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第二十三章:望まれなかった子供

「・・・・・ん」


額に冷たい感触がして黒闇天は閉じていた瞳を開けた。


「・・・・ここは?」


辺りを見回して何処かの部屋だと分かった。


「気が付きましたか?」


ドアが開いて粥の入った器を持ってジャンヌが入って来た。


「頭の方は大丈夫ですか?」


ジャンヌに言われて黒闇天は馬から落ちて頭を打った事を思い出し頭痛がした。


「大丈夫ですか?」


器を木製のテーブルの上に置くとジャンヌは黒闇天の寝るベッドに歩んだ。


「ここは、何処ですか?」


黒闇天は敬語で尋ねた。


ジャンヌから放たれる気品さに圧倒されたのだろう。


「ここは宿です。気を失った貴方を飛天様が運んでくれたのです」


「飛天様?」


「気が付いたようだな」


再びドアが開き夜叉王丸が中に入って来た。


「お前はッ」


ベッドから起き上がろうとしたが頭痛が酷くなって額を抑えた。


「無理をしてはいけません」


ジャンヌが白い手で黒闇天を優しく抑えた。


その優しさが黒闇天には新鮮な感じがした。


「ここの主人に感謝しろよ。暴れたお前を休ませてくれたんだからな」


足を進めてジャンヌの隣に立つと威圧的な眼差しで見下ろした。


「・・・・お前の名は?」


「飛天夜叉王丸だ。こっちはメイドのジャンヌだ」


「そうか・・・・お前が“夜叉”の棟梁になった悪魔か」


納得したように頷く黒闇天。


「“夜叉”って何ですか?」


ジャンヌが夜叉王丸に尋ねた。


「仏教を護る八つの種族だ。男爵の爵位を得た時に天竺の友人から推薦されてなった」


“夜叉”とは仏教を守護する天竜八部衆の一種族である。


八部衆とは鬼神、戦闘神、音楽神、動物神などが仏教に帰依した護法善神の集団で天衆、龍衆、夜叉衆、乾闥婆けんだつば衆、阿修羅衆、迦楼羅かるら衆、緊那羅きんなら衆、摩羅伽まごらか衆の8つの種族を指す。


八つの種族には、それぞれの特徴や特技があり戦闘に置いては夜叉、阿修羅が随一の強さを誇っている。


「悪魔が善である仏教の守護衆になって良いのですか?」


というか他宗教に所属してはいけないのではないか?


「仏教の場合は天界みたいに戦闘で片を付ける気はないからな。寧ろ共存できるようにしてくれているから問題ない」


ジャンヌの不安を一掃した。


「自己紹介は終わったから質問させてもらうぞ。何であんな事をしたんだ?黒闇天」


自分の名前を呼ばれて黒闇天は目を見張った。


「市場の奴に聞いたが、毘沙門天殿の娘らしいな」


「ふん。世間的には娘じゃ」


「世間的?」


「そうじゃ。貴様も知っているじゃろ?毘沙門天殿と吉祥天殿には自慢の娘がいる事を」


「白明天殿か」


「白明天様とは?」


「俺と同じ八部衆に所属していて筆頭種族の“天”の棟梁を務める娘でこいつの姉だ」


「向こうは童を妹として認識してないわ」


「どうやら家庭に問題があるようだな」


夜叉王丸は目を細めた。


「童の容姿と身に宿った力が問題じゃ」


黒闇天は皮肉気に笑って話し始めた。


「両親の容姿と力を受け継いで生まれた白明天殿とは逆に童は容姿も似ず混乱と破滅を齎す力を持って生まれた」


「なるほど。だから、隠れて育ったのか?」


「自分から隠れたのじゃ。偏見と差別の眼差しから逃げる為に」


「そんな・・・・・・・」


ジャンヌは悲しそうな表情をした。


「主も似たような体験はしたじゃろ?夜叉王丸」


ジャンヌから背けるようにして夜叉王丸を瑠璃色の瞳で見た。


「まぁ、な」


ヘルブライ男爵達の差別と人間の頃に味わった屈辱を思い出し苦笑する。


黒闇天も恐らく生まれた時から蔑みと差別の眼差しを受けて来たのだろう。


「童だって好きで邪神の力など持って生まれてきた訳じゃない。それなのに・・・・・・・」


“邪神の屑が”、“出来そこない”、“一族の恥さらし”、“生きる資格なし”、“紫の髪に瑠璃色の瞳を持つ邪神”


