵攻する事にした。
理由としては何度か戦場に赴く度にヘルブライ男爵やサタナエルの邪魔をされた為だ。
険しい山道を超えて、やっとの思いで海へと出た風の翼を地獄帝国の海軍と空軍が出迎えた。
「よぉ。飛天」
夜叉王丸の前に現われたのは紺色のフロック式軍服に身を包んだ地獄帝国海軍総督、リヴァイアサンと空軍将軍のフォカロルだった。
元はサタナエルの派閥に所属していたが夜叉王丸の器の広さに感心して酒飲み友達として仲良くしている。
「リヴァンにフォカロルか。どうした?軍艦と飛竜なんて引っ張って来て」
港町の者は何隻もの軍艦と大量の武装した飛竜を見て驚いていた。
「陛下からお前をバルトまで護衛しろと命令された」
「ベルゼブルが?」
「あぁ。お前なら山道を越えて海を渡ってバルトに入ると陛下が予想して俺とフォカロルに命令を下した」
「相変わらず情報収集が得意な義親父だ」
夜叉王丸は養父の素早い情報収集力に舌を回した。
「実際お前の動きは強ち間違いではないぞ。参道でヘルブライの野郎が軍を率いて待ち伏せしてる」
「それから、サタナエルの空軍が海の方でも待ち伏せしてると情報が入ったからフォカロルも追加された訳だ」
豪快に笑うリヴァイアサンに夜叉王丸は海の似合う男だと思った。
「まぁ、そういう訳だから早く乗れ」
「分かった」
夜叉王丸はゼオン達に軍艦に乗るように促してリヴァイアサンの軍艦に乗った。
「よぉし。野郎ども!出港だ!錨を上げろ!?」
「飛竜に乗り軍艦を護衛するぞ!!」
海軍と空軍の兵士は、それぞれ軍艦、飛竜に乗って準備を始めた。
およそ三分で準備を済ませると港を離れてバルトへと向かった。
リヴァイアサンの指揮する軍艦に乗った夜叉王丸は部隊長を集めて作戦会議を開いた。
部隊長を務める彼らは通称を風の13将と呼ばれていて夜叉王丸の側近を務め上に七魔将がいる。
「鵺の掴んだ情報によればバルトは崖を背にした形の要塞で城壁も二重になっていているらしい」
「壁が二重となると、俺の部隊で突き破れるか問題だな」
茨木童子は神妙な眼差しをした。
「侵入ルートは?」
ダハーカが日本製の煙草であるジョーカーを吸いながら夜叉王丸に尋ねた。
「崖から砲撃して壁を壊しつつ弓弩部隊の援護射撃を受けながら突撃部隊が城の中に入る手で行くのが良いんじゃないか」
「いや。それよりも戦車、騎兵部隊を正面に向けて敵の注意を逸らしてから侵入するのは如何でしょうか?」
副団長のゼオンと参謀のヨルムンガルドの意見は別れた。
「俺としては囮を使った方が良いと思うぜ。戦車や騎兵じゃ崖は登れんだろ?」
ダハーカの言葉に戦車と騎兵部隊の隊長は頷いた。
「軍団長。私の隊を囮に使ってください」
「同じく私の隊も囮に」
二人の部隊長の進言を聞いて夜叉王丸は重々しく頷いた。
「分かった。お前らの隊を囮にさせてもらう」
『はっ』
二人の隊長を低く頭を下げた。
「誰か異議はあるか?」
夜叉王丸が左右に並んだ隊長に聞いたが皆は無言だった。
それは異議なしという事である。
「・・・・今回の作戦は今までの城攻めとは違う。だが、俺はお前らが活躍するのを信じている」
「俺達の手で天界の城を落としヘルブライの鼻を明かしてやるぞ!!」
『おぉぉぉ!!』
夜叉王丸の言葉に部隊長は大声で答えた。
その声は部屋を突き抜けて他の軍艦や飛竜使いにも聞こえた。
「相変わらず夜叉王丸殿の軍議は大きな声を出すな」
「あぁ。提督の怒鳴り声より凄いんじゃないか?」
二人の水兵はマストの上で談笑していたが不意に何か遠くで光る物を見つけて望遠鏡を取り出した。
「・・・・・あれは、サタナエルの軍だ」
望遠鏡を覗きながら水兵の一人は、もう一人の水兵に合図の準備をしろと促した。
直ぐに傍を飛ぶ飛竜使いに水兵は赤い旗と白い旗を左右に振って敵襲の存在を教えた。
飛竜使いは合図を見ると猛々しい声を出す飛竜を操り水兵の差す方角へと向かった。
「おい。念の為だ。提督と夜叉王丸殿にも報告しておけ」
望遠鏡を覗きながら水兵は相棒の水兵に言った。
「了解した」
水兵は直ぐにマストから降りると提督室に向かいドアを開けた。
「提督。サタナエルの軍団がやはり待ち伏せしていました」
「こちらも攻撃準備をするように各艦に連絡を取れ。それから飛天にも伝えて置け」
「はっ」
水兵は短い敬礼をすると提督室を後にし客室で軍議を開いている夜叉王丸の元へ向かった。
「夜叉王丸殿。サタナエルの軍が待ち伏せしていました。ただいま飛竜騎士が迎撃に向かっております」
「そうか。分かった」
水兵は要件を伝えると部屋を出て行った。
「やれやれ。バルトに行く前から前途多難だな」
ダハーカは短くなったジョーカーを灰皿に押し付けながら溜め息を吐いた。
「あいつも飽きないな」
夜叉王丸はセブンスターを口に銜えた。
「・・・・・・・・・」
ヨルムンガルドが待っていたかのように懐からジッポライターを取り出してセブンスターに火を点けた。
「まぁ、フォカロルの軍が相手なら問題はないだろうな」
夜叉王丸は紫煙を吐きながら天井を見上げた。
フォカロルの軍団は飛竜使いの軍団で空中戦なら殆ど負けない。
「軍議も終わったし、俺は寝る。お前らも休んでおけ」
夜叉王丸は煙草を銜えながら部屋を出て他の隊長も部屋を出て軍議は終了した。
夜叉王丸が部屋に入り寝ようとした時にはフォカロルの軍団がサタナエルの軍団を壊滅させていた。
それから真夜中になって船は天界領のバルトに侵入を果たした。
通常ならば船でも三日の距離を半日で到達した軍艦の速さに風の翼の兵士は驚かずにはいられなかった。
「ありがとよ。リヴァン。フォカロル」
船から降りた夜叉王丸は和風鎧に身を包んでリヴァイアサンとフォカロルに感謝の言葉を言った。
「後は俺たちだけで行く。じゃあな」
夜叉王丸はユニコーンに乗り出発しようとしたがリヴァイアサンから呼び止められた。
「おいおい。俺たちはお前の護衛と言っただろ?バルトまで着いて行くぞ」
「リヴァンの言う通りだ。俺の軍団も着いて行くぞ」
これに夜叉王丸は渋面を浮かべた。
「心配するな。俺らは護衛だ。戦には手を出さねぇよ」
苦笑しながらリヴァイアサンは喋った。
「どうだかな。この前なんて身体がウズウズして我慢できないとか言って割り込んで来た癖に」
夜叉王丸は過去の事を言いながらユニコーンに乗って軍団を率いて行ってしまった。
「あっ、おい。飛天!!」
リヴァイアサンとフォカロルは慌てて軍団を率いて夜叉王丸の後を追った。