数えれば切りがない蔑みの言葉を言われ続けたと話す黒闇天にジャンヌは深い悲しみがあると思った。


「周りから爪弾きにされて唯一の味方だと信じていた両親からも決別された」


“お前は娘じゃない”


「この言葉を言われた千五百歳の時に屋敷を出てインドに渡って、ラーヴァスと出会ったのじゃ」


「奴は魔王の子。邪神である童には似合う男じゃと思って付き合った」


「だが、奴は逃げたぞ。お前を置いて」


淡々とした口調で話す夜叉王丸。


「自分さえ良ければ他人など、どうなっても良い男じゃからな」


投げ槍な口調で話す黒闇天。


「童をどうする積りじゃ?」


「さぁな。あの木偶の棒はラーヴァナ殿に言って罰を与えて貰うが、お前の場合は毘沙門天殿に渡すのが筋だろ」


「渡すのか?」


「渡して欲しいのか?」


質問に質問で返されて黒闇天は苦笑いした。


「童としては渡されて欲しくないの。あんな“牢獄”に戻るのは嫌じゃ」


自分の生家を“牢獄”と称する辺り余程の悲惨な思い入れがあるのだろうと夜叉王丸は感じ取った。


「そうか。それなら、俺が罰を与える」


「どんな罰じゃ?」


投げ槍な口調で尋ねる黒闇天を見てジャンヌは『出来るだけ軽い罰』をと眼で訴えた。


「ここで働いて金を稼いで壊した物を弁償しろ」


「何じゃ?その罰は?」


黒闇天は拍子抜けした顔で夜叉王丸を見た。


「弁償も立派な罰だ。お前の性格も家庭問題から来たものだと市場の奴らも言っている」


胸を張って喋る夜叉王丸に黒闇天は可笑しいのか笑いだした。


「くっ・・・・・ははっははは。面白い男じゃ。初めてじゃぞ。主のような男は」


「・・・・良かろう。主の罰を受ける」


笑い終えた黒闇天は頷いた。


「宿の主人には話を付けてある。今日は粥を食べて休んで明日からでも働け」


「分かった」


「それじゃあな。後、何か遭ったら内に来い。客人として住ませてやる」


背を向けて部屋を出る夜叉王丸。


「それから、これ返す」


夜叉王丸は振り返って布団の上に扇を放った。


扇を投げると夜叉王丸は振り返らずに部屋を出て行った。


「黒闇天さん。弁償が終わったら魔界に来て下さい。力になりますから」


ジャンヌは黒闇天の手を優しく握ると笑い掛けた。


「と言っても殆ど力はありませんけど、それでも話し相手にはなりますから」


その笑顔が本当に自分を心配している顔で黒闇天は嬉しかった。


「・・・・はい。きっと行きます」


黒闇天はジャンヌに深く一礼した。


「それじゃ、身体には気を付けて下さいね」


握っていた手を放して黒闇天の頭を撫でると部屋を出た。


一人になった黒闇天はジャンヌが持ってきた粥を口にした。


温くなったが、優しさという温かさが含まれていて黒闇天の身体を温めてくれた。


宿の主人に黒闇天の事を頼み終えると夜叉王丸とジャンヌはインドを去り何処かへと旅に出た。


インドを後にした夜叉王丸とジャンヌは半年間の旅を終えて魔界に帰還した。


魔界に帰還した夜叉王丸を待っていたのは養父である皇帝ベルゼブルの結婚話だった。


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